財務会計において重要なのが、決算書などをもとに会社の経営状態を明らかにする「財務分析」です。通常、財務分析は算出した財務指標を使って行われますが、いくつもある指標をどう使い分けるのかわからないという経理担当者も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、基本的な財務指標とは別に、初心者が手始めに確認すべき重要指標を3つ紹介します。
財務分析とは
財務分析とは、貸借対照表、損益計算書などの財務諸表の数値をもとに、「収益性」、「安全性」、「生産性」、「成長性」の4つの視点から会社の経営状態を分析することです。これを同業他社と比較することで業績の全体像や問題点などを洗い出します。
財務分析を行うことにより経営課題をいち早く察知し、問題を未然に防いだり、ダメージを最小限に留めたりすることができます。
■主な財務指標の種類
カテゴリ |
財務指標 |
計算式 |
収益性分析 |
売上高総利益率 |
売上高総利益÷売上高×100 |
売上高営業利益率 |
営業利益÷売上高×100 |
安全性分析 |
流動比率 |
流動資産÷流動負債×100 |
自己資本比率 |
自己資本÷(自己資本+他人資本)×100 |
生産性分析 |
労働生産性 |
付加価値額(経常利益+人件費+金融費用+賃借料+租税公課)÷平均従業員数 |
成長性分析 |
増収率 |
(当期売上高-前期売上高)÷前期売上高×100 |
増益率 |
(当期経常利益-前期経常利益)÷前期経常利益×100 |
売上高研究開発費率 |
研究開発費÷売上高×100 |
財務分析は、経営者はもちろん、取引先や投資家などが行うこともあり、基準となる財務指標はそれぞれの目的によって異なります。
上記の表では基本的な財務指標をまとめましたが、今回はそれとは別に、経理担当者が把握しておくべき重要指標を紹介します。
総資本経常利益
「総資本経常利益」は収益性分析のカテゴリに入る、該当する期間に投入した資本によってどれだけ利益を生み出したかを示す指標です。ROI、ROAとも称され、会社経営において重要な利回りの状況を把握できます。経理担当者としても最優先で身に付けたい指標です。
■総資本経常利益の計算式
総資本経常利益=経常利益÷総資本×100
総資本経常利益が高ければ、投資した設備や人員、業務フローなどが効率的に利益を生み出しているといえます。
低い場合はいずれかの要素が非効率だということなので、総資本経常利益を「利益率」と「回転率」に分解して原因や改善点などを探ります。
■利益率に含まれる要素
売上高総利益率、売上高総営業利益率、売上高総経常利益率、ほか
■回転率に含まれる要素
1人当たりの売上高、棚卸資産回転率、運転資金回転率、ほか
いずれの要素も財務指標の一種なので、まずは総資本経常利益を入口にして、それぞれ必要な指標を学んでみてください。
手元流動性比率
「手元流動性比率(手許流動性比率)」は安全性分析のカテゴリに入る、現金預金などのキャッシュや換金性の高い有価証券などが、月商と比べてどれだけあるかを示す財務指標です。これによって会社の資産状況や倒産リスクを明らかにでき、投資リスクや、恒常的に赤字体質な経営状態の原因を突き止めることもできます。
手元流動性比率が高い企業の場合は、資本が潤沢であり突発的なトラブルや景気が悪化しても簡単には潰れにくいということになります。
■手許流動性の計算式
手元流動性=現金+預金+1年以内に換金できる資産など
■手元流動性比率の計算式
手元流動性比率=手元流動性÷月商
手元流動性比率の目安として、一般的には2以上、つまり「2カ月間売上がゼロでも資金ショートしない現預金の保持」が最低限必要とされています。回収が不透明な売掛金などは手元流動性に含まれないので注意してください。
債務償還年数
「債務償還年数」は安全性分析のカテゴリに入る、現状、会社が受けている融資を何年で返済できるかを示した指標です。債務償還年数を把握していれば、新たに融資を受ける際のリスクや、経営と返済の優先度を明らかにすることができます。
債務は会社の利益から返済します。そのため債務償還年数は、有利子負債の残高を会社の純粋な「利益」と支払い済の「減価償却費」を合わせた数字で割って算出します。
■債務償還年数の計算式
債務償還年数=有利子負債の残高÷(税引後の利益+減価償却費)
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財務分析に必要な財務指標の種類と、経理担当者におすすめの財務指標トップ3を紹介しました。多種多様な財務指標を用いた分析を行うためには、まずは実用的でわかりやすい指標から建設的に学ぶことがポイントになります。いずれも日次、月次処理などで把握しやすい数字から求められるので、定期的に算出のうえ、会社の収益性や安全性を把握しておくようにしてください。