給与の支払い方法として、現金での受け渡しや銀行振込がありますが、日本ではデジタル払いについては認められていません。
しかし近年のキャッシュレス決済推進に伴い、給与のデジタル払いを解禁しようという流れがあります。
今回は、近い未来に給与のデジタル払いが採用された際、企業と従業員にとってどのような影響があるかを解説します。
給与のデジタル払いとは
給与のデジタル払いとは、キャッシュレス決済用のアカウントに給与を直接入金する方法です。
現在、日本では給与のデジタル払いは労働基準法の法令違反となり認められていません。
しかし日本で銀行口座を開くのが難しい外国人労働者などに向けて以前から採用の議論がされていました。
また、最近では行政がキャッシュレス決済を推進する手段として、給与のデジタル払いについても推進するという動きもあります。
解禁の具体的な見通しは立っていないものの、厚生労働省を中心にデジタルマネーによる賃金支払いについての議論が進められており、実現する未来は近い可能性があります。
デジタルマネーの種類
デジタルマネーとは、現金ではなく電子決済を行うことができる通貨一般を指す用語です。
現在、日本では多くの種類のデジタルマネーが発行されています。
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クレジットカード |
デビットカード |
電子マネー・QRコード決済 |
利用方法 |
利用前に審査が必要
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交通系ICカードやQRコード決済などは、会員登録や身分確認のみで利用可能 |
対応店舗 |
店舗が各カードブランドの加盟店の場合に利用可能
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店舗が提携企業の場合に利用可能 |
支払い方法 |
使用額を後払いするポストペイ型
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利用と同時に口座から自動で引き落とすデビット型 |
ポストペイ型に加えて、アプリやカードにチャージした金額を使用するプリペイド型、デビッド型など |
給与のデジタル払いで受取先として指定できるのは、今後制定予定の安全性基準を満たす業者が運営するデジタルマネーのみに限定される予定です。
既に給与のデジタル払いが導入されているアメリカでは
アメリカでは、給与のデジタル払いとしてペイロールカードが活用されています。
ペイロールカードは金融機関が発行するもので、口座開設不要でクレジットカード機能が付帯していることが多く、店舗でも通常のクレジットカードと同様に利用することができます。
短期間での給与支払いに適していることや、モバイルアプリなどを使うことで自動的に収支管理ができるという利点もあり、特に若年層での利用が進んでいます。
なお、利用者保護の観点から、アメリカでは給与の支払いにペイロールカードを利用する場合には以下のような取組がされています。
これらは日本での給与のデジタル払い導入にあたっても参考にされており、法律などで順次整備されていくと予想されています。
企業 |
- なんらかの原因でペイロールカードが使えなくなったり、ペイロールカードの利用をやめたりするケースが発生した受給者のために、給与支払いの際は銀行など他の選択肢も提供する
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金融機関 |
- 給料日(給与が支払われたその日)に引き出しができるようにする
- 手数料や預金保険の対象となるかどうかなどの条件を、利用者に開示する
- 不正使用や盗難による不正送金について、利用者に損失費用の一部を払い戻す
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※参考資料:厚生労働省「資金移動業者の口座への賃金支払について課題の整理③」
従業員側のメリット
では、給与をデジタル払いにすると従来の支払い方法と比較してどのような違いがあるのでしょうか。まずは従業員の視点からご紹介します。
銀行口座不要で給与の受け取りができる
給与のデジタル払いが導入されれば、単発での労働者や業務委託などについては、口座情報提供などのやり取りなく報酬の受け取りが可能となるため手間が省けます。
また、日本で自ら銀行口座を開設するのが困難な外国人労働者であっても、銀行口座を持たずに簡単に給与を受け取ることができます。
現金を引き出しに行く手間・手数料が減る
毎月、給与を口座から引き出しに行くのは、手間だけでなく時間もかかります。
また、ATMは土日などの引き出しで手数料がかかる場合もあります。
しかし給与がデジタルマネーで入金されれば、口座から現金を引き出す必要もなく、スマホやカードで決済ができます。
買い物時にスピーディな決済ができる
キャッシュレス決済は、現金決済の半分の時間で完了するといわれています。
また、お釣りの計算が不要なので、決済額の間違いの心配もありません。
給与がデジタル払いされることにより、買い物などでお金を使う際にもキャッシュレス決済が利用しやすくなることが見込まれます。
企業側のメリット
続いて、給与のデジタル払いの導入に関する企業のメリットを説明します。
手数料が軽減される
給与支払いを銀行振込で対応している場合には、振込手数料がかかります。
振込手数料は1件あたり数百円程度ですが、毎月・全従業員への振り込みとなると、何も対策をしない場合には年間での負担額が数十万円になります。
一方、デジタル払いの場合、現状の送金対応では手数料がかからないことがほとんどです。
従業員の満足度向上
先述の通り、給与のデジタル払いは従業員にとって数多くのメリットがあります。
そのため給与のデジタル払いは従業員の生活向上に役立つと考えられています。
また、銀行口座で給与の受け取りがしにくい単発での労働者や外国人も含めた人材確保にも繋がります。
給与のデジタル払いにおけるデメリット
給与のデジタル払いには主に企業側にとってデメリットと言える側面もあります。
セキュリティ面・保障面での課題
銀行口座と比較して、電子マネーはセキュリティ面で不正利用や不正送金の懸念があります。
また、日本では銀行などの金融機関と電子マネー業者では規制されている法律が異なることから、デジタル払いの取扱業者が破綻してしまった場合、それを保障する法律の仕組みが十分に整っていません。
そのため、業者破綻してしまうと給与支払い日に引出しができないなどのトラブルが発生する可能性もあります。
しかし、アメリカでの利用者保護の施策などを参考に政府も議論を重ねているため、実際に導入される段階ではこれらの懸念点も整備されると考えられています。
労務担当者の負担増となる懸念
企業にとって大きな問題となるのが、給与の支払い方法が多様化することによる労務担当者の負担の増加です。
ただし、実際に解禁となった際の状況に応じて、デジタル払いに対応した給与システムなどが出てくることも考えられます。
現状考えられるデメリットについては、今後の政府の動きと共にどのように解決していくかにも注目が集まっていくでしょう。
なお、企業で給与の支払い方法を増やす際には、社内規定の整備をする必要もあります。
導入段階で対応すべきことについては、給与のデジタル払いに関する動向をチェックしていきながら、早めに検討していってください。
※本記事の内容は掲載日時点での情報です。
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キャッシュレス決済のシェアが多くなってきている昨今、日本で給与のデジタル払いが採用されるのも、そう遠くはないのはでないでしょうか。
しかしながら、労務担当者の手間やセキュリティ対策など、課題もあります。
制度導入前に、これらのポイントを踏まえて動向をチェックしてみてくださいね。