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経理/財務公認会計士の仕事術 2025/03/13

第23回 「プロセス思考」で転んでもただでは起きない(その14)

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前回まで、プロセス思考のステップのうち、4つ目のステップまで説明してきました。今回は、プロセス思考の5thステップとして、発生した問題を業務改善につなげていくことについて説明していこうと思います。

1.はじめに

仕事をしていく中では、時として問題が発生することもあります。問題なんて起きない方がいいのかもしれませんが、本稿を通じてご紹介している仕事術「プロセス思考」を知っていると、実際に問題が発生したとしても、そのマイナス要因を業務改善のチャンスに変えることもできるのです。
本稿ではここまで、プロセス思考のステップのうち、4つ目のステップまで説明してきました。

【1stステップ】ザックリとプロセスをつかむ

【2ndステップ】起こりがちな問題のパターンを押さえておく

【3rdステップ】起こりがちな問題をプロセスと紐づける

【4thステップ】問題が起きやすいプロセスが持つ弱点を押さえておく


ここまでのステップは問題の発生原因を特定していくステップでした。

そして次に考えるべきことは、発生した問題を業務改善につなげていくことです。そのためには、問題の発生原因の特定から出てきた改善ポイントを整理する必要があります。今回はプロセス思考の5thステップとしてこの点を見ていくことにしましょう。

2.ケースで考える プロセス思考のステップ(5thステップ)

それでは、ある企業の仕入計上に関わる現場での様子を描いた次の【シーン】をご覧ください。これは第21回 『「プロセス思考」で転んでもただでは起きない(その12)』で取り上げたものを再掲したものです。

【シーン1(T社のケース)】(第21回と同様)
経理担当のAさんは購買部門から回付されてきた請求書に基づき、仕入計上の会計処理を行っています。ある日のこと、前月の仕入計上額が妙に大きいことを上司に指摘されました。調べてみたところ回付されてきた仕入先S社からの請求書がいつもよりもだいぶ多額であり、Aさんは購買部門に問い合わせをしてみることにしました。
さらに原因を追及していくと、仕入先が誤って注文数の10倍の商品を納品してしまっていたのに、それに気づかずに仕入計上してしまっていたことが分かってきました。
なお、その後のさらなる調査の結果、これ以外にも同様の誤りが何件か発生していたのでした。

今回のような問題に遭遇した経理担当のAさん、問題の発生原因は自分ではないとしても、仕入計上額の誤りにつながってしまっている今回の問題を何とか良い方向に変えていきたいと考えました。
実際に改善していこうとすれば、当然、購買部門や倉庫部門などからもメンバーを集めた改善プロジェクトを立ち上げるといったことも必要になってくるかもしれませんが、まずは自分なりに改善に向けての提案項目を検討してみようと思ったのです。
問題の発生原因を追及していく過程では、購買部門や倉庫部門へのヒアリングなども必要ですが、プロセス思考を活用することで、4W2Hの観点を使った「整備面の弱点」の追及、自己チェックと他者チェック並びに発見チェックと予防チェックの観点を使った「運用面の弱点」の追及を行ってきました。その結果、購買部門で行われている入荷プロセスの業務について弱点が見えてきました。


入荷プロセスでの処理に関するルール(現状)
発注した商品が仕入先から納品されたら、倉庫部門の担当者は遅滞なく商品(現物)を倉庫に保管するとともに、「納品書」は購買部門に回付する。購買部門では担当者が倉庫部門から回付された納品書を注文書と照合する。


【図表1】チェックリストを使った「整備面の弱点」の追及結果(購買部門部分)
項目 Y N 状況についてのコメント
1 When(時期)に関する適切なルールがあるか? 購買部門では、「納品書」を「注文書」と照合することになっているが、それをいつ(いつまでに)実施するのかという時期に関するルールは特に定まっていない。
2 What(元資料)に関する適切なルールがあるか?   「納品書」を「注文書」(元資料)と照合することになっている。
3 Who(人)に関する適切なルールがあるか? 担当者は定まっている。
4 How(手段)に関する適切なルールがあるか? 購買部門では、「納品書」を「注文書」と照合することになっているが、具体的なやり方が定まっていない。どの項目を照合するのか、全件照合するのかサンプルで照合するのか、照合した証跡はどのように残すのか、不一致だった場合はどうするのかなども定まっていない。
5 Why(趣旨)の考慮がされているか? なぜ注文書と納品書を照合する必要があるのかなど、規程やマニュアルなどを含め、その趣旨が不明確なままの状況である。
6 How Much(コスト対効果)の考慮がされているか? 上記№4のとおり、「納品書」と「注文書」との照合について具体的なやり方が定まっていない。当然、以下のような点について、コスト対効果を考慮してルールを定めているわけでもない。

・業務の正確性を重視して全件照合することにするのか

・コスト対効果を考慮してサンプルで照合することにするのか

・サンプルで照合する場合、どのくらいの件数照合するのか

・サンプルで照合する場合でも、一定の金額以上のものなど重要なものは全件照合するのか

・サンプルで照合することとする代わりに別の帳票で異常の有無を確認するのか


経理担当のAさんは、T社における入荷プロセスでの処理に関する現状のルール(購買部門部分)の弱点を、【図表1】のチェックリストを使って確認したところ、「N」(=No)の欄に✔が入った項目が出てきました(No.1、4、5、6)。それぞれの状況については「状況についてのコメント」欄に記載のとおりでした。
T社では、担当者が行うべき処理に関するルールがあいまいなまま業務が進められており、注文とは異なる納品がされたことに気づかなかったわけです。そこで、あいまいなままになっている部分のルールを定めることとし、【図表2】のような項目を織り込むことを提案してみようと考えたのです。


【図表2】「整備面の弱点」にかかる見直し案の検討 
検討項目 見直し案
1 いつまでに実施するのか 3営業日以内
4 どの項目を照合するのか 品番(商品名)、数量他
4 全件照合するのかサンプルで照合するのか 全件照合
4 照合した証跡はどのように残すのか 照合日・照合者印を押印
4 不一致だった場合はどうするのか 仕入先と倉庫部門に連絡
5 趣旨の考慮 照合の趣旨を明確に伝える
6 コスト対効果の考慮 考慮する

(注)番号は【図表1】の№欄に対応


その結果、経理担当のAさんなりに、下記のようなルールの見直し案を考えてみました。


入荷プロセスでの処理に関するルール(見直し案)
…………(略)…………。購買部門では担当者が倉庫部門から回付された納品書を注文書と3営業日以内に照合する。注文書と納品書の照合は全件実施することとし、品番(商品名)と数量が一致していることを確かめた上、納品書に照合日と照合者印を押印することとする。
なお、照合の結果、納品書と注文書とに不一致があった場合には、仕入先並びに倉庫部門に連絡する。

T社ではそもそも担当者が行うべき処理に関するルールがあいまいだったため、上記見直し案のように、あいまいになっている部分をルールに織り込むようにしてみてはどうかと考えたのです。業務のマニュアルなどでもっと具体的な記載を織り込むことも考えられるかもしれません。
ところで、このようにして担当者が行うべき処理に関する適切なルールを定めたら、それで問題が解決するかと言えば、必ずしもそうではないことは繰り返しお伝えしてきました。T社では整備されたルールに従って担当者が正しく処理を行えるような仕組みも整っていない、つまり運用面の弱点が残ったままだからです。
この運用面の弱点についての改善策については、T社とは別のN社のケースを使って説明することにします。


【シーン2(N社のケース)】(前回と同様)
N社の経理担当のBさんは購買部門から回付されてきた請求書に基づき、仕入計上の会計処理を行っています。ある日のこと、前月の仕入計上額が妙に大きいことに気づきました。調べてみたところ回付されてきた仕入先R社からの請求書がいつもよりもだいぶ多額であることが分かったので、Bさんは購買部門に問い合わせをしてみることにしました。
さらに原因を追及していくと、仕入先が誤って注文数の10倍の商品を納品してしまっていたのに、購買部門がそれに気づかずに請求書を回付していたため、誤った仕入計上をしてしまっていたことが分かってきました。
なお、その後のさらなる調査の結果、これ以外にも同様の誤りが何件か発生していたのでした。
この原因を探るため、まずは、問題が発生したプロセスである「入荷プロセス」において、適切なルールが整備されているかという「①整備面の弱点」の切り口から、購買部門の処理に関するルールを確認した結果、特段、整備上の弱点は浮かび上がってきませんでした。
それでは一体どこに問題があったのでしょうか。

N社でも【シーン1(T社のケース)】と同様、問題に遭遇した経理担当のBさんが、今回の問題を何とか良い方向に変えていきたいと考え、まずは自分なりに改善に向けての提案項目を検討してみようと思ったのです。
購買部門や倉庫部門へのヒアリングなども必要ですが、経理担当のBさんは、プロセス思考を活用することで、自己チェックと他者チェック並びに発見チェックと予防チェックの観点を使って購買部門で行われている入荷プロセスでの業務について「運用面の弱点」を追及していきました。


【図表3】チェックリストを使った「運用面の弱点」の追及結果(購買部門部分) 
項目 Y N 状況についてのコメント
1 【発見するための自己チェック】
担当者の業務がルールからはずれた場合に、担当者自身が気づくための仕組みが機能しているか?
  ・担当者は業務手続書に従って業務を行うとともに、業務確認のチェックリストを使って自己点検を行うこととなっている。
2 【発見するための他者チェック】
担当者が業務のルールを守らなかったり、ミスをしてしまった場合に、担当者以外が気づくための仕組みが機能しているか?
(例)ダブルチェック
クロスチェック

・コスト対効果なども考慮し、ダブルチェックは行っていない。

・購買部門の管理者が月次で仕入計上額合計に異常がないかをチェックする。

3 【予防するためのチェック】
担当者が業務のルールを守らなかったり、ミスをしてしまうのを予防する仕組みが機能しているか?
(例)フォーマットチェック
・特段の仕組みを設けていない。

経理担当のBさんは、N社の入荷プロセスにおける現状のチェックの仕組み(購買部門部分)について、【図表3】のチェックリストを使ってその弱点を確認したところ、「N」(=No)の欄に✔が入った項目が出てきました(No.2、3)。それぞれの状況については「状況についてのコメント」欄に記載のとおりでした。
N社では、担当者が行う業務についてはルールが整備されているものの、ルールに従って担当者が正しく処理を行い得るような仕組みに関しては、それが不十分なまま業務が進められています。たくさんの取引を処理する中で担当者の注意が散漫になってしまい、注文とは異なる納品がされたことを見過ごしてしまったら、担当者以外の者がそのことに気づくことができませんでした。そこで、不十分なままとなっているチェックの仕組みを整えることが、結果的に誤った仕入計上につながらないことになるのではないかと考え、【図表4】のような項目を織り込んではどうかと提案してみようと考えたのです。


【図表4】「運用面の弱点」にかかる見直し案の検討
・発見するための他者チェック
現状 見直し案
2 購買部門の管理者が月次で仕入計上額合計に異常がないかをチェックする。 購買部門の管理者が日次で仕入先別の仕入リストを確認し承認する。
・予防するためのチェック
現状 見直し案
3 特段の仕組みを設けていない。 注文した商品の品番・数量と納品された商品の品番・数量とが一致しない場合、システムからエラーリストが出るようにする。

(注)番号は【図表3】の№欄に対応


話をシンプルにするために、今回は購買部門における入荷プロセス、さらには「注文書と納品書の照合業務」に限定した問題であるものとし、その見直し策を整理してみました。
また、上記の2つのケースでは、チェックリストで「No」になったそれぞれの項目について、それが「Yes」になるように見直し案を考えるという方法を採りました。実際にはチェックリストの項目をすべて「Yes」になるようにする必要があるわけではありませんが、「No」となった項目について、それを「Yes」に変える良い方法がないかを考えてみることが、改善提案のための糸口になるでしょう。つまり、4thステップまでの各ステップを踏んできたことで、上記のとおり、実は改善提案のための糸口をつかむこともセットでできていたというわけです。

なお、場当たり的な改善にならないようにするために、本来ならもう少し視野を広げて、以下のような観点から改善すべきポイントを考える必要があるでしょう。

①あるプロセスの中の、特定の業務だけの問題なのかどうか?
②特定のプロセスだけの問題なのかどうか?
③特定の部署だけの問題なのかどうか?

他の業務・プロセス・部署を含めての改善策の検討については、次回以降に別途取り上げることにしようと思います。

3.プロセス思考のステップを踏んで、発生した問題を業務改善につなげよう

今回は、T社並びにN社を舞台にした2つのケースに当てはめながら、プロセス思考の中の5thステップとして、問題の発生原因の特定から出てきた改善ポイントを整理し、改善案を検討する方法を、簡略化して説明しました。これにより、問題の発生原因を特定していくステップというのは、プロセスのどの部分をどんな風に改善したら良いのかをつかむためのステップでもあることがお分かりいただけたのではないかと思います。

(提供:税経システム研究所)
**********

いかがでしたでしょうか。今回は、プロセス思考の5thステップとして、発生した問題を業務改善につなげていく方法ついて説明しました。
次回は、第24回 「プロセス思考」で転んでもただでは起きない(その15)になります。お楽しみに!
なお、このコラムの提供元である税経システム研究所については下記をご参照ください。

税経システム研究所
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