消費税法改正が実施されると、標準税率(10%)、軽減税率(8%)、さらに経過措置となる税率(8%)の、それぞれの税率に対応する会計処理を行うことになります。各商品の適用税率を区分して消費税を計算し、請求書を発行する際には「区分記載請求書保存方式」に則り適用税率とその合計額を記載しなければなりません。また、2023年10月1日から始まる「インボイス制度(適格請求書等保存方式)」の対応も見越す必要があるなど、消費税法改正は経理担当者にとって大きな負担となることが予想されています。
特に軽減税率の対象となる「飲食料品」を大量に扱う食品卸売業界では、取り扱う多種多様な商品の税率をひとつずつ判断していかなければならないほか、製造業からの仕入れと小売業への販売の、両方のタイミングで対応する必要があります。消費税法改正直後から円滑に経理業務を進めるためには、会計システムの改修はもちろん、社内外の関係者との情報共有も重要になるでしょう。
経理/財務消費税 2019/05/14
業界別!消費税の増税・軽減税率の影響と対応について【食品卸売業界編】
2019年10月に予定されている消費増税の施行まで、ついに半年を切ろうとしています。経理ドリブンではこれまで「リース業界」や「食品製造業界」など、消費税法改正のインパクトが大きいとされている業界に焦点を当て、その影響と対応について解説してきました。今回は食品卸売業界について、適用税率の判断ポイントや受発注時の注意点などをご紹介します。
卸売業界は消費税法改正の対策が必須
仕入れ、在庫管理、販売(請求・決済)時のポイント
商品に標準税率(10%)と経過措置を含む軽減税率(8%)のどちらが適用されるかは「商品の取引」のタイミングで判断します。下記にそれぞれの取引における判断ポイントをまとめました。
■仕入れのポイント
■在庫時のポイント
■販売時のポイント
飲食料品とは「食品表示法に規定する食品」のことを指し、飲食を目的とした品物であれば調味料も飲食料品に含まれます。一方、塩を取引したとしても目的が医薬用などの場合は、軽減税率は適用されません。また酒類も飲食料品には含まれないので注意が必要です。
飲食料品に含まれるものと、それ以外のものの例を以下で簡単にご紹介します。
また、一体資産や販売時に必要な包装材料にも軽減税率が適用される場合がありますので注意してください。
※参考記事:業界別!消費税の増税・軽減税率の影響と対応について【食品製造業界編】
■仕入れのポイント
- 仕入先が「飲食料品」として自社に販売した場合⇒軽減税率(8%)を適用
- 仕入先が「飲食料品」として販売しなかった場合⇒標準税率(10%)を適用
■在庫時のポイント
- 保管を外注委託している場合⇒委託費には標準税率(10%)を適用
■販売時のポイント
- 自社が小売店に「飲食料品」として販売する場合⇒軽減税率(8%)を適用
- 自社が小売店に「飲食料品」として販売しなかった場合⇒標準税率(10%)を適用
飲食料品とは「食品表示法に規定する食品」のことを指し、飲食を目的とした品物であれば調味料も飲食料品に含まれます。一方、塩を取引したとしても目的が医薬用などの場合は、軽減税率は適用されません。また酒類も飲食料品には含まれないので注意が必要です。
飲食料品に含まれるものと、それ以外のものの例を以下で簡単にご紹介します。
食料品に含まれるもの | 食料品に含まれないもの |
ミネラルウォーター | 水道水 |
重曹(食用) | 重曹(清掃用) |
食用のかぼちゃの種 | 栽培用の種子のかぼちゃの種 |
食用のとうもろこし | 家畜の餌用のトウモロコシ |
枝肉 | 生きた家畜 |
活きアジ | 熱帯魚 |
また、一体資産や販売時に必要な包装材料にも軽減税率が適用される場合がありますので注意してください。
※参考記事:業界別!消費税の増税・軽減税率の影響と対応について【食品製造業界編】
発注書は税率ごとに分けるべきなのか
卸売業界では、仕入れや販売の際に発注書のやりとりが大量に発生します。当然、標準税率と軽減税率の対象商品が混在するケースもありますので、今から不安な経理担当者も多いと思います。発注書の作成に法的な規定はありませんが、一般社団法人日本加工食品卸協会では、受発注の混乱を防ぐために、以下のような提案をしています。
■発注書のガイドライン
以上のような取り決めを事前に行い、発注方法や記載事項を事前に取引先と合わせておくことで受発注時に混乱してしまうリスクを下げることができるでしょう。
※参考資料:消費税軽減税率対応企業間取引の手引き
■発注書のガイドライン
- 卸売業者⇒製造業者への発注書
製造業者が税率の適用を判断するため、発注書には税率項目を設けない。また、1つの発注書に軽減税率と標準税率が適用される商品が混在していても問題ないので、従来通りに発注する。 - 小売業者⇒卸売業者への発注書
小売業者の意向や要望もあるので、取引先ごとに従来通りの発注書と税率別に分けた発注書が送られてくるケースを想定する必要がある。ただし、基本的には卸売業者と同様に従来通りの発注書でやりとりする。
以上のような取り決めを事前に行い、発注方法や記載事項を事前に取引先と合わせておくことで受発注時に混乱してしまうリスクを下げることができるでしょう。
※参考資料:消費税軽減税率対応企業間取引の手引き
月末締めでない取引先との対応
数々の企業を相手にしている卸売業界の取引先には、毎月の締め日が月末でない企業もあることでしょう。その場合、2019年10月1日を挟んで、同一期内に旧税率と新税率が混在することになります。一般社団法人日本加工食品卸協会では、ミスや混乱を防ぐためにも、消費税法改正のタイミングを挟む期に関しては9月30日で一旦締めてもらうことを推奨しています。該当の取引先とは事前に協議を設け、認識を合わせておくと良いでしょう。
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