企業が人材を考えるうえで、従業員の雇用形態は重要なポイントとなります。
とはいえ、「どの雇用形態を選べばいいのか」「正社員と契約社員をどう使い分ければいいのか」など、悩まれている担当者も多いのではないでしょうか。
2024年4月には無期転換に関するルールの改正もあり、労務管理の対応力がますます求められています。
今回の記事では、各雇用形態の特徴を整理しながら、実務で押さえておきたいポイントを解説します。
主な雇用形態の種類と特徴
まずは代表的な雇用形態について解説します。
正社員
正社員は、労働者が企業に直接雇用される、契約期間に定めのない無期雇用の雇用形態です。
一般的にフルタイム勤務で月給制が採用され、賞与や昇給・社会保険・福利厚生などの待遇も整っています。
雇用の安定性が高く、解雇には正当な理由が必要です。
業務範囲や責任が広いため長期的なキャリア形成が期待される一方で、正社員以外の雇用形態と比べると拘束時間や業務負担は大きくなる傾向があります。
契約社員
契約社員は、労働者が企業と期間を定めた有期労働契約を結んで働く雇用形態です。
契約期間は最長3年(高度専門職や満60歳以上は5年)で、契約満了時に更新するかどうかを判断します。
賞与や昇給、福利厚生の内容は企業によって異なり、正社員と比べて制限されることもあります。
業務範囲は正社員と同等のケースもありますが、責任の重さや昇進機会などには差があることが一般的です。
専門スキルを活かして、期間限定のプロジェクトや特定の業務に従事するケースが多いのも契約社員の特徴です。
派遣社員
派遣社員は、労働者が派遣会社と雇用契約を結び、派遣先企業で一定期間働く雇用形態です。
給与の支払いや社会保険の手続きは派遣会社が行い、同一の派遣先での勤務は原則3年までと定められています。
業務内容は契約時に明確に定められ、派遣先企業が契約外の業務を指示することは基本的にできません。
継続的な雇用は期待しにくいものの、即戦力人材を必要な期間だけ確保できる点で、柔軟な人材活用が可能です。
アルバイト・パート
アルバイト・パートは、労働者が企業と直接雇用契約を結ぶ、短時間勤務を前提とした雇用形態です。
契約は有期雇用が一般的ですが、無期契約となる場合もあります。
業務内容はマニュアルに沿った作業や補助的な業務が中心で、学生や主婦など、ライフスタイルに合わせて働く人が多く見られます。
一定の条件を満たせば社会保険に加入することも可能ですが、昇給や福利厚生の面では正社員に比べると限定的です。
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各雇用形態の企業にとってのメリット・デメリット
各雇用形態の特徴を踏まえ、企業側のメリットとデメリットを見ていきましょう。
正社員
正社員は他の雇用形態に比べてコストはかかりますが、長期的な人材育成や組織づくりを見据える企業にとって有効な雇用形態です。
ノウハウの蓄積が必要な業務を任せたい場合や、将来的に管理職・責任者といったリーダー層を育てていきたい場面では、正社員の雇用が適しているでしょう。
メリット
- 長期的な雇用を前提とするため、人材を計画的に育成できる
- 業務の責任者や管理職など、重要なポジションを任せやすい
- 企業文化や価値観を浸透させやすく、組織の一体感を醸成できる
- 業務の習熟度が高まり、生産性や業務品質が安定しやすい
- 労働時間や業務内容の柔軟な調整がしやすい(残業・異動など)
- 業務ノウハウの蓄積や継承ができる
デメリット
- 人件費が高く、賞与・退職金・社会保険などの固定費が発生する
- 採用・育成に時間とコストがかかる
- 短期離職が続くと、教育コストが企業の負担となりやすい
- ミスマッチ人材でも簡単に雇用関係を解消できない
- 慢性的な業務負担や残業が続くと、離職リスクやメンタル不調が発生しやすい
契約社員
契約社員は、コストを抑えつつ柔軟に人材を活用できる雇用形態です。
繁忙期や一時的な業務量の増加に対応したいときや、専門スキルを持つ人材をプロジェクト単位で活用したいときには、契約社員の雇用が適しているでしょう。
メリット
- 業務の繁閑に応じて人員の調整ができる
- 正社員よりも人件費や福利厚生コストを抑えやすい
- 専門性が高い人材をプロジェクト単位で活用しやすい
- 契約満了により自然な人員調整が可能で、解雇リスクが低い
- 正社員登用の前段階として適性を見極められる
デメリット
- 契約期間が限定されているため、長期的な人材育成が難しい
- 優秀な人材でも契約終了により流出するリスクがある
- 更新時に都度契約を締結する必要があり、管理工数が増える
- 正社員に比べて帰属意識やモチベーションが低くなることがある
- 任せられる職務が限られ、勤務地や部署の変更が難しい
派遣社員
派遣社員は、採用や労務管理の手間を抑えつつ、即戦力を短期間で確保できる雇用形態です。
急な欠員対応や繁忙期の人員補充はもちろん、経理・IT・翻訳などの専門スキルを持つ人材をスポット的に活用したい場合にも有効です。
メリット
- 必要な期間・業務に限定して柔軟に人材を確保できる
- 派遣会社が雇用主となるため採用や労務管理の手間が少ない
- 即戦力となる人材を迅速に確保でき、教育コストを抑えられる
- 特定のスキルに特化した人材を確保しやすい
- 派遣期間終了後、優秀な人材を紹介予定派遣などで直接雇用することも可能
デメリット
- 同じ派遣社員を受け入れられる期間に制限がある(原則3年)
- 雇用契約は派遣会社との間にあるため依頼できる業務に制限がある
- 派遣料金にマージンが含まれるため、コストが割高になることがある
- 長期的なノウハウ蓄積や組織への定着が期待しにくい
- 労使関係が直接ではないため、モチベーション管理がしにくい
アルバイト・パート
アルバイト・パートは、コストを抑えつつ、必要な時間帯や業務に応じて柔軟に人材を確保できる雇用形態です。
特定の時間帯に人手を増やしたいときや、正社員がコア業務に集中できるように定型業務や単純作業を効率よく任せたいときにはアルバイト・パートの雇用が適しているでしょう。
メリット
- 人件費を抑えやすい(時給制・福利厚生の適用範囲が限定的)
- 短時間・短期間でも雇用できるため、柔軟な人員配置が可能
- 繁忙期や特定時間帯だけの人手確保に適している
- 地元の学生や家庭と両立して働く人など、地域密着型で採用しやすい
- 単純作業・定型業務を任せることで、正社員の負担を軽減できる
デメリット
- 長期的な人材育成が難しく、ノウハウが蓄積されにくい
- 離職率が高く、安定的な人員確保がしにくい
- 責任のある業務を任せにくい
- シフト調整や勤怠管理の手間がかかる
- 未経験者が多いため、研修や現場指導が必要になることも多い
企業における雇用形態のメリット・デメリットまとめ
上記をまとめると、基本的に以下の表のように考えられます。
雇用形態 |
育成のしやすさ |
即戦力性 |
人件費コスト |
採用・管理 コスト |
柔軟性 |
雇用の安定性 |
備考 |
正社員 |
⊚ 長期育成向き |
△ 要教育 |
× 賞与・社保あり |
× 手間・費用が大きい |
○ 異動・残業が可能 |
⊚ 長期前提 |
組織への定着やノウハウ蓄積に強み |
契約社員 |
△ 限定的 |
○ 経験者が多い |
○ 正社員より低い |
△ 更新・管理が必要 |
○ 契約内容で調整可 |
△ 契約終了で離職リスクあり |
専門業務や中期プロジェクト向き |
派遣社員 |
× 教育しにくい |
⊚ 即戦力が多い |
△ 派遣マージンあり |
⊚ 派遣会社が対応 |
△ 派遣契約の範囲内 |
△ 最長3年の制限 |
欠員補充や専門職のスポット対応に強い |
アルバイト・パート |
× 育成前提ではない |
△ 指導が必要 |
⊚ 時給・日給制で抑えやすい |
△ 勤怠・シフト管理が必要 |
⊚ シフト調整しやすい |
× 離職率高く不安定 |
補助業務・特定時間帯の戦力として有効 |
※上記は基本的な考え方に基づいた内容であり、状況によっては異なる場合があります。
組織の人的資源を最大限に活用!
給与・人事システム
複雑な支給形態を網羅!勤怠管理などのシステムとも連携することで、給与・賞与計算を自動化できます。また、従業員のあらゆる情報を適切に管理することで、組織の人的資源を最大限に活用することができます。
雇用形態に応じた労務管理の3つのポイント
ここからは、雇用形態ごとに注意すべき労務管理の重要ポイントを3つ紹介します。
1.【2024年10月改正】社会保険の加入条件の正確な把握
複数の雇用形態を採用している場合、雇用形態ごとに異なる社会保険の加入条件を正しく理解し、適切に運用することが重要です。
なお、派遣社員は実際に雇用契約を結んでいる派遣元企業で社会保険に加入します。
健康保険・厚生年金保険の加入条件
雇用形態 |
加入条件 |
正社員 |
原則すべての正社員が加入義務あり |
非正規雇用 (契約社員・アルバイト・パートタイマーなど) |
下記、2024年10月に実施された社会保険適用拡大後の要件1または2を満たす場合、加入が必要 |
2024年10月に実施された社会保険適用拡大後の要件
- 週の所定労働時間及び月の所定労働日数が、常用雇用者の4分の3以上であること
- 以下の5つの条件をすべて満たしていること
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 月額賃金が88,000円以上
- 2カ月を超える雇用の見込みがある
- 学生でない
- 従業員数が51名以上の事業所に勤めている
雇用保険・労災保険の加入条件
保険種別 |
加入対象 |
労災保険 |
全労働者(雇用形態に関係なし) |
雇用保険 (契約社員・アルバイト・パートタイマーなど) |
週20時間以上勤務し、かつ31日以上継続して雇用される見込みがある者 |
社会保険の加入漏れがあると、追徴金や罰則の対象となる可能性があります。
雇用契約書の記載内容と、実際の労働時間・日数を照合し、正確な判断を行いましょう。
※参考資料:厚生労働省「社会保険適用拡大ガイドブック」
※関連記事:社会保険の適用拡大とは?従業員数が50人を超えたら要注意!
2.【2024年4月改正】「無期転換ルール」の遵守
無期転換ルールとは、有期契約で働く従業員(契約社員・パート・アルバイトなど)が、同一企業で通算5年を超えて勤務した場合、労働者の申し出により無期雇用契約へ転換できる制度です。
企業はこの申し出を拒否できません。
申込み可能時期の直前に雇い止めを行った場合は、無効とされる可能性があるため注意が必要です。
さらに、2024年4月からは、無期転換に関する事項を雇用契約時に明示することが義務付けられました。
企業は、契約更新ごとに通算勤務年数を正確に管理し、対象者の有無を常に把握できる体制を整える必要があります。
※参考資料:厚生労働省「無期転換ルールについて」
※関連記事:【2024年4月改正】労働条件明示のルール変更!無期転換ルールに関わる改正点とは?
3.同一労働同一賃金の実現
「同一労働同一賃金」とは、正社員と非正規雇用者の間で、仕事内容や責任の程度が同じであれば、雇用形態にかかわらず公正な待遇を行うべきとする考え方です。
近年はこの原則がより重視されており、不合理な待遇差の是正が企業に強く求められています。
雇用形態に関係なく、貢献度に応じた適切な処遇を行う姿勢は、企業の信頼性向上や人材定着にもつながります。
また、厚生労働省の「キャリアアップ助成金」のように、非正規雇用者の処遇改善に取り組む企業に対し、支援金が支給される制度も用意されています。
※参考資料:厚生労働省「キャリアアップ助成金」
※関連記事:働き方改革の大本命、同一労働同一賃金がもたらす経理の現場への影響は?
※本記事の内容は掲載日時点での情報です。
組織の人的資源を最大限に活用!
給与・人事システム
複雑な支給形態を網羅!勤怠管理などのシステムとも連携することで、給与・賞与計算を自動化できます。また、従業員のあらゆる情報を適切に管理することで、組織の人的資源を最大限に活用することができます。
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企業にとって人材は最大の資産であり、雇用形態の使い分けは重要な経営判断の一つです。
各雇用形態にはメリットとデメリットがあり、業務内容や組織の成長段階に応じて最適な選択が求められます。
また、無期転換ルールや同一労働同一賃金、社会保険の適用など、法令対応も欠かせません。
適切な管理体制と法令順守を通じて、持続的かつ健全な組織運営を実現していきましょう。