現在、個人事業主として事業を行っている方の中には、法人化を目指している方もいるのではないでしょうか。
しかし、実際に法人化を行うにはどのような手続きや準備が必要になるのか、わからないことも多いと思います。
今回の記事では、法人化のメリットと、法人設立後に必要となる手続きについて解説します!
個人事業主と法人の違い
個人で経営している事業を株式会社や有限会社などの法人組織に移行することを、法人化や法人設立といいます。
法人化は、ビジネスの拡大や資金調達の円滑化、税金対策などのほかに、個人との責任の分離を目的として行われることが一般的です。
法人化した後は、契約主や財産の所有者も法人が主体となり、納税義務や責任についても基本的には個人とは切り離された法人が負うこととなります。
法人化は個人事業主と比較すると経営上の制約は増えるものの、長期的に安定した経営ができる事業形態と考えられます。
法人化のメリット
法人化の大きなメリットの一つとして、個人で追うべき責任が限定されることが挙げられます。
個人事業主の場合は個人が事業の責任を負うことになりますが、法人の場合はビジネスリスクが個人に直接影響することは少なくなります。
また、ビジネスを拡大するにあたって関係者が増える場合、法人形態をとることで、株主・役員・従業員などの立場が明確となり、経営をスムーズに進められる可能性も高まります。
さらに、法人化することで社会的信用やブランド価値を高めることができ、銀行からの融資や投資家からの資金調達も得やすくなります。
税金面でも、法人税は個人所得税よりも税制上の優遇措置が積極的に行われているほか、法人は経費とできる費用の範囲が広く、赤字の金額を繰り越せる期間も長い場合があるため、長期的な目線で節税できると考えられます。
法人化の注意点
法人化には設立や維持などに費用がかかります。
設立時には登録免許税や収入印紙代などで最低でも10万円以上の初期費用が必要となり、その後も支払わなければならない税金や維持費用が毎年発生します。
また、決算期を定めたうえで定期的な決算報告を行う必要があるほか、社会保険や法人税の申告・納税も行う必要があり、会計処理や税務申告なども複雑になります。
法人化にはこのような注意点もあるため、自身の事業の状況をよく考えて検討することが重要です。
※関連記事:会社設立の手続きはどうする?個人事業主が知りたい法人化の流れとメリットとは
法人化の際に必要な税務関連の手続き
個人事業主の場合は税務署に開業届を提出するだけで開業することができ、登記にかかる法定費用も不要です。
これに対して法人の場合は法人設立のために設立登記が必要となります。
法定費用は設立する会社形態に応じて変わりますが、基本的に株式会社は約25万円以上、合同会社は約10万円以上がかかります。
また、一定金額の資本金も必要です。
法律上では1円以上であれば良いとされている資本金ですが、会社の体力を示すものでもあるため、実際は最低でも事業に必要な3カ月分の金額を拠出することが一般的とされています。
このほか、社会保険料関係の手続きや、業種によっては営業許可の届出も必要になります。
税務関連で提出が必要な書類
法人化の際は以下の書類を管轄の税務署などに提出する必要があります。
これらの手続きは必須であり、省略することはできません。
税務署に提出するもの
書類 |
提出期限 |
添付書類 |
備考 |
法人設立届出書 |
設立日から2カ月以内 |
定款の写し、(合同会社の場合)社員名簿など |
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給与支払事務所等の開設届 |
設立日から1カ月以内 |
特になし |
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個人事業の開業・廃業等届出書 |
個人事業を廃業した日から1カ月以内 |
特になし |
個人事業主でなくなった場合に提出が必要 |
都道府県や市区町村に提出するもの
書類 |
提出期限 |
添付書類 |
備考 |
法人設立届出書 |
個人事業を廃業した日から1カ月以内 |
定款の写し、登記事項証明書など |
原則として県税事務所、市区町村役場の双方に提出が必要
※ただし、東京23区では都税事務所への提出のみ
|
提出しておくと役立つ書類
上記書類のほか、税務署に提出しておくと役に立つ書類をご紹介します。
申告期限の延長の特例の申請書
通常、法人は決算から2カ月以内に法人税等の確定申告をする必要があります。
ただし、「申告期限の延長の特例の申請書」を提出すると、確定申告書の提出期限が1カ月延長されます。
そのため、決算処理で忙しい時期に税務申告まで行うのは厳しいという企業にはおすすめです。
ただし申告書の提出期限が延長されても税金の納付期限は延長されないため、決算から2カ月のタイミングで納付する税金と同等か少し多めの金額を納付しておく必要があります。
青色申告の承認申請書
個人事業主と同様に法人でも青色申告の制度があります。
青色申告を採用すると、税金面で次のようなメリットがあります。
- 少額減価償却資産の特例(取得価額が30万円まで減価償却資産を即時損金算入可)
- 純損失の繰越控除・繰戻還付(赤字の一定期間の繰越控除・繰戻還付)
- 各種租税特別措置法の控除要件・控除額優遇
一般的には、法人化する場合は青色申告をすることがほとんどです。
源泉所得税の納期の特例の申請書
給与や報酬の支払いが発生する場合、原則として毎月、給与の支払い額に対して源泉徴収税額を天引きして、翌月10日までに税務署に納付する必要があります。
ただし、給与の支給対象者が10人未満の場合、「源泉所得税の納期の特例の申請書」を提出することによって、給与や退職手当、税理士などの報酬について源泉徴収した所得税及び復興特別所得税を年2回にまとめて納付できます。
例
- 1月から6月までに支払った所得から源泉徴収をした所得税及び復興特別所得税:7月10日
- 7月から12月までに支払った所得から源泉徴収をした所得税及び復興特別所得税:翌年1月20日
消費税の課税事業者の選択届出書
法人であってもその2年前の課税売上高が1,000万円以下である場合には、消費税の納税義務は免除されます。
しかし、2023年10月のインボイス制度導入後は、消費税の課税事業者でなければインボイスを発行できないため、インボイスを交付する必要がある事業者は消費税の課税事業者を選択することとなります。
取引先との交渉の状況にもよりますが、多くの法人は課税事業者を選択することになると考えられますので留意しましょう。
書類の提出以外にやるべきことは
法人化の際は、書類の提出以外にも行うべきことがあります。
法人の印鑑の作成
ペーパーレス化が促進され書類の電子化が進んでいる現状ではありますが、まだ印鑑が必要となるシーンも多いため、法人の印鑑は用意しておいた方が良いでしょう。
法人の印鑑の種類には、代表者印、銀行印、社印などがあります。
代表者印
法人設立の際や、重要な契約を行う際などに使用される最も重要な印鑑です。
代表者印は、個人の実印を登録して利用することも可能ですが、法人としての取引と個人としての取引を分離するという観点からも、新しく作成することが一般的です。
そうすることで、万が一、将来的に代表者が変更になった場合にも備えることができます。
代表者印の書体やデザインは、後述の銀行印や社印と形状を変更しておくと管理しやすくなります。
銀行印
口座を開設する際、銀行に届け出る印鑑です。
口座開設後は、小切手や手形の利用時など銀行で行う取引で利用されます。
日常取引でも利用されることから、一般的には代表者印とは別で作成されます。
社印
請求書や見積書への押印など、会社の日常的な取引で頻繁に利用されます。
銀行印と同様に、事業にあたって1本は作成しておくことが推奨されます。
法人口座の開設
金融機関の口座名義を法人名としているものを、法人口座といいます。
法人化しても個人名義の口座で取引することは法律上問題ありませんが、取引先からの印象は良くありません。
また、税務調査で入出金明細の提出を求められた際などに、法人としての取引だけでなく個人としての取引も税務調査官の目に触れてしまう可能性があります。
このように、法人としての信用問題にも関わるため、法人口座は開設しておいた方が良いでしょう。
なお、個人取引とは別に口座を作ることのメリットの一つに、会計ソフトと連携した際の利便性も挙げられます。
クラウド会計ソフトなどでは、銀行口座の入出金明細をもとに取引にかかる会計仕訳を自動で作成してくれる機能なども増えています。
法人口座を作成することで、こうした機能を利用する場合にも、よりスムーズにデータ連携ができるようになると考えられます。
※本記事の内容は掲載日時点での情報です。
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法人化には費用と手間がかかりますが、長期的に事業を継続していくことを考えると、信用面・税金面でもメリットが大きいものです。
現在、個人事業主として活動されている方も、法人化について検討してみる価値があるでしょう。