源泉徴収と年末調整の手続きは毎年早めの準備が重要になります。
今回の記事では源泉徴収や給与所得者の扶養控除等(異動)申告書について解説したうえで、2023年の源泉徴収や年末調整の手続きに関する注意点を解説します。
給与・賞与に係る源泉徴収の実施
従業員に給与や賞与を支払う際は、その従業員が負担すべき税金をあらかじめ企業が差し引いて国に納付する、源泉徴収を行う必要があります。
源泉徴収は、給与の支給額と従業員本人や家族の状況に応じた所得控除を反映したうえで行います。
そのため、企業は源泉徴収を実施するにあたって、従業員から「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を回収します。
源泉徴収の計算は、国税庁の定める「給与所得の源泉徴収税額表」や「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」を利用して行います。
給与や賞与の源泉徴収計算は、給与計算ソフトなどで自動計算されることが多いため、実務で税額表を確認することは少ないかもしれません。
ただし、どのような表を使っているのかを把握していないと思わぬミスにつながることもあります。
国税庁のサイトには2023年分の様式が掲載されていますので、実務担当者は目を通しておきましょう。
給与所得者の扶養控除等(異動)申告書の回収
企業は従業員から、給与所得者の扶養控除等(異動)申告書を、毎年最初の給与支払日の前日までに回収する必要があります。
多くの企業では、前年の年末調整の際に翌年分の申告書についても回収している場合があります。
月次の源泉徴収の計算や年末調整の際には、この申告書に記載された情報に基づいて所得控除の金額計算を行うため、特に新規採用者や扶養情報に変更があった従業員については提出の有無を注意して確認するようにしましょう。
源泉徴収簿の作成
給与や賞与の源泉徴収を実施した後には、従業員ごとに状況を記録として残しておく必要があります。
特に法令で定められたものはありませんが、例えば国税庁が公表している「給与所得に対する源泉徴収簿」は、年末調整にあたって必要な情報を網羅して記入できるため、活用してみてください。
年末調整の実施
年末調整は、まず対象を確認するところから始まります。
年末調整の対象者
「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出している場合
以下の表の区分に従って分類されます。
<年末時点で年末調整を検討するケース>
年末調整の対象となる人 |
年末調整の対象とならない人 |
- 1年を通じて勤務している人
- 中途入社し、年末まで勤務している人
上記いずれかで、給与の収入金額が2,000万円以下である人
|
左記以外の人(例:給与の収入金額が2,000万円を超える人、1年の途中で死亡・退職した人、2カ所以上の勤務先から給与収入を得ている人など) |
<1年の途中での年末調整を検討するケース>
年末調整の対象となる人 |
年末調整の対象とならない人 |
- 死亡、または、著しい心身の損害に起因して退職した人
- 12月中に支給期の到来する給与の支払いを受けた後に退職した人
- パートタイマーで退職した人のうち、給与の総額が103万円以下の人
- 年の中途で海外への転勤などで非居住者になった人
上記いずれかで、給与の収入金額が2,000万円以下である人
|
左記以外の人 |
「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出していない場合
給与所得者の扶養控除等申告書を提出していない場合は、年末調整の対象となりません。
例えば、2つ以上の勤め先がある従業員は、主たる勤め先で年末調整を実施するため、それ以外の勤め先では扶養控除等申告書を提出せず、年末調整も行われません。
年末調整の流れ
年末調整の流れについて簡単に整理しておきましょう。
Step1:毎月の源泉徴収の結果を源泉徴収簿で集計する
源泉徴収の内容に基づき、従業員ごとの給与・賞与に係る支給額、源泉徴収税額、社会保険料の金額を源泉徴収簿で集計します。
Step2:年末調整用の申告書を従業員に配布する、または情報を依頼する
給与所得者の扶養控除等(異動)申告書、基礎控除申告書、保険料控除申告書、住宅借入金等特別控除申告書を従業員に配布し、記載済みのものを回収します。
年末調整を電子化した場合は、アプリやメールを通じて必要な情報の提供を依頼することになります。
Step3:回収した各申告書の基礎情報をもとに、控除額を確認する
回収した情報をもとに、従業員の所得控除や住宅ローン控除の金額を計算します。
Step4:年調年税額を計算する
これまでの集計結果をもとに、年間の税額である年調年税額を計算します。
年調年税額 =(給与所得 - 年末調整で適用可能な所得控除)× 税率 - 住宅ローン控除等の税額控除
Step5:年調年税額と源泉徴収の過不足額を調整する
年調年税額と源泉徴収済の金額に過不足がある場合には調整を行います。
不足がある場合には従業員から追加で徴収し、徴収しすぎた場合には従業員に還付します。
Step6:給与所得の源泉徴収票(給与支払報告書)を作成し提出する
企業は年末調整の計算結果にもとづき、以下の手続きを行います。
相手先 |
手続き |
従業員 |
給与所得の源泉徴収票を交付 |
市区町村 |
の提出
|
税務署 |
- 給与の源泉徴収票
- 所得税徴収高計算書(納付書)
- 給与の法定調書合計表
の提出と源泉徴収税額の納付
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2023年の源泉徴収・年末調整の注意点
給与所得者の扶養控除等(異動)申告書と年末調整の手続きについては、2023年から変更になっている事項があります。
特に以下には注意してください。
非居住者である扶養親族に係る扶養控除の適用要件の改正
扶養控除について、30歳以上70歳未満の非居住者(国内に住所を有し、または、現在まで引き続き1年以上居所を有する個人以外の個人)である親族は、以下の要件に1つも当てはまらない場合、控除対象扶養親族から除外されます。
- 留学で国内に住所及び居所を有しなくなった者
- 障害者
- 扶養控除の適用を受けようとする人から、その年に生活費または教育費に充てるための支払いを38万円以上受けている者
1~3に該当する親族がいる場合、従業員は最初の給与の支払日までに「親族関係書類」の提出が必要です。
親族関係書類とは、パスポートの写しとその翻訳など、その国外居住者が従業員の親族であることを証明する書類のことです。
また、1の留学生については「留学先ビザ等の書類」、3の38万円以上の送金を受けている者については銀行の取引明などの送金を明らかにする書類の提出も必要です。
上記の改正を受けて、年末調整書類でも、控除対象扶養親族の区分に「非居住者である親族」の欄が追加されています。
退職手当等を有する配偶者・扶養親族欄の追加
2023年分から、給与所得者の扶養控除等(異動)申告書の「住民税に関する事項」に、「退職手当等を有する配偶者・扶養親族」を記載する欄が追加されました。
所得税と住民税は控除対象となる配偶者や扶養親族の所得の要件が異なり、扶養の範囲となる所得を計算する際、所得税では合計所得金額に退職所得を含みますが、住民税では含みません。
このような背景から、扶養親族について「その年の退職所得を含まない所得の見積額」の情報を記載する欄が追加されました。
2023年からは、源泉控除対象配偶者や扶養親族に退職所得の支給があるかどうか、ある場合はその金額を除いた所得の見積金額がいくらになるのか、従業員に確認する必要があります。
16歳以上の扶養親族の記載
2023年は、扶養親族のうち2023年1日1日時点で16歳以上の人(2008年1月1日以前生まれの人)を控除対象扶養親族として、その氏名・続柄・生年月日を記載する必要があります。
なお、16歳未満の扶養親族については、末尾の「住民税に関する事項」に同様の情報を記載します。
このほか、税制改正により、住宅ローン控除の控除率が引き下げられるなどの細かな変更点もあるため、対象者がいる場合には併せて確認しておきましょう。
年末調整手続きの電子化について
年末調整の手続きを紙媒体で行うと対応が煩雑になるため、近年は多くの企業で年末調整の電子化が進められています。
税務署側でも、保険料控除などの控除証明書について、電子データでの提出が認められるなど、電子化を推進しています。
年末調整を電子化することで、手続きがどのように変化するのかを以下にまとめました。
手続き |
従来 |
電子化 |
控除証明書関係(保険料控除証明書など) |
はがきなどで受領し社内で保管 |
電子データで受領 |
年末調整申告書関係(扶養控除等申告書、住宅ローン控除申告書など) |
手書きの年末調整申告書を回収・内容確認 |
本人が作成した年末調整申告書の電子データを受領 |
従業員の提出状況の把握 |
回収状況を集計の上、各個人に個別で連絡 |
システムを通じて把握・メールなどでリマインド |
年末調整データの入力 |
記載情報を担当者が打ち込み |
従業員が入力、または、提供されたデータをシステムにインポートして完了 |
電子化によって、従業員は控除証明書を紙で管理する必要がなくなり、紛失リスクが低下します。
企業にとっても、従業員に会計ソフトやアプリ上で年末調整データを入力してもらうことで、入力や確認の工数が削減できるほか、記載誤りなどを減らすこともできるので、効率的な対応ができます。
※本記事の内容は掲載日時点での情報です。
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2023年からは非居住者親族について扶養控除を適用する場合、対象書類の提出を受ける必要があります。
今回の記事を参考に、2023年の源泉徴収や年末調整について理解を深めていただければ幸いです。