中小企業にとって設備投資は生産性向上や業務効率化を図るうえで重要なものですが、多額の現金支出が伴うため見送られるケースも多くあります。
こうした背景から、国は「中小企業投資促進税制(中小企業者等が機械等を取得した場合の特別償却又は税額控除)」と「中小企業経営強化税制(中小企業者等が特定経営力向上設備等を取得した場合の特別償却又は税額控除)」という税制を設けています。
経理/財務税務(税金・節税) 2023/09/12
中小企業経営強化税制・中小企業投資促進税制では特別償却と税額控除、どちらを選ぶべき?
目次
中小企業投資促進税制と中小企業経営強化税制は、中小企業の投資に関連する重要な制度です。
今回の記事ではそれぞれの制度の概要と、どのように活用すればよいかの判断基準について紹介します!
中小企業の投資における税制
中小企業投資促進税制(中小企業者等が機械等を取得した場合の特別償却又は税額控除)とは
中小企業投資促進税制とは、一定の中小企業が要件を満たす設備投資を行った際に、特別償却または税額控除の適用を認めるものです。
※指定事業は、製造業、建設業、農業、卸売業、料理店業その他の飲食店業、不動産業、専門・技術サービス業、宿泊業、洗濯・理容・美容・浴場業、その他の生活関連サービス業、協同組合、サービス業などです。
※中小企業者とは、資本金あるいは出資金の額が1億円以下の法人のうち、その出資の大半を大規模法人に所有されている以外の法人、または、資本あるいは出資を有しない法人のうち、常時使用する従業員の数が1,000人以下の法人をいいます。
※対象期間については例年延長されていることから、今後も延長される可能性があると考えられます。
特定機械装置等とは、以下のものをいいます。
特別償却、税額控除ともに、控除限度額の繰越が可能です。
※参考サイト:国税庁「中小企業投資促進税制(中小企業者等が機械等を取得した場合の特別償却又は税額控除)」
適用対象法人
青色申告書を提出している以下の法人が、製造業や建設業などの指定事業に使う資産を導入した場合に対象となります。特別償却の場合 | 中小企業者または農業協同組合等もしくは商店街振興組合(中小企業者等) |
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税額控除の場合 | 特別償却の対象となる中小企業者のうち資本金の額もしくは出資金の額が3,000万円以下の法人または農業協同組合等もしくは商店街振興組合 |
※中小企業者とは、資本金あるいは出資金の額が1億円以下の法人のうち、その出資の大半を大規模法人に所有されている以外の法人、または、資本あるいは出資を有しない法人のうち、常時使用する従業員の数が1,000人以下の法人をいいます。
対象期間
~令和7年3月31日まで※対象期間については例年延長されていることから、今後も延長される可能性があると考えられます。
適用対象資産
新品の特定機械装置等で、指定期間内に取得または製作して指定事業の用に供したものが対象となります。特定機械装置等とは、以下のものをいいます。
- 機械装置で1台または1基の取得価額が160万円以上のもの
- 製品の品質管理の向上などに資する測定工具および検査工具で、1台または1基の取得価額が120万円以上のもの
- 上記2に準ずるものとして測定工具および検査工具の取得価額の合計額が120万円以上であるもの(1台または1基の取得価額が30万円未満であるものを除く)
- ソフトウェア(複写して販売するための原本、開発研究用のものまたはサーバー用のオペレーティングシステムのうち一定のものなどは除く)で取得価額が70万円以上のものなど
- 車両運搬具のうち一定の普通自動車で、貨物の運送の用に供されるもののうち車両総重量が3.5トン以上のもの
- 内航海運業の用に供される船舶(ただし、取得価額の75%が対象)
- コインランドリー業または暗号資産マイニング業の用に供する資産のうち、主要事業として行っている場合の資産や、自ら管理を行っている場合の資産(他の者に管理を委託するものは除外)
特別償却・税額控除の内容
特別償却の場合 | 取得価額×30%の特別償却の適用が可能。 |
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税額控除の場合 | 特定中小企業者等について、取得価額×7%の税額控除の適用が可能。 ただし税額控除額の限度は、法人税額の20%相当額。 |
手続き
特別償却の適用 | 確定申告書等に償却限度額の計算に関する明細書を添付して申告。 |
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税額控除の適用 | 控除を受ける金額を確定申告書等に記載するとともに、その金額の計算に関する明細書を添付して申告。 |
中小企業経営強化税制(中小企業者等が特定経営力向上設備等を取得した場合の特別償却又は税額控除)とは
中小企業経営強化税制とは、一定の中小企業が行う中小企業等経営強化法経営力向上計画に基づく設備投資について、100%の特別償却(即時償却)または税額控除(10%)のいずれかの適用を認める制度です。
※適用対象法人のうち、資本金3,000万円超の企業における税額控除は7%です。
※中小企業投資促進税制と同様、対象期間については例年延長されていることから、今後も延長される可能性があると考えられます。
特定経営力向上設備等とは、以下のものをいいます。
特別償却、税額控除ともに、控除限度額の繰越が可能です。
※参考サイト:国税庁「中小企業経営強化税制(中小企業者等が特定経営力向上設備等を取得した場合の特別償却又は税額控除)」
※適用対象法人のうち、資本金3,000万円超の企業における税額控除は7%です。
適用対象法人
青色申告法人である中小企業者等で、中小企業等経営強化法の認定を受けた特定事業者等が、製造業や建設業などの指定事業に使う資産を導入した場合に対象となります。対象期間
~令和7年3月31日まで※中小企業投資促進税制と同様、対象期間については例年延長されていることから、今後も延長される可能性があると考えられます。
適用対象資産
新品の特定経営力向上設備等(A類型、B類型、C類型、D類型)で、指定期間内に取得または製作して指定事業の用に供したものが対象となります。特定経営力向上設備等とは、以下のものをいいます。
- 機械装置で1台または1基の取得価額が160万円以上のもの
- 工具器具備品で、1台または1基の取得価額が30万円以上のもの
- 建物附属設備で取得価額が60万円以上であるもの
- ソフトウェア(複写して販売するための原本、開発研究用のものまたはサーバー用のオペレーティングシステムのうち一定のものなどは除く)で取得価額が70万円以上のものなど
- コインランドリー業または暗号資産マイニング業の用に供する資産のうち、主要事業として行っている場合の資産や、自ら管理を行っている場合の資産(他の者に管理を委託するものは除外)
特別償却・税額控除の内容
特別償却の場合 | 取得価額の全額(100%)の即時償却が可能。 |
---|---|
税額控除の場合 | 原則として取得価額×7%の税額控除の適用が可能。 ただし、 資本金の額が3,000万円以下の法人の場合は、最大で取得価額×10%の税額控除の適用が認められる。 ただし税額控除額の限度は、法人税額の20%相当額。 |
手続き
特別償却の適用 | 確定申告書等に償却限度額の計算に関する明細書を添付して申告。 |
---|---|
税額控除の適用 | 控除を受ける金額を確定申告書等に記載するとともに、その金額の計算に関する明細書を添付して申告。 |
特別償却と税額控除のどちらを選択するか
今回紹介した制度はいずれも、特別償却か税額控除を選択することができ、その判断は企業にゆだねられています。
つまり、経理担当者はどちらが有利なのかを吟味したうえで制度を適用する必要があるのです。
特別償却と税額控除の違いは以下の通りです。
特別償却では、10年など長期にわたって分けて計上する経費を、早期に費用として計上することができます。
多額な経費を前倒しで計上できることから、利益が大きく上がった年に活用されることが多いといえます。
一方で、税額控除はその年の法人税そのものを減少させるものです。
さらに、税額控除を適用したうえで通常の減価償却の適用も受けられるため、実質的な節税効果があります。
このようなときに特別償却を選択すれば、投資した年に多額の減価償却費を計上して税額を大きく減らすことで、資金繰りがしやすくなります。
また、税額控除は、そもそも赤字で法人税額が発生していないような場合にはメリットが得られないため、特別償却を選択する方が有利となる可能性があります。
税額控除の場合は、対象となる固定資産については通常の減価償却費を計上したうえで、さらに、法人税額から一定の金額を控除することができます。
そのため、償却期間全体で見ると、基本的には税額控除を選択した方が有利になる場合が多いといえます。
特別償却の場合の1年目の減価償却費は、4,800万円 ÷ 3年 + 4,800万円 × 30% = 3,040万円となります。
通常の減価償却費は4,800万円 ÷ 3年 = 1,600万円であることから、特別償却によって1年目に多くの減価償却費が計上されたことで、その分1年目の納税額は少なくなっていることがわかります。
※単位=万円
税額控除の場合の1年目の減価償却費は、通常の減価償却費である1,600万円ですが、4,800万円 × 7% = 336万円を税額から差し引くことができます。
※単位=万円
特別償却と税額控除の納税額を比較すると、1年目は特別償却の方の納税額が少なくなっています。
ただし、3年間の税額の合計額で比較すると、初年度で税額控除を適用できた分、税額控除の方がより納税額が少なく有利になっていると考えられます。
※本記事の内容は掲載日時点での情報です。
つまり、経理担当者はどちらが有利なのかを吟味したうえで制度を適用する必要があるのです。
特別償却と税額控除の違いは以下の通りです。
特別償却 | 税額控除 |
---|---|
課税を繰延べる(課税時期を遅らせる)。 | 適用を受けた年の税額から控除する。 |
赤字の年でも適用を受けることができる。 | 税額が生じていない年には節税効果がない。 |
多額な経費を前倒しで計上できることから、利益が大きく上がった年に活用されることが多いといえます。
一方で、税額控除はその年の法人税そのものを減少させるものです。
さらに、税額控除を適用したうえで通常の減価償却の適用も受けられるため、実質的な節税効果があります。
特別償却か税額控除かを選ぶポイント
中小企業経営強化税制や中小企業投資促進税制を適用するにあたって、特別償却と税額控除のどちらが有利になるかは、その法人の状況によって異なります。特別償却の方が有利になる場合
設備投資を行う際は、一時的に多額の現金支出が生じるために資金繰りが苦しくなることもあります。このようなときに特別償却を選択すれば、投資した年に多額の減価償却費を計上して税額を大きく減らすことで、資金繰りがしやすくなります。
また、税額控除は、そもそも赤字で法人税額が発生していないような場合にはメリットが得られないため、特別償却を選択する方が有利となる可能性があります。
税額控除が有利になる場合
特別償却は課税を繰り延べることでの効果はありますが、償却期間全体での節税効果はありません。税額控除の場合は、対象となる固定資産については通常の減価償却費を計上したうえで、さらに、法人税額から一定の金額を控除することができます。
そのため、償却期間全体で見ると、基本的には税額控除を選択した方が有利になる場合が多いといえます。
判定の例
簡単な例で特別償却と税額控除のどちらが有利になるかを確認しましょう。前提
減価償却費計上前の課税所得 | 10,000万円 |
---|---|
固定資産 | 取得価額4,800万円、耐用年数3年 |
中小企業投資促進税制の適用要件 | 満たしている(特別償却率30%、税額控除率7%) | 適用税率 | 30% |
通常の減価償却費は4,800万円 ÷ 3年 = 1,600万円であることから、特別償却によって1年目に多くの減価償却費が計上されたことで、その分1年目の納税額は少なくなっていることがわかります。
X1年 | X2年 | X3年 | 合計 | |
---|---|---|---|---|
減価償却費計上前の課税所得 | 10,000 | 10,000 | 10,000 | 30,000 |
減価償却費 | 3,040 | 1,600 | 160 | 4,800 |
課税所得 | 6,960 | 8,400 | 9,840 | 25,200 |
課税所得×税率 | 2,088 | 2,520 | 2,952 | 7,560 |
税額控除額 | 0 | 0 | 0 | 0 |
納税額 | 2,088 | 2,520 | 2,952 | 7,560 |
税額控除の場合の1年目の減価償却費は、通常の減価償却費である1,600万円ですが、4,800万円 × 7% = 336万円を税額から差し引くことができます。
X1年 | X2年 | X3年 | 合計 | |
---|---|---|---|---|
減価償却費計上前の課税所得 | 10,000 | 10,000 | 10,000 | 30,000 |
減価償却費 | 1,600 | 1,600 | 1,600 | 4,800 |
課税所得 | 8,400 | 8,400 | 8,400 | 25,200 |
課税所得×税率 | 2,520 | 2,520 | 2,520 | 7,560 |
税額控除額 | 336 | 0 | 0 | 336 |
納税額 | 2,184 | 2,520 | 2,520 | 7,224 |
特別償却と税額控除の納税額を比較すると、1年目は特別償却の方の納税額が少なくなっています。
ただし、3年間の税額の合計額で比較すると、初年度で税額控除を適用できた分、税額控除の方がより納税額が少なく有利になっていると考えられます。
※本記事の内容は掲載日時点での情報です。
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