引当金とは、将来発生する可能性が高く、その金額を合理的に見積もることができる費用や損失について、発生原因が生じた事業年度にあらかじめ計上しておく負債のことです。
引当金には、貸倒引当金や賞与引当金など様々な種類がありますが、退職金に関する引当金には、従業員を対象とした「退職給付引当金」と、役員を対象とした「役員退職慰労引当金」があります。
どちらも将来支払う退職金のために、今のうちから費用を積み立てておくという目的は共通していますが、適用される会計基準・計算方法・税務上の取り扱いが異なります。
※関連記事:決算前に知っておきたい。引当金の仕訳ポイントは目的に合わせた計上
退職給付引当金と役員退職慰労引当金の特徴
|
退職給付引当金 |
役員退職慰労引当金 |
| 対象者 |
従業員 |
取締役・監査役などの役員 |
| 適用基準 |
企業会計基準第26号 (退職給付に関する会計基準) |
監査・保証実務委員会 実務指針第42号 (租税特別措置法上の準備金及び特別法上の引当金又は準備金 並びに役員退職慰労引当金等に関する監査上の取扱い) |
| 計算方法 |
退職給付債務 – 年金資産(原則法) または期末要支給額(簡便法) |
内規に基づく期末要支給額を原則として計上 |
退職金制度と引当金の関係
引当金を理解するためには、元となる退職金制度の違いも理解しておく必要があります。
従業員の退職金
退職給付引当金の対象となるのは、従業員に支給する退職金です。
従業員の退職金は、「退職給付会計」と呼ばれる会計ルールに基づいて処理を行います。
退職給付会計の対象となる制度は、退職一時金制度(自社制度、中退共・特定退職金共済など)と、企業年金制度(確定給付・確定拠出)に大別されます。
役員退職慰労金
役員退職慰労引当金の対象となるのは、役員退職慰労金です。
役員退職慰労金は、在職中の労働の対価というよりも会社への貢献に対する報酬としての性格を持ち、最終的な支給額も株主総会の決議によって確定します。
そのため退職給付会計の対象外となっており、従業員の退職金とは別のルールが適用されます。
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退職給付引当金と役員退職慰労引当金は、どちらも将来の退職金支払いに備えるための引当金ですが、計算方法や会計処理は異なります。
ここでは、それぞれの算定方法と基本的な仕訳について解説します。
確定給付制度における退職給付引当金の仕訳
退職給付引当金の計算方法は、採用している退職金制度によって異なります。
ここでは、中小企業で多く採用されている確定給付制度を例に、退職給付引当金の会計処理と仕訳を解説します。
確定給付制度とは、退職金の計算方法や給付内容があらかじめ定められている制度です。
例えば、「勤続年数×基本給×○%」といった計算式を就業規則などで定め、退職金額を算定します。
確定給付制度における退職給付引当金の会計処理には、「原則法」と「簡便法」の2種類があります。
いずれの方法でも、算定した退職給付引当金の増減額は「退職給付費用」として計上します。
原則法
原則法は、将来の退職金を割引計算により現在価値へ換算し、退職給付債務を算定する方法です。
精度は高いですが計算が複雑であるため、通常は保険数理の専門家や専用ソフトが必要となります。
そのため、主に大企業で採用されることが多い方法です。
計算の考え方
退職給付引当金 = 退職給付債務 – 年金資産 ± 未認識数理計算上の差異 ± 未認識過去勤務費用
- 退職給付債務:将来支払う退職金を現在価値に換算した見積額
- 年金資産:外部に積み立てている資金
- 未認識数理計算上の差異:見積もりと実績のズレの繰延分
- 未認識過去勤務費用:退職金規程を変更した際の差額の繰延分
※「未認識数理計算上の差異」や「未認識過去勤務費用」は、発生時に全額を費用計上せず、数年かけて処理する、大企業向けの概念です。
簡便法
簡便法は、「期末要支給額」を基礎として計算する方法です。
原則法のような割引計算が不要で比較的シンプルに算定できるため、多くの中小企業で採用されています。
なお、期末要支給額とは、期末時点で全従業員が自己都合退職したと仮定した場合の退職金支給見込額のことであり、各社の退職金規程に基づいて算定します。
簡便法では、期末要支給額を基礎として期末退職給付引当金を算定したうえで、当期に計上する退職給付費用を次のように計算します。
計算の考え方
退職給付費用 = 期末退職給付引当金 –(期首退職給付引当金 – 退職一時金支給額 – 年金掛金拠出額)
- 期末退職給付引当金:当期末に必要となる引当金残高
- 期首退職給付引当金:前期末から繰り越された引当金残高
- 退職一時金支給額:当期に実際に支払った退職金
- 年金掛金拠出額:当期に拠出した年金掛金
仕訳方法
ここからは、退職給付引当金の計上と取り崩しの仕訳例を見ていきましょう。
引当金の計上(退職給付費用500,000を繰り入れる場合)
| 借方 |
金額 |
貸方 |
金額 |
| 退職給付費用 |
500,000 |
退職給付引当金 |
500,000 |
引当金は毎期末に計算し直し、増加分だけを追加で繰り入れます。
退職一時金の支払い(2,000,000を現金で支払う場合)
| 借方 |
金額 |
貸方 |
金額 |
| 退職給付引当金 |
2,000,000 |
現金・預金 |
2,000,000 |
実際に退職金を支払うときは、積み立てていた引当金を取り崩します。
引当金残高を超える支払いが生じた場合は、超過額を退職給付費用として追加計上してください。
役員退職慰労引当金の仕訳
役員退職慰労引当金を計上するためには、まず役員退職慰労金の支給に関する内規を整備しておく必要があります。
会計上は、その内規に基づき、役位や在任年数などを考慮して支給見込額を合理的に算定できることが求められます。
計算方法は会社ごとに異なりますが、一般的には次のような算定式が用いられます。
一般的な計算式
期末要支給額 = 最終報酬月額 × 役位別係数 × 在任年数
なお、会社によっては功労金や加算金を考慮する場合もあります。
仕訳方法
引当計上(当期の費用繰入額 3,000,000の場合)
| 借方 |
金額 |
貸方 |
金額 |
| 役員退職慰労引当金繰入額 |
3,000,000 |
役員退職慰労引当金 |
3,000,000 |
退任・支給時(株主総会決議後、45,000,000を支給する場合)
| 借方 |
金額 |
貸方 |
金額 |
| 役員退職慰労引当金 |
45,000,000 |
現金・預金 |
45,000,000 |
役員退職慰労金制度を廃止した場合の会計処理
近年は、役員退職慰労金制度を廃止する企業も増えています。
制度廃止にあたり、株主総会で役員退職慰労金の支給を承認し、実際の支給を役員の退任時とするケースがあります。
この場合、役員退職慰労引当金は長期未払金へ振り替えます。
ただし、株主総会で支給に関する承認決議を行わず、支給額が確定していない場合には、役員退職慰労引当金のまま貸借対照表に表示します。
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退職金に関する引当金は、会計上の処理と税務上の取り扱いが異なる点に注意が必要です。
特に退職給付引当金や役員退職慰労引当金の繰入額は、会計上は費用となっても税務上は損金算入が認められない場合があります。
ここでは、それぞれの税務上の取り扱いと別表調整の考え方について解説します。
損金算入できる時点・できない時点の整理
退職金に関する引当金は、会計上の費用計上時期と税務上の損金算入時期が一致しない場合があります。
ここでいう損金算入とは、費用が税務上の損金として認められ、法人税の計算上、所得を減少させることを意味します。
退職金にかかる取り扱いは、制度の内容やタイミングによって次のように異なります。
| 制度・取引の種類 |
損金算入できるか |
| 確定拠出制度の掛金拠出 |
○ |
| 確定給付制度・企業年金への掛金拠出 |
○ |
| 退職一時金にかかる退職給付引当金繰入 |
× |
| 退職一時金の支払時 |
○ |
| 役員退職慰労引当金繰入 |
× |
| 役員退職慰労金の支給額確定時(株主総会決議など) |
○ |
特に注意が必要なのは、退職一時金にかかる退職給付引当金の繰入額です。
会計上は費用として計上しても、税務上はその期の損金として認められません。
そのため、以降で解説する法人税申告書で別表調整が必要になります。
別表調整
退職一時金にかかる退職給付引当金を会計上費用計上している場合、その時点では損金算入が認められないため、法人税の申告書で別表調整が必要です。
なお、別表調整は、会計上の費用計上と税務上の損金計上で認められるタイミングが相違しているため、会計で計上済み費用の金額を税務上のあるべき損金の金額に調整する役割があります。
| イベント |
会計上の処理 |
税務上の処理 |
| 退職給付引当金の繰入 |
P/L 「退職給付費用」の計上
B/S「退職給付引当金」の計上
|
別表4「退職給付引当金否認」として加算留保 (損金不算入)
別表5「退職給付引当金」の増加
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| 退職金の支払時(過不足なし) |
B/S「退職給付引当金」の減少 |
別表4「退職給付引当金認容」として減算留保 (損金算入)
別表5「退職給付引当金」の減少
|
このように、退職給付引当金の繰入時にはいったん税金を多く払うことになりますが、退職金の支払時に減算されるため、税務上は損金算入の時期が後ろにずれるイメージになります。
BSの引当金残高と法人税申告書上の申告調整額は基本的に一致することになるため、毎期確認しておくことが重要です。
役員退職慰労引当金も同様で、繰入時は全額加算留保・損金不算入となり、株主総会の決議を経て退職金が確定した事業年度に損金算入されることになります。
なお、特に役員退職金についてその支給額が過大と判断された場合は税務調査によって損金不算入とされるリスクが高いため、内規の整備と合理的な計算根拠の保管が欠かせません。
退職給付引当金・役員退職慰労引当金を計上しない場合のリスク
退職給付引当金や役員退職慰労引当金は、繰入時に税務上の損金算入が認められないため、非上場の中小企業では未計上のケースも少なくありません。
しかし、退職金の支給があるにもかかわらず引当金を計上していない会社では、従業員や役員の退職時に突如として多額の退職費用を計上することとなり、期間損益が不安定になるおそれがあります。
特に、勤続年数の長い従業員に多額の退職金を支払う場合、その事業年度の損益が大幅に悪化し、銀行借入の財務制限条項に抵触するケースも考えられます。
したがって、税務上は別表調整や残高管理が必要となるものの、企業の財務内容を適正に表示し、将来の支出に備えるという観点からは、引当金の計上を検討することをおすすめします。
※本記事の内容は掲載日時点での情報です。
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