働き方改革とは、「労働人口の減少」、「長時間労働」、「低い労働生産性」という日本の労働市場の課題改善を目的とした、雇用対策法や労働基準法など8本にも及ぶ大規模な労働法改正の通称です。
※参考記事:
すぐわかる!働き方改革のここがポイント
働き方改革関連法は、基本的に中小企業の定義に「当てはまらない」企業、つまり「大企業」から先行して施行されています。中小企業の定義とは、以下の通りです。
業種 |
中小企業の定義 |
サービス業 |
資本金の額又は出資の総額が5千万円以下の会社又は常時使用する従業員の数が100人以下の会社及び個人
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小売業 |
資本金の額又は出資の総額が5千万円以下の会社又は常時使用する従業員の数が50人以下の会社及び個人
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卸売業 |
資本金の額又は出資の総額が1億円以下の会社又は常時使用する従業員の数が100人以下の会社及び個人
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その他 |
資本金の額又は出資の総額が3億円以下の会社又は常時使用する従業員の数が300人以下の会社及び個人
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※中小企業庁「中小企業・小規模企業者の定義」より引用
働き方改革関連法は大きく8本ありますが、2019年4月1日の時点で既に7本が施行されています。それぞれの概要と対策を簡単にまとめました。
1.時間外労働の上限規制
これまでの法律では残業時間の具体的な定めはありませんでした。しかし今回の施行によって時間外労働の上限規制は「月45時間、年360時間」が原則となり、これ以上の残業は基本的に認められなくなりました。やむを得ない場合は特別条項付きの36協定を結ぶこともできますが「年720時間、月100時間未満(休日労働含む)、2カ月ないし6カ月間の平均80時間(休日労働含む)」が上限となり、これを超えてしまうと、企業(経営者やマネージャーなど個人が対象となることもある)に刑事罰が適用される可能性もあります。今後はこの上限を意識して、業務の役割分担や時間配分を調整していかなければなりません。
※中小企業は2020年4月から施行
※タクシー、トラックドライバー、医師は2024年から施行
■対策の基本ポイント
- 社員の残業時間を正確に把握する
- ノー残業デーなどを設けて意識的に労働時間を減らす
- 仕事の割り振りなどを見直し、可能な部分は電子化するなど、業務の効率化を図る
- 36協定の内容を確認し、やむを得ない場合は特別条項を設ける(年360時間から年720時間)
2.勤務間インターバル制度の導入促進
前日の終業時刻から翌日の始業時刻までの間に一定時間の休憩を確保することを「勤務間インターバル」といいます。この期間を「○時以降の残業を禁止し、かつ○時以前の始業を禁止する」のような形式で、就業規則として定めることが努力義務化されました。
あくまで努力義務ですが、政府が2018年7月24日に発表した新しい「
過労死等の防止のための対策に関する大綱」では、以下のように数値目標が定められています。
- 2020年までに勤務間インターバル制度を知らなかった企業割合を20%未満とする
- 2020年までに勤務間インターバル制度を導入している企業割合を10%以上とする
■対策の基本ポイント
- 既に導入している企業の事例を厚生労働省の「導入事例集」から学ぶ
- 勤務間インターバル制度に対応した勤怠管理システムを導入する
- 時間外労働等改善助成金(勤務間インターバル導入コース)を活用する
3.年次有給休暇の確実な取得
年10日以上の有給休暇が発生している場合、社員は最低でも5日の休暇を取得しなければならなくなります。取得できなかった場合、労働基準法違反となり、企業(経営者やマネージャーなど個人が対象となることもある)は「6カ月以下の懲役」または「30万円以下の罰金」に処されます。
■対策の基本ポイント
- 社員の年次有給休暇の取得状況を正確に確認する
- 社員の年次有給休暇の取得率が悪い場合、計画年休制度を導入する
- やむを得ない場合は、就業規則を「会社が年次有給休暇を指定する」として、強制的に社員に休暇を取らせる
4.労働時間状況の客観的な把握
これまで曖昧だった労働時間の把握について「厚生労働省令で定める方法により(中略)労働時間の状況を把握しなければならない」というルールが新設されました。これにより、タイムカードやパソコンなどによる勤怠記録を取ることが義務化されます。これまで記録を取っていなかった企業はなんらかの対策が必要になります。既に記録を取っている企業も、その記録が正確なものなのか、今一度確認してみてください。
5.フレックスタイム制の拡充
フレックス制の「清算期間」の上限が1カ月から3カ月に延長されました。これにより月をまたいだ労働時間の調整が可能となり、例えば「4月にたくさん働いて、5月の労働時間は短めにする」というような、より柔軟でメリハリの付いた働き方ができるようになります。繁忙期が偏っている企業はフレックス制を導入して無駄な時間を減らすことで、労働時間の削減にも繋げられるでしょう。
■対策の基本ポイント
- 自社の業務内容を見直した上で、フレックス制の導入を検討する
- フレックス制を実施する際は、勤怠管理が正確にできる方法やツールの導入を検討する
6.高度プロフェッショナル制度の導入
年収が1075万円以上の専門職は、働いた時間ではなく成果で評価する制度です。専門職とは、以下の業種が対象になります。
- 研究開発
- アナリスト
- コンサルタント
- 金融商品のディーラー
- 金融業商品の開発
労働時間が賃金に反映されないため、成果を出せば自分の裁量で働ける一方、残業の概念がなくなることで逆に長時間労働に繋がる可能性があるほか、評価基準が難しくなるとの指摘もあります。ただし雇用する側とされる側の認識を正確に合わせることができれば、労働時間の削減に効果のある働き方となります。
■対策の基本ポイント
- 自社に高度プロフェッショナル制度が適用できる人材がいるかを確認する
- 現在の高度プロフェッショナル制度の課題を吟味した上で、導入を検討する
- 導入する場合は、厚生労働省の高度プロフェッショナル制度の導入フローに従って、労使委員会などの設置や決議を行う
7.月60時間超残業に対する割増賃金引上げ
2019年4月以前から大企業では月60時間を超える残業に対して、割増賃金率が50%以上に引き上げられています。時間外労働の上限規制と合わせて、経理担当者を含むすべての社員は、できるだけ残業をしない意識を求められることになるでしょう。
※中小企業は2023年4月から施行