2020年4月1日、正社員と非正社員における待遇差の解消を目的とした「同一労働同一賃金」がスタートしました。まずは全国の大企業から施行されましたが、2021年4月からは中小企業も対象になる予定です。働き方改革関連の施策の中でも、特に政府が注力している同一労働同一賃金は、企業だけでなく労働者にとっても大きな影響があるとされています。では、経理現場には一体どのような影響があるのでしょうか。
同一労働同一賃金とは
同一労働同一賃金とは、職場内で同じ仕事をしている正社員と非正社員(派遣、パート、アルバイト)の待遇格差をなくすという考え方です。総務省が発表した「労働力調査」によると、2019年の非正規社員数は2,165万人となり、前年から45万人増加しています。6年連続で増え続けている非正規社員の待遇を改善することで、消費を底上げして経済全体の活性化につなげることが同一労働同一賃金の大きな目的です。まずは同一労働同一賃金の対象者と待遇の内容について確認してみます。
■同一労働同一賃金の対象者
■同一労働同一賃金における待遇
均衡待遇
責任の程度を含めた「職務内容」、転勤などを指す「配置の変更の範囲」、業績や資格の有無を示す「その他の事情」の3点を基準とし、それぞれの違いに応じて雇用形態を問わずに待遇を決定する。
均等待遇
上記の「職務内容」、「配置の変更の範囲」が同じ場合、雇用形態を問わずに待遇も均等にする。
上記の待遇について対象者から質問があった場合、企業は説明責任を負うことになります。そのため、待遇に違いがある場合は、正社員と非正社員の職務内容を明らかにし、正当な理由を備えておく必要があります。
※関連リンク:
総務省統計局「労働力調査(基本集計)2019年(令和元年)平均(速報)結果の要約」
厚生労働省「働き方改革特設サイト」
同一労働同一賃金の派遣・パートの経理担当者への影響
経理担当者を含む事務職は、派遣やパートで働いている人が比較的多い職種です。そういった人たちにとって、同一労働同一賃金は待遇が変わる大きなチャンスである一方、マイナスな影響も懸念されているのが事実です。
まずはプラスの影響から見ていきましょう。
■賃金、手当、福利厚生の改善
同一労働同一賃金によって正社員と非正社員との待遇格差が縮小するため、賃金や賞与、各種手当、福利厚生などの向上が見込まれています。雇用形態ではなく、実際の業務量や範囲によって待遇が決まることになります。
■キャリアアップの機会の獲得
正社員と同じように仕事をしている場合は、非正社員でも正社員と同様に人事考課や昇給の対象になります。キャリアアップの機会もあり、セミナーなどの教育訓練を受けられることもあります。さらに、日商簿記検定試験などの各種資格の受験・取得手当が付与される場合もあります。
上記の通り、非正社員がモチベーションアップにつながる待遇やスキルアップできる環境を得ることで、業務全体の改善を期待することができます。
その一方でマイナスな側面もあります。
■契約更新されないリスクの増加
非正社員の待遇を改善すると、当然、人件費も高騰します。そのため、費用削減のために「そもそも非正規社員を雇わない」という対策を打つ企業が出てくることが懸念されています。
経理の仕事はアウトソーシング化が進んでおり、日次業務だけでなく月次決算作業までフリーランスや委託業者に任せる企業が徐々に増えてきています。「スキルや業務内容に鑑みて、外部に任せた方が安価」だと判断された場合、非正社員は契約更新されない可能性があるのです。
■決まった業務内における成果の達成
待遇が正社員と同様となると、非正社員であっても、従来以上の「責任」と「成果」を求められるようになり、職場で存在価値を高めていく必要があります。
しかし一方で、同一労働同一賃金では、雇用形態によってそれぞれの実務が明確に区分けされています。そのため、担当以外に業務範囲を広げにくいというジレンマが発生します。決められた業務の中で、どのように活躍するかという難しい問題に直面することになります。
企業全体への影響
同一労働同一賃金はあくまで非正規社員を対象とした施策なので、正社員に直接的なメリットがあるわけではありません。ただし、先述したような非正規社員におけるモチベーションの向上によって、業務全体のパフォーマンスが上がることは十分に考えられます。スキルアップ機会の付与により優秀な社員の増加も見込まれますので、会社全体の発展にもつながると期待されています。
しかし反対に、非正規社員の待遇向上やそれに伴う人件費の高騰を考慮した場合、正社員の手当や賞与が削減される可能性がまったくないとは言えません。非正社員同様、正社員においても成果が求められる場面が多くなることが予想されるため、良い評価を得るためには自主的なスキルアップも必要になるでしょう。
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同一労働同一賃金における企業の対応が本格化する中で、経理の現場でもそれぞれの担当者の業務内容や成果、待遇を明確化する動きが多くなることが予想されます。完全実力主義の現場になることも考えられますので、今から実力をつけておく必要があるでしょう。経理の業務は作業のスピードと正確さだけでなく、管理会計などの幅広い知識が評価を左右します。自身の強みを考慮しながら、来るべきときに備えてください。