経理の基本的な日常業務の中に、伝票の処理があります。毎日の取引の記録に便利な伝票ですが、いくつか種類があり、会社や業種によって使われているものが異なります。そのため、転職先などで見知らぬ種類の伝票に戸惑ってしまう経理担当者も多いようです。
そこで今回は伝票制と伝票の種類について解説します。
伝票と伝票制
仕訳帳を使った記帳作業では、1つの仕訳帳に発生順で取引内容を記入する必要があるため、複数人での管理が難しいとされています。しかし、実際の企業では複数の担当者がそれぞれに取引を抱えているため、1人が管理するのは効率的ではありません。そのため、個々で取引内容を記載するために使われているのが「伝票」です。伝票に会計上の取引を記録することにより、仕訳帳の代わりとして使うことができ、後でまとめて総勘定元帳に転記します。このように、伝票に取引を記入(起票)することを「伝票式会計(伝票会計)」といい、これが「伝票制」に当たります。
伝票には起票内容によって複数の種類があります。それぞれでルールが異なりますが、共通して下記のような項目から成り立っています。
■共通の記入項目例
- 日付:取引日などを記入。
- 勘定科目:取引に該当する勘定科目を記入。(勘定科目の種類や数は伝票によって異なる)
- 金額:取引に対する金額を記入。
- 摘要:取引内容の注釈などを記入。
- 起票者:起票者のサイン、または押印を行う。
また、使用する伝票の数によって伝票制自体も「1伝票制」、「3伝票制」、「5伝票制」と分けられています。
1伝票制
「仕訳伝票」という1種類の伝票に、取引のすべてを起票する方法を「1伝票制」といいます。すべての取引を記入することができますが、起票に時間がかかるため、後述する「3伝票制」、「5伝票制」と比べると採用されるケースは少ない傾向があります。
仕訳伝票
仕訳帳への記入と同じように、借方・貸方の勘定科目、金額のすべての取引の内容を記載します。
■仕訳伝票の起票例
条件:取引先より商品を購入し、代金8,000円は掛けとした。
仕訳伝票 |
仕入れ |
8,000円 |
買掛金 |
8,000円 |
3伝票制
現金での取引を起票する「入金伝票」、「出金伝票」と、現金以外のすべての取引を起票する「振替伝票」の3種類を使う方法を「3伝票制」といいます。
現金のやりとりが明確になるため、飲食店など、現金取引が多い業種で幅広く採用されています。
入金伝票
製品やサービスに対する対価を現金で受け取ったときに起票する伝票です。現金に対する相手方の勘定科目と金額のみを起票します。
出金伝票
製品やサービスに対する対価を現金で支払ったときに起票する伝票です。現金に対する相手方の勘定科目と金額のみを起票します。
振替伝票
3伝票制では現金以外のすべての取引を起票する伝票です。仕訳伝票と同様に、勘定科目と金額をすべて記入します。
■振替伝票・出金伝票の起票例
条件1:取引先から商品を購入し、代金2万円は掛けとした。
振替伝票 |
仕入れ |
20,000円 |
買掛金 |
20,000円 |
条件2:上記の取引で発生した2万円を支払った。
5伝票制
3伝票制で使用される「入金伝票」、「出金伝票」、「振替伝票」に加えて、掛け取引を起票する「仕入伝票」、「売上伝票」を使う方法を「5伝票制」といいます。
小売店や卸売業など、掛け取引を中心に行っている業種で利用されています。
仕入伝票
買掛金による取引を起票する伝票です。買掛金取引に対する相手方の勘定科目と金額のみを起票します。
売上伝票
売掛金による取引を起票する伝票です。売掛金取引に対する相手方の勘定科目と金額のみを起票します。
5伝票制を採用している場合、現金や支払手形の取引であっても、「1度商品を掛けで購入して、その場ですぐに現金で決済した」、「1度売掛金として取引し、その場ですぐに現金で回収した」というように、一度掛け取引に落として起票する必要があります。
■仕入伝票の起票例
条件:商品を仕入れ、代金3万円を現金で支払った。なお、5伝票制の伝票式会計で起票する。
1.仕入伝票に1度、買掛金で取引したと起票する。
2.同時に出金伝票に相手勘定科目を買掛金として起票する。
■売上伝票の起票例
条件:商品を販売し、代金4万円を現金で受け取った。なお、5伝票制の伝票式会計で起票する。
1.売上伝票に1度、売掛金で取引したと起票する。
2.同時に入金伝票に相手勘定科目を売掛金として起票する。
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伝票の種類と具体的な起票方法について解説しました。もともとは紙でやりとりされていた伝票ですが、現在ではデータで管理されていることがほとんどです。会計ソフトにも仕訳の入力方法としていくつかの伝票の形式が用意されていることが多いですが、その際、どれを利用するか判断するのは経理担当者自身です。伝票の基本を抑えることで、スムーズな業務進行ができるようになります。