年末調整といえば、毎年、大変な労力がかかるために正直うんざりしているという経理担当者もいるのではないでしょうか。年末調整に関する業務は10月、11月から始めることが一般的ではあるものの、従業員が多い企業などではそろそろ準備を進めるというケースも少なくありません。特に今年は新型コロナウイルスの影響もあるため、様々な課題を想定して早めに対応を始める企業も多いと思います。さらに2020年度からは年末調整の在り方が変わってきます。それが「年末調整の電子化」です。
今回は電子化にあたって2020年の年末調整がどのように変わるのかを解説します。
※参考記事:税制改正で2020年度の年末調整はこう変わる!
国が進める年末調整手続きの電子化
2018年度の税制改正まで、多くの企業は年末調整を紙媒体で行っていました。しかし紙媒体の申告では、各企業の担当者が逐一、従業員に申告書を配布・回収し、それぞれの質問や不足点に対応しなければならないほか、7年間の資料保管義務を果たすために保管場所の確保が必要など、多くの課題がありました。これを解消すべく年末調整の電子申告化が進み、2018年度の税制改正では各申請書の電子データでの提出、さらに2020年度は従業員個人でのインターネットを通した必要書類の取得が可能になりました。
国税庁はこの動きを「年末調整手続の電子化に向けた取組」として、以下のような施策を行っています。
1.控除証明書の原本提出が不要に
年末調整の電子化における大きなポイントの一つに、控除証明書等の原本提出が不要になったことが挙げられます。それとともに、これまで保険会社などからハガキで送られていた「控除証明書等」の書類は、インターネットを通して電子データで取得できるようになりました。
この変更により、従来のフローで起こりがちだった控除証明書等の紛失問題は一気に解決できるようになります。
■電子取得・提出が可能になった控除証明書(例)
- 年末残高証明書
- (新・旧)生命保険料控除証明書
- (新・旧)個人年金保険料証明書
- 住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除証明書
上記の控除証明書等は、行政サービス「マイナポータル」や、契約している保険会社等のホームページなどから取得することができます。
2.年末調整控除申告書作成用ソフトウェアの提供
国税庁は2020年10月に、年末調整に必要な電子書類の作成ができる「年末調整控除申告書作成用ソフトウェア」を提供すると発表しています。現在はプロトタイプ版が公開されていますが、プロトタイプで作られた書類を年末調整に利用することはできないのでご注意ください。
■年末調整控除申告書作成用ソフトウェアの機能
- 各種控除証明書等データのインポート
- 控除証明書等データの自動入力
- 控除額の自動計算
- 年末調整申告書の作成、保存
- 年末調整申請書の印刷
- 扶養控除などの各種控除有無の自動判定
年末調整控除申告書作成用ソフトウェアは、マイナポータルとの連携も可能です。
※関連サイト:
年末調整手続の電子化に向けた取組について(令和2年分以降)
3.法定調書のe-Taxや光ディスクを使った提出義務基準の引き下げ
源泉徴収票などの法定調書を大量に提出する企業の場合、e-Tax(国税電子申告・納税システム)、またはeLTAX(地方税ポータルシステム)を使ったインターネット上での送付か、CD、DVDなどの光ディスクを使った送付が義務付けられています。この規定が適応される法定調書の提出枚数が、従来の1,000枚以上から、100枚以上へと、大幅に引き下げられることになりました。
このとき、法定調書は種類が違っても合計が100枚以上であれば上記の規定に該当します。つまり源泉徴収票と給与支払報告書を提出する場合は、いずれかが100枚未満であっても合計が100枚を超えるのであれば、e-Tax、eLTAXまたは光ディスクを使った提出をしなければなりません。
※出典:
国税庁「法定調書の提出枚数が100枚以上の場合のe-Tax又は光ディスク等による提出義務」
2020年の年末調整手続に向けた準備
このような状況により、2020年度から年末調整を電子化する企業は多いのではないかと予想されます。では、2020年度の年末調整にはどういった準備が必要なのでしょうか。電子化をキーワードにポイントを挙げてみました。
1.電子化の実施方法の検討・選定
年末調整の電子化を実施する際は、申告書作成用のツールが必要となります。もちろん国税庁が提供する年末調整控除申告書作成用ソフトウェアを使用してもよいですが、欲しい機能によっては民間の年末調整システムを利用するという方法もあります。
2.社員への周知と協力の要請
これからの年末調整では、証明書のダウンロードから提出まで、従業員個人が担当者を通さずに実施する場合もあり得ます。しかし、中にはインターネットの扱いに慣れていない従業員もいるでしょう。事前の周知や説明会を早めに行うことで、混乱を最小限に抑えることができます。
3.既存のシステムの見直し、改修
2020年度の年末調整は、電子化の他に税制改正における所得税額の変更にも対応する必要があります。クラウド型のツールを使用している場合は、税制改正にも自動で対応される場合が多いのですが、そうでない場合は、手動でのアップデートなどシステムの改修、あるいは入れ替えをしなくてはなりません。
※参考記事:
税制改正で2020年度の年末調整はこう変わる!
4.税務署への届出
年末調整を電子化する場合は、所轄の税務署長からの承認が必要になります。手続きは「源泉徴収に関する申告書に記載すべき事項の電磁的方法による提供の承認申請書」を提出するだけですが、社内の動きに気をとられて申請を忘れてしまった、ということのないように注意してください。
年末調整システムはどう選べばよい?
年末調整システムには多くの種類があり、機能も様々です。基本的な申請項目入力機能などはどのシステムでも搭載されているかと思いますが、細かい機能はシステムごとに異なります。では、どのように選べばよいのでしょうか。
選定ポイントの一つとして、システムがクラウド型であることが挙げられます。クラウド型のシステムはデータがインターネット上に保存されるため、パソコンやスマホさえあれば、どこからでもアクセスすることが可能です。社員はいる場所を問わず申告書の入力や証明書データの添付ができるので、リモートワークにも適しています。また、アップデートも自動的にされるので、今回のような税制改正にもスムーズに対応することができます。
ミロク情報サービスの「
Edge Tracker」もクラウド型のツールです。興味がある人はチェックしてみてください。
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また、他のサービスと「連携」できるかどうかも重要な判断基準の一つです。例えば、行政サービス「マイナポータル」と連携した年末調整システムを利用している場合、一括で必要な証明書を取得するということも可能です。今後は年末調整控除申告書作成用ソフトウェアとも連携可能なシステムが出てくることも予想されています。
なお、連携については、システム間においても重要なポイントになります。年末調整に限らず経理の業務全体でのデジタル化を検討している場合、年末調整には年末調整のシステムを、給与管理には給与管理のシステムを…と個別にシステムを選定していると、共通のデータを共有したい場合に連携が不可能なケースもあります。このような状況を回避すべく、連携できるシステムを選んで導入することが大切です。
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2020年はリモートワークが多くなったこともあり、従業員が遠隔でも各自で申請対応できる年末調整の電子化は非常に有意義な施策です。
それと同時に、本年度から電子化に対応する企業にとっては、初めての対応に戸惑う場面も多くなることが考えられます。特に、年末調整ツールの導入の選定から始める場合は要注意です。複数あるツールから選ぶだけでも時間がかかる一方で、導入後も操作に慣れなければならないなど、各作業に予想以上に時間がかかることが想定されます。
本文でも紹介したツールの選定ポイントなども踏まえ、早め早めの行動を心掛け、余裕をもって年末調整に臨むようにしてください。