■リーマンショックが契機
フィンテックが世界的に広がる契機となったのは、2008年に米国に端を発したリーマンショックと言われています。投資銀行であるリーマン・ブラザーズの経営破綻が引き起こしたこの世界的な金融危機によって株価は暴落し、多くの投資家や事業家は金融機関への不信感を持ちはじめました。
そして、金融機関からリストラなどによって流出した人材が新しい金融サービスの開発に向かいます。次々と生まれた新しい金融サービスは、既存の金融サービスを受けられない多くの人々を魅了しました。
■既存の金融サービスに不満を持つ層
金融機関に不信を抱く人、サービスの利用を受けられない人、現金の価値を信じられない人。そんな人々がフィンテックから生まれた新しい金融サービスを支持した背景もあります。
例えば、世界には銀行口座を持っていない人々が20億人もいると言われています。
海外に出稼ぎに行き、家族への送金に多額の送金手数料がかかり不便を感じている人々、スーパーインフレで紙幣の価値が一瞬でなくなる経験に幾度となく直面してきた人々など、不満は様々です。
さらに、2000年代に成人もしくは社会人になったアメリカのミレニアル世代は、金融危機の原因をつくった既存の銀行に対する不信感が強く、ベンチャー企業が生み出した数々の金融サービスを支持しました。これがフィンテックの普及を後押ししたことにもなります。
■スマホの普及とリープフロッグ
さらにもう一つのきっかけは、スマートフォンの世界的な普及でした。中国では紙幣の偽造が多発していたこともあり、瞬く間にスマホ決済が普及しました。
新興国の人々についても、社会インフラという基盤がない中でスマートフォンを手にし、新しい金融サービスを享受できるようになりました。このように段階的な技術的進化を踏むことなく、一気に最先端の技術に到着してしまう現象を「リープフロッグ(Leapflog)」と呼びます。
ITDX 2018/12/18
「フィンテック」2019年に注目すべきトレンドとは
金融(Finance)の世界がテクノロジー(Technology)の力で大きく変わろうとしています。変革を推進するこの新たな波をFinanceとTechnologyをかけ合わせてフィンテック(FinTech)と呼ぶことは、既にご存知かと思います。世界に比べて遅れをとっていると言われる日本のフィンテックですが、近年は顕著なトレンドが見えてきました。2019年はどんな変革が起きるのでしょうか。今回は、フィンテックが広がった背景を簡単に振り返りながら、これから起こる流れを予測してみます。
フィンテックが広がった背景
日本でのフィンテックの現状
■仮想通貨で一大ブーム
日本でフィンテックが注目されはじめたのは2015年頃。個人向けの資産管理を目的とした家計簿・貯蓄サービス、法人向けの会計サービスなどを皮切りに、クラウドファンディング、スマートフォンアプリと銀行口座やクレジットカードを連携させた決済サービス、スマートフォンで個人間の送金ができるサービスが登場して話題となりました。
さらに、AIによる投資・資産運用サービス、ビットコインをはじめとする仮想通貨の高騰でフィンテックはますます脚光を浴びます。中でも仮想通貨は、手数料がほぼ無料で少額取引を可能にするマイクロペイメントを実現するものと期待されていました。しかし、乱高下の激しさとトラブルの多発、送金手数料の高騰などで、結果的には日常的な使用には不向きとされています。
これに替わってマイクロペイメントの実現に注目されているのが電子マネーです。もともとは電車の乗車券として使用されていたICカードが、その他の買い物でも利用できるようになるなど、この仕組みは確実に人々の生活に浸透しています。ただし、電子マネーには課題がないというわけではなく、参入企業や決済のタイプや規格が多過ぎるのが問題となっています。例えば決済タイプを見た場合、クレジット系決済、カード型電子マネー、カード型交通系電子マネー、スマホ・携帯電子マネー、携帯キャリア決済、ID決済など多岐にわたり、自社のサービスを使用する人およびその加盟店でしか使えないものばかりとなっています。これは、顧客を囲い込むことを目的としているのですが、キャッシュレス化を阻む要因にもなっています。このことから、自社のサービス利用者だけでなく、広く社会で使える統一規格が求められていることがわかります。
■日本のキャッシュレス化
日本がキャッシュレス後進国であることはよく知られた事実です。経済産業省によると、2016年時点で日本のキャッシュレス比率は19.8%。2007年からの9年間で6ポイント上昇したとはいえ、米国は49%、中国は60%、英国は68%、韓国に至っては96%にも及びます。
2020年の東京オリンピックを控え、訪日観光客が増え続ける中、キャッシュレス決済への対応は飲食・小売店の売上に直結するということもあり、経産省は2025年までにキャッシュレス比率を現在の倍に当たる40%まで引き上げると目標を掲げています。
■キャッシュレス化が遅れている原因
諸外国のキャッシュレス化が進展した背景には、金融危機やインフレ、紙幣の偽造・盗難などの理由がありました。一方、日本では街のいたる所にATMがあり、現金の価値も安定しており、治安も良好です。そのため、キャッシュレス化の必要性がなかったといえます。
さらに大きな要因の一つとして、銀行の収益基盤がATM手数料となっていることも挙げられます。東洋経済オンラインの記事によると、地方銀行の平均的な純利益は約147億円で、その約13%はATMによるものとされています。セブン銀行においては、純利益261億円の99%がATM手数料収入です。マイナス金利や規制緩和で経営基盤が揺らいでいる状況で、手数料収入が減少するキャッシュレス化に、各銀行は慎重にならざるを得なかったといえます。
日本でフィンテックが注目されはじめたのは2015年頃。個人向けの資産管理を目的とした家計簿・貯蓄サービス、法人向けの会計サービスなどを皮切りに、クラウドファンディング、スマートフォンアプリと銀行口座やクレジットカードを連携させた決済サービス、スマートフォンで個人間の送金ができるサービスが登場して話題となりました。
さらに、AIによる投資・資産運用サービス、ビットコインをはじめとする仮想通貨の高騰でフィンテックはますます脚光を浴びます。中でも仮想通貨は、手数料がほぼ無料で少額取引を可能にするマイクロペイメントを実現するものと期待されていました。しかし、乱高下の激しさとトラブルの多発、送金手数料の高騰などで、結果的には日常的な使用には不向きとされています。
これに替わってマイクロペイメントの実現に注目されているのが電子マネーです。もともとは電車の乗車券として使用されていたICカードが、その他の買い物でも利用できるようになるなど、この仕組みは確実に人々の生活に浸透しています。ただし、電子マネーには課題がないというわけではなく、参入企業や決済のタイプや規格が多過ぎるのが問題となっています。例えば決済タイプを見た場合、クレジット系決済、カード型電子マネー、カード型交通系電子マネー、スマホ・携帯電子マネー、携帯キャリア決済、ID決済など多岐にわたり、自社のサービスを使用する人およびその加盟店でしか使えないものばかりとなっています。これは、顧客を囲い込むことを目的としているのですが、キャッシュレス化を阻む要因にもなっています。このことから、自社のサービス利用者だけでなく、広く社会で使える統一規格が求められていることがわかります。
■日本のキャッシュレス化
日本がキャッシュレス後進国であることはよく知られた事実です。経済産業省によると、2016年時点で日本のキャッシュレス比率は19.8%。2007年からの9年間で6ポイント上昇したとはいえ、米国は49%、中国は60%、英国は68%、韓国に至っては96%にも及びます。
2020年の東京オリンピックを控え、訪日観光客が増え続ける中、キャッシュレス決済への対応は飲食・小売店の売上に直結するということもあり、経産省は2025年までにキャッシュレス比率を現在の倍に当たる40%まで引き上げると目標を掲げています。
■キャッシュレス化が遅れている原因
諸外国のキャッシュレス化が進展した背景には、金融危機やインフレ、紙幣の偽造・盗難などの理由がありました。一方、日本では街のいたる所にATMがあり、現金の価値も安定しており、治安も良好です。そのため、キャッシュレス化の必要性がなかったといえます。
さらに大きな要因の一つとして、銀行の収益基盤がATM手数料となっていることも挙げられます。東洋経済オンラインの記事によると、地方銀行の平均的な純利益は約147億円で、その約13%はATMによるものとされています。セブン銀行においては、純利益261億円の99%がATM手数料収入です。マイナス金利や規制緩和で経営基盤が揺らいでいる状況で、手数料収入が減少するキャッシュレス化に、各銀行は慎重にならざるを得なかったといえます。
2019年はキャッシュレス元年
■慎重だった銀行が動き出した
しかし、現金輸送やATMの運営などのコスト削減や犯罪リスクの減少など、銀行にキャッシュレス化のメリットがないわけではありません。さらに、終わりのないマイナス金利や、フィンテックベンチャーが生み出す金融サービスの影響もあり、ついに銀行も変革を開始しました。既に、APIを公開しオープンイノベーションを志向するなど、フィンテックベンチャー企業とのアライアンスにより、手数料ビジネスに依存した状態から新しい一歩を踏み出しつつあるのも事実です。銀行法の改正や大規模な規制緩和の数々からも、キャッシュレス化の推進をリードする強い意志が垣間見えます。
■QRコード決済の規格を統一
この流れを裏付けるように、2018年春には、三大メガバンクがQRコード決済に使用される規格を統一することで合意しています。「BankPay(バンクペイ)」と呼ばれる統一規格は、小売店や飲食店でQRコードにスマートフォンをかざすだけで、現金を使わずに支払える決済方式です。これはすべてのスマートフォン端末で利用することができます。電子マネーと違って自分の口座から支払われるという安心感は、普及の大きな追い風になると予想されています。
■銀行による独自仮想通貨の発行
さらに2019年には、メガバンク2行と新興のネット銀行が、それぞれ独自仮想通貨の発行をスタートさせます。メガバンクは、その独自仮想通貨を日本全国で利用できるスタンダード通貨とすることを目指しており、新興のネット銀行の独自仮想通貨は、複数の決済端末や加盟店網の相互利用・相互送客が可能なプラットフォームを基盤とするとされています。これら独自仮想通貨の統一規格としての運用が軌道に乗れば、キャッシュレス化が大きく進展する可能性があります。
余談ですが、独自仮想通貨は1コイン=1円と完全に固定相場とする場合、資金決済法により電子マネーの扱いとなり、100万円を超える送金ができなくなります。今回の銀行仮想通貨のうち、みずほ銀行が主体となる「Jコイン」は1コイン=1円で完全固定相場です。つまり、Jコインは法的には高額送金ができない電子マネーなのです。
一方、三菱UFJ銀行の「MUFGコイン」は、仮想通貨として発行するものの、独自の取引所を開設して取引を利用者と銀行間だけに制限することなどで、コインの価格がほぼ1円となるようにしており、相場が固定とならないようにしています。あくまで取引を反映させてからコインの価格が決まるシステムにすることで、100万円を超える送金も可能にしているのです。
ここからは仮説となりますが、三菱UFJ銀行のこの動きは、法人の商取引での使用を視野に入れている可能性があります。法人での振込やネットバンキングは、利用頻度が多い分、かかる手数料も膨大になります。安価な手数料でこの領域を一気に取り込むことで、法人の商取引という貴重なデータをリアルタイムに把握することも可能となります。
このように、コンシューマーだけでなく法人の利用が定着すれば、仮想通貨の汎用性と社会インフラ的な存在感も大きく増すことになるでしょう。また、国税庁でも、所得計算の方法や相続時の仮想通貨の評価方法、その他の問い合わせをまとめた「仮想通貨関係FAQ」や、納税者が申告に必要な所得金額等が自動計算される「仮想通貨の計算書」を公開するなど、仮想通貨における対応を強化しています。キャッシュレス化を想定した法制度の整備も今後加速していくことでしょう。
※関連記事:フィンテックで経理業務はどう変わる!?
しかし、現金輸送やATMの運営などのコスト削減や犯罪リスクの減少など、銀行にキャッシュレス化のメリットがないわけではありません。さらに、終わりのないマイナス金利や、フィンテックベンチャーが生み出す金融サービスの影響もあり、ついに銀行も変革を開始しました。既に、APIを公開しオープンイノベーションを志向するなど、フィンテックベンチャー企業とのアライアンスにより、手数料ビジネスに依存した状態から新しい一歩を踏み出しつつあるのも事実です。銀行法の改正や大規模な規制緩和の数々からも、キャッシュレス化の推進をリードする強い意志が垣間見えます。
■QRコード決済の規格を統一
この流れを裏付けるように、2018年春には、三大メガバンクがQRコード決済に使用される規格を統一することで合意しています。「BankPay(バンクペイ)」と呼ばれる統一規格は、小売店や飲食店でQRコードにスマートフォンをかざすだけで、現金を使わずに支払える決済方式です。これはすべてのスマートフォン端末で利用することができます。電子マネーと違って自分の口座から支払われるという安心感は、普及の大きな追い風になると予想されています。
■銀行による独自仮想通貨の発行
さらに2019年には、メガバンク2行と新興のネット銀行が、それぞれ独自仮想通貨の発行をスタートさせます。メガバンクは、その独自仮想通貨を日本全国で利用できるスタンダード通貨とすることを目指しており、新興のネット銀行の独自仮想通貨は、複数の決済端末や加盟店網の相互利用・相互送客が可能なプラットフォームを基盤とするとされています。これら独自仮想通貨の統一規格としての運用が軌道に乗れば、キャッシュレス化が大きく進展する可能性があります。
余談ですが、独自仮想通貨は1コイン=1円と完全に固定相場とする場合、資金決済法により電子マネーの扱いとなり、100万円を超える送金ができなくなります。今回の銀行仮想通貨のうち、みずほ銀行が主体となる「Jコイン」は1コイン=1円で完全固定相場です。つまり、Jコインは法的には高額送金ができない電子マネーなのです。
一方、三菱UFJ銀行の「MUFGコイン」は、仮想通貨として発行するものの、独自の取引所を開設して取引を利用者と銀行間だけに制限することなどで、コインの価格がほぼ1円となるようにしており、相場が固定とならないようにしています。あくまで取引を反映させてからコインの価格が決まるシステムにすることで、100万円を超える送金も可能にしているのです。
ここからは仮説となりますが、三菱UFJ銀行のこの動きは、法人の商取引での使用を視野に入れている可能性があります。法人での振込やネットバンキングは、利用頻度が多い分、かかる手数料も膨大になります。安価な手数料でこの領域を一気に取り込むことで、法人の商取引という貴重なデータをリアルタイムに把握することも可能となります。
このように、コンシューマーだけでなく法人の利用が定着すれば、仮想通貨の汎用性と社会インフラ的な存在感も大きく増すことになるでしょう。また、国税庁でも、所得計算の方法や相続時の仮想通貨の評価方法、その他の問い合わせをまとめた「仮想通貨関係FAQ」や、納税者が申告に必要な所得金額等が自動計算される「仮想通貨の計算書」を公開するなど、仮想通貨における対応を強化しています。キャッシュレス化を想定した法制度の整備も今後加速していくことでしょう。
※関連記事:フィンテックで経理業務はどう変わる!?
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