取締役や監査役など、企業から従業員以外の役員に支払われるのが役員報酬です。
役員報酬は従業員給与とは異なり、役員自身の裁量によって支払金額を調整できるため、不正を防ぐために様々な制限が課されています。
今回の記事では、役員報酬と従業員給与の違いをはじめ、会計・税務上の取り扱いや、役員報酬を決定・変更する際のポイントを解説します。
役員報酬と従業員給与の違い
企業から自社で働く人々への支払いには、給与と役員報酬があります。
従業員と会社の間には、雇用関係がありますが、取締役、執行役、会計参与、監査役などの役員は会社の意思決定や業務執行を担っており、従業員のように雇用契約がありません。
役員に対して支払われるお金は従業員への給与と区別するために役員報酬と呼ばれ、給与とは様々な違いがあります。
※一部の執行役員・使用人兼務役員のように従業員としての雇用契約を残すケースも考えられますが、ここでは一般的なケースを想定します。
残業代や日割計算
従業員給与の場合、雇用契約により就業規則に定められた月給が毎月振り込まれ、所定労働時間を超える分には割増賃金(残業代)が支給されます。
対して役員は、達成すべき業務などを明記した委任契約が結ばれることが一般的であり、週の所定労働時間なども定められていません。
そのため、役員報酬には残業代の支給や日割り計算の適用がありません。
これは、役員報酬が従業員給与のように勤務実態に応じたものではなく、年間の報酬として支払われることにも起因しています。
最低賃金額適用の有無
役員報酬には月給・日給といった考え方がなく、最低賃金も定められていません。
役員報酬が年間1円または無給といった状態も、事業者が一人のいわゆるひとり会社などではよく見られるケースです。
逆に、会社の利益の状況に対して役員報酬の金額があまりに高いと不相応と判断され、税金での損金算入が認められない場合があります。
社会保険の加入義務
役員であっても、役員報酬が0円など特殊な事情がない限りは、社会保険の加入義務があります。
健康保険や厚生年金保険についても従業員給与と同様に適用がありますが、非常勤役員の役員報酬については適用されません。
なお、役員と企業の間に労働契約がない場合、雇用保険の加入義務はありません。
そのため、基本的に役員報酬の支払いで雇用保険料の徴収は不要となります。
役員報酬の会計上・税務上の取り扱い
役員報酬の会計上・税務上の取り扱いはそれぞれ以下のようになります。
会計上の取り扱い
役員報酬の勘定科目には、販売費及び一般管理費の「役員報酬」を使用します。
役員報酬は基本的に発生主義に基づいて、毎月の支給時に費用計上が行われます。
役員報酬を支給する際には社会保険料についても考慮する必要がありますが、先述の通り、雇用保険料は発生しないという点に注意が必要です。
役員報酬の支給に係る会計仕訳例は以下の通りです。
借方 |
貸方 |
内容 |
役員報酬 |
XX |
現金預金 |
XX |
役員報酬(手取り) |
預り金 |
XX |
雇用保険料以外の社会保険料 |
預り金 |
XX |
源泉所得税・住民税 |
※役員報酬が未払いの場合、貸方は未払費用勘定を使用します。役員報酬のうち、社会保険料部分については法定福利費勘定を使用する場合もあります。
税務上の取り扱い(役員の範囲)
従業員給与は、雇用関係にある従業員に対して支払われるものであり、基本的に全額損金として算入できます。
一方で役員報酬の場合は、要件を満たすもの以外は損金として算入することができません。
これは、役員報酬の金額を役員が意図的に決められることで、損金を多く計上して法人税を減らすなどの恣意的な運用を避けるためです。
役員報酬には役員の対象範囲と損金算入できる報酬の範囲で厳しいルールが存在します。
会社法では、役員は株主総会で選任された取締役、監査役、会計参与などを指すこととされていますが、税法上の役員の範囲はそれよりも広く、以下の場合も役員とされるので注意が必要です。
- 法人の使用人以外の者でその法人の経営に従事しているもの(取締役でない会長や理事長など)
- 同族会社の使用人のうち、その企業の経営に従事している者で、一定の要件を満たすもの(企業で役職はないが持株割合が高い親族の一員で経営決定に影響を及ぼす従業員など)
税務上の取り扱い(損金算入が認められる役員報酬)
税法上、損金として認められる役員報酬には「定期同額給与」、「事前確定届出給与」、「業績連動給与」の3種類があり、これら以外のものは損金算入できません。
定期同額給与 |
その支給時期が1カ月以下の一定期間ごとである給与(定期給与)で各支給時期における支給額が同額であるもの、または、以下の改定事由を満たすもの
改定事由
次の改定がされ、その改定前後の各支給時期における支給額が同額のものをいいます。
- 期首から3か月以内の改定
- 役員の職制上の地位の変更等(臨時改定事由)による改定
- 経営状況が著しく悪化したこと等(業績悪化改定事由)による改定
※詳細は後述。
|
事前確定届出給与 |
その役員の職務につき所定の時期に確定額を支給する定めに基づいて支給する給与で、株主総会等の決議日から1カ月を経過する日までに、所轄税務署長に届出をしているもの |
業績連動給与 |
非同族会社がその業務執行役員に対して支給する一定の業績連動給与 |
※上記の要件を満たす場合であっても、企業状況などからみて不相当に高い金額は損金算入が認められません。
役員報酬で最も一般的なのは従業員の月給に相当する定期同額給与ですが、要件を満たすためには、原則として事業年度開始から3カ月以内に金額を決定する必要があります。
また、株主総会議事録や取締役会議事録を作成・保管のうえ、年度中は毎月同じ額の給与を定期同額給与として支給し続けることも必要です。
役員には従業員のような賞与はありません。そのため、賞与に似た形で報酬を損金として支給できるのが事前確定届出給与です。
事前確定届出給与として認められるためには、事前に税務署へ金額を明記した届出を行う必要があります。
業績連動給与とは、同族会社以外の法人が、利益に関する指標を基準にして支給する役員報酬です。
利益連動給与を支給するには様々な要件を満たす必要がありますが、中小企業の多くは同族会社であることが多く、対象となることはほとんどありません。
そのため、上場の大手企業などでインセンティブ報酬として近年注目されている報酬形態となります。
それぞれの役員報酬は、要件を満たさず、税務署から否認された場合、全額が損金不算入となります。
そのため、役員報酬の内容に誤りがないか期中で慎重に確認することが大切です。
役員報酬を決定・変更する際のポイント
会社法では、役員報酬を定款または株主総会の決議によって定めるとしています。
定款は一度決めると変更手続きが煩雑ですので、一般的には、決算後3カ月以内の株主総会で役員報酬の総額を決めて、その後に開催する取締役会で役員ごとの内訳を決定します。
この時、税務調査などの対応には、株主総会や取締役会の議事録など根拠となる資料が必要となるため、しっかりと作成・保管しておきましょう。
なお、役員報酬は事業年度ごとに決めることができますが、報酬額を変更できるのは基本的にこの時期に限られていますので、結果的に1年間固定となります。
役員報酬の決定の際のポイント
役員報酬の具体的な金額については、その役員の職務内容のほか、同業他社の給与支給状況、今後の事業計画、法人と個人の税負担のバランスなど、多面的に検討した上で決定することが重要です。
役員報酬額が不相当に高額でないか確認する
役員報酬が同業・同規模他社と比べて不相当に高いと、「不相応に高額」として、税務調査で損金計上が認められないことがあります。
特に、業務をほとんど行っていないような名目上の役員への役員報酬が高額な場合、税務上否認されるケースも少なくありませんので注意しましょう。
企業が負担する税金と役員が負担する税金のバランスを考慮する
企業は役員報酬で損金算入できる金額が多いと法人税負担を軽減できますが、その分社会保険料は多く負担する必要があります。
また、役員個人は、役員報酬が増えると負担する所得税・住民税や社会保険料が高くなります。
そのため、役員報酬の支給額を決定する際は、企業目線だけでなく役員個人の目線も重視してバランスを考慮することが大切です。
役員報酬の変更が認められる場合
定期同額給与の役員報酬の金額については、基本的には毎月一定とする必要がありますが、内容によっては、変更が認められる場合もあります。
役員の地位や職務内容が変更になった場合
役員が代表取締役に昇格した際など、役員の地位や職務内容が変わる場合では、期中での役員報酬の金額の変更(増額)が可能です。
ただし、名義変更だけで実態が伴っていない場合や、金額が不相応に高額な場合には損金算入が認められない可能性もあります。
企業の経営状況が悪化した場合
企業の経営状態が著しく悪化した場合は、役員報酬を減額することが可能です。
明確な基準はありませんが、経営状況が相当悪化し、利害関係者との関係上役員報酬の額を減額せざるを得ないなど、客観的に見てやむを得ない理由が存在する場合には、期中での減額が認められるとされています。
※本記事の内容は掲載日時点での情報です。
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今回は役員報酬と従業員給与の違いに焦点を当て、役員報酬の会計・税務上の取り扱いを解説しました。
役員は企業経営と近い存在にあるため、役員報酬を損金算入するハードルも高くなります。
役員報酬の決定や変更の流れもしっかりと押さえて、処理に誤りのないようにしましょう。