有価証券とは、株式・社債・国債・投資信託など、市場で取引できる証券の総称です。
有価証券の会計処理は、「どの目的で保有しているか」によってルールが異なります。
特に「売買目的有価証券」と「その他有価証券」は、評価方法や仕訳の扱いが異なり、決算書への影響も大きい項目です。
本記事では、それぞれの会計処理の違いと、その他有価証券評価差額金や税効果会計の考え方を含め、実務で迷わないためのポイントを整理します。
有価証券の基本知識と分類
有価証券は保有目的によって会計処理の方法が異なる特殊な資産です。
ここでは、まず有価証券の基本的な概念を押さえたうえで、保有目的に応じた具体的な分類について解説します。
有価証券とは
有価証券とは、国債や社債、投資信託などを購入する際に発行される、財産的な価値を持つ証券のことです。
有価証券は銀行や証券会社を通じて取得でき、法人・個人を問わず誰でも保有できます。
取得の目的は、投資収益の獲得や資金の運用などさまざまです。
【保有目的別】有価証券の分類
有価証券は、保有する目的や期間によって、主に次の4つに区分されます。
| 区分 | 
概要 | 
貸借対照表の表示科目 | 
| 売買目的有価証券 | 
短期的な売買による値上がり益や配当金を得る目的で保有する有価証券。 原則として1年以内に売買される。 | 
有価証券 | 
| 満期保有目的債券 | 
満期まで保有して利息収入を得る目的で保有する債券。 | 
投資有価証券(満期が1年超)/有価証券(満期が1年以内) | 
子会社株式 関連会社株式 | 
子会社や関連会社に対する支配・影響力を持つことを目的に保有する株式。 | 
子会社株式/関連会社株式
 | 
| その他有価証券 | 
上記いずれにも該当しない有価証券。長期投資や余裕資金運用などの目的で保有する株式・債券など。 | 
投資有価証券(満期が1年超)/有価証券(満期が1年以内) | 
 
有価証券は、貸借対照表では上記の区分に応じて表示されます。
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売買目的有価証券の仕訳方法
ここでは、売買目的有価証券の具体的な仕訳方法を解説します。
1.取得時
株式や債券を購入したときは、取得原価で計上します。
例:上場株式を売買目的で現金 1,000円で購入した場合
| 借方 | 
金額 | 
貸方 | 
金額 | 
| 売買目的有価証券 | 
1,000 | 
現金 | 
1,000 | 
 
なお、購入時に証券会社への手数料などの付随費用が発生した場合は、その金額も合わせて「売買目的有価証券」勘定に加えて処理します。
2.配当金や利息の受取時
取得後に受け取った配当金や利息は、収益として計上します。
上場株式から配当を受ける場合、配当金については源泉徴収税があらかじめ差し引かれる場合があります。
その場合、仕訳では 源泉徴収前の総額を「受取配当金」として計上し、控除された税額を「法人税、住民税および事業税」で処理します。
実際に受け取る現金は、源泉徴収後の金額となります。
例:配当金 10万円を受け取った場合
- 総額:100,000円
 
- 源泉徴収税額(15.315%とする):15,315円
 
- 受取現金:84,685円
 
| 借方 | 
金額 | 
貸方 | 
金額 | 
| 現金 | 
84,685 | 
受取配当金 | 
100,000 | 
| 法人税、住民税および事業税 | 
15,315 | 
 | 
 | 
 
3.期末評価時
売買目的有価証券は決算日に時価評価し、評価差額は「有価証券評価損益」として計上します。
例:取得原価1,000円、決算時の時価1,200円(200円の値上がり)
| 借方 | 
金額 | 
貸方 | 
金額 | 
| 売買目的有価証券 | 
200 | 
有価証券評価益 | 
200 | 
 
逆に、時価が下がった場合は「有価証券評価損」として費用処理します。
4.売却時
売却代金と帳簿価額との差額を「有価証券売却損益」で処理します。
例:帳簿価額1,200円の株式を1,300円で売却し、現金を受け取った場合
| 借方 | 
金額 | 
貸方 | 
金額 | 
| 現金 | 
1,300 | 
売買目的有価証券 | 
1,200 | 
 | 
 | 
有価証券売却益 | 
100 | 
 
もし売却額が帳簿価額を下回る場合は「有価証券売却損」として費用に計上します。
 
その他有価証券の仕訳方法
続いて、その他有価証券の具体的な仕訳方法を解説します。
1.取得時
その他有価証券を取得した際は、取得価額で資産計上します。
手数料など付随費用がある場合は「その他有価証券」勘定に含めて処理します。
例:その他有価証券に該当する株式を1,000円で購入、手数料50円を現金で支払った場合
| 借方 | 
金額 | 
貸方 | 
金額 | 
| その他有価証券 | 
1,050 | 
現金 | 
1,050 | 
 
2.期末評価時
期末における「その他有価証券」の評価は、すぐに換金することを前提としたものではありませんが、将来的な売却を見据えた時価評価が行われます。
その結果生じた差額は、損益計算書に直接反映するのではなく、「その他有価証券評価差額金」として貸借対照表の純資産に計上されます。
「その他有価証券評価差額金」とは、その他有価証券の帳簿価額と時価との差額をまとめたもので、評価益や評価損を一時的に純資産に振り分けるための科目です。
さらに、その他有価証券評価差額金には「税効果会計」が適用されます。
「税効果会計」とは、会計上と税務上の利益のタイミングのずれを調整する仕組みのことです。
例えば、評価益が出れば将来売却したときに課税されるため、その分を「繰延税金負債」として先に認識します。
逆に評価損が出れば、将来の課税が減るため「繰延税金資産」として計上します。
例:期末時価が1,050円から1,200円に上昇した場合(全部純資産直入法)
- 帳簿価額:1,050円
 
- 期末時価:1,200円
 
- 評価差額:+150円
 
- 実効税率:30%
 
| 借方 | 
金額 | 
貸方 | 
金額 | 
| その他有価証券 | 
150 | 
その他有価証券評価差額金 | 
105 | 
 | 
 | 
繰延税金負債 | 
45 | 
 
例:期末時価が1,200円から1,050円に下降した場合(全部純資産直入法)
- 帳簿価額:1,200円
 
- 期末時価:1,050円
 
- 評価差額:-150円
 
- 実効税率:30%
 
| 借方 | 
金額 | 
貸方 | 
金額 | 
| その他有価証券評価差額金 | 
105 | 
その他有価証券 | 
150 | 
| 繰延税金資産 | 
45 | 
 | 
 | 
 
3.翌期首における評価差額の処理
翌期首に仕訳を行う際には、その他有価証券の評価差額を振り戻して処理します。
この処理方法を「洗替法」と呼びます。
例:前期末に評価益 150円(税効果後105円)を計上していた場合
| 借方 | 
金額 | 
貸方 | 
金額 | 
| その他有価証券評価差額金 | 
105 | 
その他有価証券 | 
150 | 
| 繰延税金負債 | 
45 | 
 | 
 | 
 
例:前期末に評価損 150円(税効果後105円)を計上していた場合
| 借方 | 
金額 | 
貸方 | 
金額 | 
| その他有価証券 | 
150 | 
その他有価証券評価差額金 | 
105 | 
 | 
 | 
繰延税金資産 | 
45 | 
 
4.売却時
売却額と帳簿価額との差額は「投資有価証券売却益」または「投資有価証券売却損」として損益に計上します。
また、売却した分の評価差額金は取り崩します。
例:帳簿価額1,200円の株式を現金1,300円で売却した場合
| 借方 | 
金額 | 
貸方 | 
金額 | 
| 現金 | 
1,300 | 
その他有価証券 | 
1,200 | 
 | 
 | 
投資有価証券売却益 | 
100 | 
 
※なお、先述の洗替法を採用している場合には、翌期首で評価差額を振り戻しているため、売却時にあらためて評価差額金を取り崩す必要はありません。
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有価証券の会計処理と税務処理の違い
有価証券の減損処理における会計処理と税務処理は、その判定基準、特に「50%ルール」や「回復可能性」の考え方において違いがあります。
ここからは、その他有価証券を中心に、それぞれのポイントを分かりやすく解説します。
会計上の減損処理
会計上、売買目的有価証券を除く有価証券は、「時価が著しく下落」し、かつ「回復が見込めない」場合に減損処理(評価損の計上)が求められます。
判定基準1:時価の著しい下落
時価の「著しい下落」の判定は、取得原価に対する時価の下落率を目安に次のように判断します。
| 下落率 | 
判断 | 
| 50%以上の下落 | 
原則として「著しい下落」に該当。 合理的な反証がない限り、減損処理が必要。 | 
| 30%以上〜50%の未満の下落 | 
企業が文書によって設定した合理的な基準を継続適用して判断。 | 
| 30%未満の下落 | 
通常は「著しい下落」に該当せず、減損不要。 | 
 
判定基準2:回復可能性
「著しい下落」に該当した場合でも、時価が回復する見込みが合理的に認められるときは、減損処理は不要です。
株式の場合
期末日からおおむね1年以内に時価が取得原価に近い水準まで戻ると合理的に予測できれば、「回復可能性あり」と判断されます。
例えば、以下のような場合は回復可能性がないと判断されます。
- 発行会社が債務超過の状態にある
 
- 2期連続で損失を計上しており、翌期も損失が見込まれる
 
債券の場合
信用リスク(発行体の財政状態の悪化など)に起因する時価の下落は、原則として回復する見込みがあるとは認められません。
税務上の減損処理
税務上における有価証券の評価損は、会計上と比べて取り扱いが厳しく、損金算入が認められる範囲は限定的です。
原則として、有価証券の評価損は損金には算入できません。
ただし、価値が著しく下落し、かつ回復の見込みがないと客観的に判断できる「特別な事実」がある場合に限り、例外的に損金算入が認められます。
上場株式などの場合
損金算入するためには、一般的に次の両方の条件を満たし、価額が著しく低下したことが認められる必要があります。
- 時価が著しく下落していること(50%ルール)
決算日時点の時価が、帳簿価額のおおむね50%を下回っていること。 
- 近い将来に回復の見込みがないこと
近い将来に、株価が回復する見込みがないと合理的に説明できること。 
発行会社の財政状態(債務超過や2期連続の赤字など)や、証券アナリストなどの専門家による見解といった客観的な根拠が必要になります。
非上場株式などの場合
   
非上場株式については、時価評価が難しいため、税務上でも評価損の損金算入が厳格に制限されています。
ただし、法人税施行令第68条では、一定の要件を満たす場合に評価損の計上が認められることがある旨が定められています。
以下のような場合は「その株式の発行法人の資産状態が著しく悪化した」とみなされ、帳簿価額を下回る価額に評価し、損金算入が認められます。
- 発行法人が、取得後相当期間を経たのち、以下のいずれかの法的整理手続に入った場合
 
- その事業年度末において、発行法人の1株(または1口)あたりの純資産価額が、取得時に比して概ね50%以上下落している場合
 
上記のいずれかに該当すれば、非上場株式であっても、税務上、評価損を損金に算入することが可能です。
※本記事の内容は掲載日時点での情報です。
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有価証券は保有目的によって会計処理が異なり、誤った判断は財務諸表の信頼性を損ねかねません。
評価方法や仕訳の扱いを正しく理解することで、実務での迷いを減らすことができます。
経理担当者にとって必須のポイントを押さえ、実務の精度向上にぜひ役立ててください。