株主総会を行った後、官報や日刊新聞紙などで決算公告を行います。
法令により決算公告は株式会社の義務とされていますが、実際に決算公告を行っている中小企業はあまり多くありません。
今回はそんな決算公告の概要や現状を解説します。
決算公告とは
決算公告とは、企業の財務情報を公に開示することを指します。
会社法440条では下記のように定められています。
株式会社は、法務省令で定めるところにより、定時株主総会の終結後遅滞なく、貸借対照表(大会社にあっては、貸借対照表及び損益計算書)を公告しなければならない。
決算公告では通常、貸借対照表の公告を行いますが、大会社については貸借対照表だけでなく損益計算書も公告する義務があります。
大会社とは資本金が5億円以上または負債が200億円以上である企業のことです。
このように、会社の規模によって公告すべき内容は異なるものの、基本的にすべての株式会社は決算公告を行う必要があります。
この義務を怠った際には罰則規定があり、場合によっては100万円以下の過料に処すこととされています。
決算公告が義務とされる理由
株式会社では資本金や借入金から資金調達が行われています。
株主は株式からのリターン、債権者は利息からの収益を得るために投資などを行いますが、企業の財務状況に関する情報がないと、突然資金を回収できなくなるというリスクを察知できません。
このような状態を回避するために、決算公告が義務化されているのです。
決算公告により、株主や債権者は事前にリスク対策を行うことができ、より安全な市場環境を築くことができます。
多くの中小企業が決算公告未対応の理由
決算公告は法令で義務化されているにもかかわらず、実際は多くの中小企業で未対応となっています。
考えられる理由は以下の通りです。
- 費用・手間がかかる
- 他社に経営情報を開示したくない理由がある
- 義務を怠った際、過料が処されたケースが少ない
決算公告を行うためには官報掲載料などの費用がかかる場合があり、毎年その義務を果たすとなると相応に事務負担もかかります。
さらに、企業の中には自社の経営状況を競合企業や取引先に見られたくないという理由から、決算公告を避けることもあります。
しかし本来、いかなる理由があろうとも決算公告を行わなければ法律で過料に処すこととされています。
ところが、実際に過料が処されるのは稀であることから、決算公告の義務を果たしている企業は少なくなっていると考えられるのです。
決算公告の義務を避けたい場合
株式会社とは異なり、出資者と経営者が同一である合同会社は決算公告の義務がありません。
そのため、どうしても決算公告を行いたくない場合は自社を株式会社ではなく合同会社にするという選択肢もあります。
しかし、決算情報の開示によって現状の株主以外や海外からの投資がスムーズに進むなど、資金調達が円滑になる場合も多々あります。
こうした自社にとっての決算公告のメリットも考慮して方針を決定するとよいでしょう。
決算公告の方法
決算公告では、官報への掲載、日刊新聞紙への掲載、電子公告の3種類の方法が認められています。
なお、選択した公告方法は定款に記載しなければなりません。
公告方法を変更した際にも、同様に定款への記載が必要となります。
官報への掲載
官報は国が発行している機関紙です。
法律や政令などの制定、改正などが掲載されており、各地の官報販売所で購入できます。
官報は一般的な新聞などと比較すると目に触れる機会は少ないものですが、最近はインターネットでも閲覧できるため、よりチェックしやすくなったといえます。
官報への掲載は決算公告の方法として最も多く利用されています。
また、官報に決算公告を掲載する場合は、貸借対照表の全文ではなく、要旨を掲載するだけで問題ないとされています。
掲載には費用がかかり、約7万円~15万円となっています。
日刊新聞紙への掲載
日刊新聞紙に決算公告を掲載する場合は、紙面を購入することになります。
日刊新聞紙は比較的購読者が多いため、企業の業績アップなどを広くアピールしたい場合に有効です。
ただし、他の2種類と比較すると掲載費用が高い傾向にあるため、費用対効果を検討する必要があるといえます。
なお、日刊新聞紙への掲載は官報と同様、貸借対照表の要旨のみで問題ありません。
電子公告
電子公告は、自社のWebサイトや外部の信用調査機関のWebサイトなどに決算公告を掲示する方法です。
自社サイトで公開する場合などは掲載費用自体はかからないことから、費用をかけたくない企業で多く採用されています。
ただし、電子公告による決算公告では、注記を含めて必要書類の全文を掲載しなければなりません。
また、自社サイトへの掲載は無料とはいえ、更新に対する費用や手間が発生する場合もあるので、注意が必要です。
二重公告(ダブル公告)とは
二重公告とは、官報と日刊新聞紙、官報と電子公告といったように、官報を含めた2つの媒体を通じて決算公告を行うことをいいます。
会社法では、官報に加えて、定款で定めた日刊新聞紙か電子公告で決算公告を行った場合、債権者への個別の催告を省略できるとされています。
公告掲載費用が重複するデメリットはあるものの、催告を個別に発送する事務作業が不要となることや、対象者への発送漏れを防げるといったメリットがあることから、二重公告を行う企業も多々あります。
決算公告の手続き
決算公告を各方法で掲載する際の手続きを簡単にまとめます。
官報、もしくは日刊新聞紙で決算公告を行う場合
必要な書類を準備したうえで、専用のフォームから申し込みを行います。
官報や日刊新聞紙の場合、掲載までは少し時間がかかるので注意しましょう。
なお、必要な資料は以下のように整理することができます。
公開会社・大会社 |
貸借対照表+損益計算書 |
公開会社・大会社以外 |
貸借対照表 |
非公開会社・大会社 |
貸借対照表+損益計算書 |
非公開会社・大会社以外 |
貸借対照表 |
※公開会社の貸借対照表の要旨における固定資産に係る項目は、有形固定資産・無形固定資産・投資その他の資産の項目に区分します。
※参考:会社法第440条
公開会社とは、発行株式のすべてまたは一部に関して、譲渡による株式取得の際に株式会社の承認が不要な株式会社をいいます。
反対に、非公開会社は発行株式のすべてに譲渡制限が付されている株式会社をいいます。
電子公告を行う場合
電子公告を自社サイトで行う場合は、電子公告用のページを作成し、そのURLを法務局に登記します。
掲載にあたっては細かい規定がありますので、詳細は法務局のホームページを確認するようにしてください。
※参考資料:法務局「電子公告」
※本記事の内容は掲載日時点での情報です。
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決算公告は、手続きの煩雑さや費用負担が伴うことから、特に中小企業ではなかなか手がつけられない場合も多くあるでしょう。
ただし、義務を守ることは企業として重要なことです。
株式会社の場合は、他社の公告例を参考にしながら、自社でもしっかり決算公告を行うようにしましょう。