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経理/財務公認会計士の仕事術 2025/09/10

第47回 経理パーソンが見た目で決めてはいけないこととは?

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前回まで「現金実査」を題材に、経理の4つの心得について説明してきました。今回は、なにが「固定資産」でなにが「棚卸資産」になるのか、なにをもって判断するのかなど、B/Sの資産計上区分について説明いたします。

1.はじめに

最初に質問です。今、ある企業が「10階建てのビル」と「超軽量のパソコン」を買いました。どちらが固定資産でどちらが棚卸資産でしょうか。経理パーソンのあなたなら、即答できそうな問題でしょうか。
今回の「公認会計士のすごい仕事術」は、いつもと違った趣で、この質問の答えを探りつつ、経理の心得を考えてみることにしましょう。

2.ケースで考える ~資産のB/S計上区分

まずは、ある経理部での様子を描いた【ケース】をご覧ください。

【ケース】

冒頭の質問に対して、経理部の新人Aさんと先輩Bさんが答えてくれました。

新人Aさん「10階建てのビルが固定資産、超軽量のパソコンが棚卸資産に決まってますよね」

先輩Bさん「どうして?」

新人Aさん「10階建てのビルって言ったら地面にしっかり固定されてて、とてもじゃないけど動かせない。当然、10階建てのビルは固定資産。超軽量のパソコンなら持ち運びも簡単ですし、固定資産じゃないですよね」

先輩Bさん「10階建てのビルは当然、固定資産だろうけど、超軽量のパソコンだって固定資産じゃないの? うちの会社はビルもパソコンも固定資産に計上してるし…。どっちかが棚卸資産だとしたら、これまでの処理が間違ってたってこと?」
あなたなら、どんな回答をしますか。Aさんと同意見、Bさんと同意見、それとも……。
【ケース】で新人Aさんはどういう判断をしたかと言うと、10階建てのビルは固定されていて動かせそうもないから固定資産で、超軽量のパソコンは持ち運びも簡単だから固定資産ではないとしています。確かに「固定資産」という言葉から受ける印象はAさんのとおりかもしれませんが、どうもAさんはモノの見た目の印象で判断してしまっているようです。
一方、先輩Bさんはどうかと言うと、やはりビルは見た目に引きずられているようです。それどころか、自分の会社がビルもパソコンも固定資産にしているからと、よく考えずに答えているようです。
結論から言うと、AさんやBさんの答えが正しいかどうかは、【ケース】を見ただけだと判断できません。固定資産なのか棚卸資産なのかを判断する上では、その資産をなんのために保有しているのかという「保有目的」の情報が必要だからです。

(1)B/Sの資産計上区分の違い
棚卸資産は、販売する目的で一時的に保有している商品・製品等の総称で、製品の製造目的で費消される原材料や、製造途中の製品である仕掛品等も含まれます。一方、固定資産(そのうちの有形固定資産・無形固定資産)は、長期にわたって事業に使用するために保有する資産です。
【ケース】に出てきたビルは確かに固定資産(そのうちの有形固定資産)として計上されることが多いのは事実です。ただし、それは、地面に固定されていて動かせないからではなく、長期にわたって事業に使用する目的で保有しているからです。通常、ビルは本社や支店、営業所、工場などとして長期にわたって使用するために保有することが多いでしょう。このため、ビルは固定資産に区分されることが多いのですが、仮に不動産業のように、販売する目的でビルを保有している場合はどうでしょうか。この場合、不動産業にとってのそのビルは、商品と同じで、棚卸資産なのです。
【ケース】に出てきたパソコンはどうでしょうか。簡単に持ち運べるから固定資産には当たらないということではありません。販売目的で仕入れたパソコンであれば商品、販売目的で製造したパソコンであれば製品で、いずれも棚卸資産となります。一方、社員たちが業務を行う上で使用するためのパソコンであれば、固定資産(そのうちの有形固定資産)となります。

また、B/Sの固定資産はさらに、「有形固定資産」・「無形固定資産」・「投資その他の資産」に区分されます。長期にわたって事業に使用するために保有するビルであれば有形固定資産ですが、賃貸等の投資目的で保有するビルであれば投資その他の資産(そのうちの投資不動産)となります。
見た目は同じビルだとしても、保有目的によって、有形固定資産の場合(=使用目的)もあれば、投資その他の資産の場合(=投資目的)もあれば、棚卸資産の場合(=販売目的)もあるというわけです。

(1)で見てきた点は、B/Sの計上区分の話に限らず、経理パーソンが直面する様々な判断の場面にも通じるところがあります。よく確認せずに思い込みで判断してしまうと、誤った判断をしてしまいかねないので注意しましょう。

(2)保有目的の明確化等
こうして見てくると、「保有目的」がいかに大事なのかがお分かり頂けたことでしょう。だからこそ、この保有目的に注意する必要があるとともに、客観的に保有目的がはっきりするような配慮も必要になります。そして、経理パーソンであれば、例えば、定款の事業目的に合致しているかをチェックするとか、取得する際の決裁関係の書類になんのために取得するのかが分かるような記載を残すようにする(残されていなければ改善を促す)とか、保有目的に照らして使用や販売の実態が伴わない状況が起こっていないかをチェックするなどといったことに、気を付ける必要があるかもしれません。

(2)で見てきた点は、資産の保有目的の話に限らず、経理パーソンが直面する様々な判断の場面にも通じるところがあります。保有目的が資産のB/S計上区分の判断のキモであるように、判断する際には何かしら判断に際してのキモとなるものがあるはずです。こうした判断のキモをしっかりチェックするとか、判断の根拠をしっかり記録しておくといったことに注意しましょう。

(3)資産の計上区分が変わることによる影響は?
ところで、棚卸資産や固定資産など、B/Sの計上区分が変わることによって、どんな影響が生じるのでしょうか。真っ先に思いつくのは会計処理への影響でしょうが、それ以外にもあります。そして、こうした影響を考えてみるということは経理パーソンにとって大事なことではないかと思います。

①会計処理への影響
見た目は同じパソコンでも、棚卸資産のパソコンと有形固定資産のパソコンでは会計処理が全く異なることは言うまでもありません。棚卸資産のパソコンであれば、販売するまでは原則として損益は計上しませんが、有形固定資産のパソコンであれば、毎期減価償却費を計上していくことになります。費用の計上区分については、棚卸資産であれば売上原価、有形固定資産であれば販売費及び一般管理費(あるいは製造原価)となり、損益計算書上の計上区分も変わってきます。会計処理への影響や、それを通じての財政状態や経営成績への影響が生じることになります。

②事務処理・管理業務への影響
事務処理・管理業務にも違いが出てきます。棚卸資産のパソコンであれば、倉庫などに入庫した上、保管管理します。商品受払帳などで入出庫や在庫の管理を行う対象となります。実地棚卸の対象にもなりますし、場合によっては滞留状況や販売見込みの把握なども必要になるかもしれません。
一方、有形固定資産のパソコンであれば、固定資産台帳に記録し、減価償却計上することになります。現物資産には固定資産の管理番号を記載したシールなどを貼り付けて管理することになるでしょう。定期的に実査して実際に使われていることを把握することなども必要になるかもしれません。

③資金繰りへの影響
B/Sの計上区分と資金繰りとの関係と言われてもよく分からないかもしれませんが、実は、財務諸表の数値をもとにして、各種の経営指標が算出されることがあります。例えば、流動比率(=流動資産÷流動負債)や固定比率(=固定資産÷純資産)などの経営指標は、棚卸資産なのか固定資産なのかによって数値が変わってきます。金融機関がこれらの資料を分析して、融資の可否や貸付利率を検討しているとすると、資金繰りへの影響もあり得るでしょう。

実際には、今回例として挙げたような、棚卸資産か固定資産かの判断で迷うケースはあまりないかもしれません。しかし、上述したような影響があり得ることは頭の片隅に置いておいても良いでしょう。

(3)で見てきた点は、資産の計上区分が変わることによる影響の話に限らず、経理パーソンが直面する様々な判断による影響にも通じるところがあります。あるときの判断結果が、後々思わぬ影響をもたらすこともあり得ます。何らかの判断に際しては、その影響をできる限り想定しておくようにしましょう。

3.おわりに ~B/Sの資産計上区分から経理の心得を学ぼう

今回の【ケース】を通じて、B/Sの資産計上区分をその資産の見た目だけで判断すると失敗するということを説明してきました。そして、大事なのは資産の見た目ではなく、保有目的でした。資産を見た目で判断してしまうというのは、よく確認せずに思い込みで判断してしまっている状態と言ってもいいでしょう。その結果、実は資産計上区分が異なり、会計処理も全く違っていたなどという失敗にもつながりかねません。
今回はB/S計上区分を例に説明しましたが、それに限らず、経理パーソンが何かの区分を判断する際には、思い込みで行うのではなく、何がそれらを区分するキモなのかをしっかり押さえて頂ければと思います。また、その区分の違いによって、どんな影響が生じるのかにも考えを巡らせることが大事です。経理パーソンの判断においては、①会計処理(財政状態や経営成績を含む)への影響、②事務処理・管理業務への影響、③資金繰りへの影響、などは特に考慮すべき場合が多いでしょう。こうした観点も、影響を考える際の参考にして頂ければと思います。
最初の区分のところをなんとなく印象で判断してしまい、誤った区分をしてしまったために、その後に大きな影響が生じてしまうことは十分あり得ますので、今後そんな判断をするシーンに直面したときは、是非今回の話を思い出して判断の参考にして頂けますと幸いです。

(提供:税経システム研究所)
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いかがでしたでしょうか。B/Sの資産計上区分の際、経理パーソンが資産の見た目や思い込みで判断をすると、後に大きな影響が生じてしまう可能性があるというのを、具体例を交えて説明いたしました。
次回は、第48回 実地棚卸から学ぶ、経理の心得(1)になります。お楽しみに!
なお、このコラムの提供元である税経システム研究所については下記をご参照ください。

税経システム研究所
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