メリハリを付けて仕事をするためのステップ
ステップ1:やるべきことを洗い出す
ステップ2:やることの優先順位を決める
ステップ3:やり方を考えて実行する
リスクアプローチの場合
ステップ1:やるべきことを洗い出す ⇒ リスクの識別
ステップ2:やることの優先順位を決める ⇒ リスクの評価
ステップ3:やり方を考えて実行する ⇒ リスク対応計画の策定
2.監査現場に学ぶ 「メリハリ」を付ける仕事術(その4)
まずは、ある架空の監査現場を描いた【シーン1】をご覧ください。【シーン1】はかなり極端な例を挙げていますので、実際の監査現場ではこうしたことは起きませんが……。【シーン1】
YさんはN社の売上高の検証を監査チームメンバーのCさんに指示しなければなりません。そこでYさんは、他の監査先F社(注)での経験を踏まえて、注文書や納品書など売上計上の関連証憑を一つ一つチェックすることで、売上高が適正に計上されていることを検証するよう指示しました。
(注)F社:販売取引1件当たりの金額が非常に高額である一方、取引件数が非常に少ない会社
さて、売上高の検証作業を指示されたCさん、早速作業に着手したのですが、検証しなければならない取引件数があまりにも多いことに驚きました。朝から晩までチェックしても何週間もかかりそうな分量の取引があります。これではとても期限内に売上高の検証は終わりそうもありません。
何か他の方法はないのでしょうか……
【シーン1】では、新米現場主任のY会計士が、いくつか検証方法が考えられる中、結果的に非常に手間のかかる検証方法を選択してしまった様子を描きました。これでは、とても「ミスなく」「速く」仕事をこなすことなどできそうもないのですが、Yさんの選択した方法はどこに問題があったのでしょうか?それを考える上でのヒントになるのが、リスク対応計画を作成する際に考えておくべき4つのポイントです。
- ①時期 どのタイミングで実施したら良いか
- ②程度 どの程度まで実施したら良いか
- ③担当者 どの担当者が実施したら良いか
- ④方法 どの方法で実施したら良いか
④ どの方法で実施したら良いか
やるべきことがあったとして、それをどのようなやり方で実施するかはよく考える必要があるところです。何が最適なやり方なのかはやるべき業務の内容や目的などによって変わってきますが、会社ごとの特殊性を踏まえた上で、「ミスなく」「速く」ということであれば、「簡易で理解しやすい方法か?」、「かかる時間が少ない方法か?」といったことを考慮し、最適な方法を決めることになるでしょう。【シーン1】でYさんが失敗してしまった理由は、最適なやり方を検討することなく、ただ過去に経験したのと同様の方法を選択してしまったことにあります。
Yさんが以前に監査したF社は、販売取引1件当たりの金額が非常に高額である一方、取引件数が非常に少ない会社でした。そのため、関連証憑を一つ一つチェックしてしまった方が簡易で理解しやすく、かかる時間も少ないので、「ミスなく」「速く」監査を進めるのに適していました。しかし今回のN社は、販売取引1件当たりの金額は少額である一方、取引件数が非常に多いので、状況がかなり異なります。
N社の監査を「ミスなく」「速く」進めるのに適した方法は、むしろすべてを検証しなくても済むような方法です。すべての取引を検証するには膨大な時間がかかりますし、たとえ簡易な検証作業であっても件数が多ければどうしても検証ミスが生じやすくなってしまうからです。
なお、作業量の多い業務、実施する頻度の高い業務、今後も継続して実施する必要のある業務などについては、是非意識して頂きたい方法があります。それは、「仕組みを活用する」ないし「仕組み化する」ということです。
例えば、N社のように取引件数が非常に多い会社の場合、販売取引について受注・出荷・売上計上・代金請求・回収といった一連の業務処理に関わるルールを定めており、そのルールに従って販売取引が会計処理されるような業務処理統制の仕組みができていることがあります。 こうした場合には、その仕組みを活用することで、仕組みを活用しない場合よりも「ミスなく」「速く」仕事をこなせることがよくあるのです。
膨大な分量の販売取引があろうと、どの取引も決められたルールに則って同じような流れで処理されるようになっていれば、まず監査上やるべきことは、その仕組み(ルール)自体に不備がないかを確認することです。仕組みに不備がなければ、その次に、仕組みにそって実際に処理が行われていることを一定数の販売取引のサンプルを抽出して検証します。そうすることで、他の販売取引についても同様の処理が行われているとの心証を得ることができます。
仕組みを活用することで、非常に膨大な件数の販売取引について片っ端から関連証憑をチェックしなくても済むので、全体としてかかる時間は少なく済み、検証ミスも生じにくくなるのです。
一つ一つ関連証憑をチェック
(取引件数が非常に多いN社の場合の最適な方法)業務処理統制の仕組みを検証 + ルール通りに実施されているかサンプルを抽出して検証
3.やり方を考えて実行しよう
今回は「ミスなく」「速く」仕事をこなす上で妨げとなる典型的な状況の中から、適切なやり方を考えて実行することができなかったケースを取り上げて、どんな対応をすればよかったのかを考えてみました。やみくもに業務を進めてしまうのではなく、ステップを踏んで業務を進めていくことが大事で、やるべきことの抜け・モレが発生しないよう、まずはやるべきこと(やったほうがよいこと)を洗い出す必要がありますが、洗い出したことのすべてを万遍なく、同じような労力をかけてやろうとしたら、「メリハリ」を付けた仕事とはいえず、「ミスなく」「速く」仕事をこなすことはできません。
そうならないためにも、やるべきことを洗い出し、やることの優先順位を決めた上で、適切なやり方を考えて実行することが必要です。前回と今回を通じて確認してきたように、適切なやり方を考える際には、是非とも「①時期」、「②程度」、「③担当者」、そして「④方法」という観点を持つようにして頂くことをお勧めします。そして、「④方法」に関しては、今回ご紹介したように、業務の内容や目的などを踏まえて最適な方法であるかをよく考えた上で選択して頂きたいと思います。「ミスなく」「速く」仕事をこなしたいのであれば、「簡易で理解しやすい方法か?」、「かかる時間が少ない方法か?」といったことを検討して頂くとともに、「仕組みの活用」ができないか、「仕組み化」しておくことはできないかという点を意識して頂くとよいと思います。