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経理/財務公認会計士の仕事術 2025/12/17

第61回 比較分析のいろいろ(1) ~売掛金の大きさ

第61回 比較分析のいろいろ(1) ~売掛金の大きさ
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前回までは連結財務諸表について説明してきました。今回からは新シリーズ「比較分析」についてです。今回は「売掛金の大きさ」についてお話ししていきます。

1.はじめに

「売掛金、大きいのはどっち?」

一見何気ない質問のようですが、どんな場面で出た質問なのかによっても、その意味合いは大きく変わってきます。今回からはいろいろな比較分析について、経理パーソンの方々が直面する部分にスポットを当てながら考えてみようと思います。

2.ケースで考える比較分析 ~売掛金の回収に時間がかかっているのはどっち?

まずは、ある経理部での様子を描いた【ケース1】をご覧ください。

【ケース1】
ある日のこと、卸売業を営むG社の経理スタッフKさんのそばで経理部長がつぶやいています。G社の決算書と同業のライバル会社F社の決算書を見比べているようです。

経理部長:「うちはなんでこんなに売掛金が大きいのだろうか…。うちはどうも売掛金の回収に時間がかかっているのかな…」

Kさんもそのあと、自社とF社のB/Sを左右に並べて見比べてみました。B/S上の売掛金残高は、G社では120,000千円、F社では160,000千円となっています。

先ほどの経理部長のつぶやきが気になっていたKさんは経理部長に言いました。

Kさん :「部長。何度も確かめたのですが、売掛金はうちよりもF社の方が大きいようですが…」

経理部長:「あ~Kさん。私が気になったのはそういうことではないんだ。大きさって絶対額で考えてしまいがちだけど、相対的な大きさっていうのもとても大事なんだ。決算書はB/Sだけじゃないからね…」


そう言ったあと、経理部長は“あるもの”に対する売掛金残高が大きいことが気になっていたのだと、Kさんに教えてくれました。果たして“あるもの”とは何でしょうか?
【ケース1】では、経理部長が「うちはなんでこんなに売掛金が大きいのだろうか…」とつぶやくのを耳にした経理スタッフKさんの反応が描かれています。
【ケース1】で取り上げているのは、同業他社の決算書と比較する場合の一例です。Kさんには、売掛金そのもの(絶対額)の大小しか思い浮かんでいないようですが、どうやら経理部長が思い浮かべていることとは違うようです。では経理部長は一体何をもって売掛金が大きいと言っているのでしょうか。

そのヒントは経理部長の発言にありそうです。


経理部長は決算書から売掛金の大きさをどのようにつかんでいたのか?
【ケース1】には経理部長の重要な発言が描かれています。特に重要なのが次の2つです。
発言1 「うちはどうも売掛金の回収に時間がかかっているのかな…」
発言2 「相対的な大きさっていうのもとても大事なんだ。決算書はB/Sだけじゃないからね…」
まず、発言1から経理部長が気にしているのは「売掛金の回収にかかっている時間」であることが分かります。

経理部長は決算書の情報から、自社(G社)とライバル会社(F社)が「売掛金回収に要している期間」の違いを読み取るために、ある方法で売掛金の大きさをつかんでいるのです。

また、発言2を見てみましょう。経理部長は両社のB/Sだけを見比べているKさんに対して、発言2のように、相対的な大きさに注目していることと、B/S以外の決算書にも注目していることを伝え、大きなヒントを出しています。そうです。経理部長は、もう一つの重要な決算書であるP/Lも活用することで、売掛金残高の相対的な大きさに着目しているのです。

読者の皆様だったら、どのようにして両社の「売掛金の回収に要している期間」を読み取りますか。

さて、ここからは経理部長が「売掛金の回収に要している期間」をどのように計算したのかを見ていきましょう。【ケース1】では、経理部長が「“あるもの”に対する売掛金残高が大きい」と言っていますが、答えを先に言ってしまうと、それは「売上高」です。実は、G社はF社と比べると、売上高に対して相対的に売掛金が大きいのです。以下において具体的に説明することにします。

仮にすべての売上が現金回収(即時回収)だったとしましょう。この場合はそもそも売掛金が発生することなく、残高もゼロということになります。

次に、売上の1カ月後に売掛金を回収しているとした場合はどうでしょうか。この場合は条件どおりに売掛金の回収が行われているとすれば、当月末に残っている売掛金は当月に売り上げた分(税込の売上高相当)ということになります。売上の1カ月後(30日後)に売掛金を回収している場合の売掛金残高は、1カ月分(30日分)の売上高相当ということです。逆に言うと、1カ月分(30日分)の売上高相当の売掛金が残っているということは、売掛金の回収に要している期間は1カ月(30日)ということです。

同様に、売上の2カ月後に売掛金を回収している場合、当月末に残っている売掛金は前月と当月に売り上げた分(税込の売上高相当)ということになります。売上の2カ月後(60日後)に売掛金を回収している場合の売掛金残高は、2カ月分(60日分)の売上高相当ということです。逆に言うと、2カ月分(60日分)の売上高相当の売掛金が残っているということは、売掛金の回収に要している期間は2カ月(60日)ということです。

ここで【図表1】をご覧ください。上で説明した考え方に従って、売掛金の回収に要している期間を計算しています。

【図表1】売掛金の回収に要している期間の計算

項目 計算式 自社
(G社)
ライバル会社
(F社)
売掛金残高 120,000千円 160,000千円
年間売上高 730,000千円 1,460,000千円
1日当たり売上高 ③=②÷365日 2,000千円 4,000千円
売掛金の回収に要している期間
(=売掛金回転期間)
④=①÷③ 60日 40日
(注)売上高は消費税込の金額で計算した方が日数はより厳密になるが、計算を簡略化するため、通常はP/L上の金額(通常は消費税抜の金額)を用いて計算している。
このように、決算書から得られる情報を使うとすると、B/Sで売掛金残高が分かりますし、P/Lで売上高が分かります。年度の決算書であれば、P/Lからは年間売上高が分かりますので、これを365日で割って1日当たり売上高を算出することができます。

この1日当たり売上高で売掛金残高を割ると、「何日分の売上高相当の売掛金が残っているのか」、つまり、「売掛金の回収に要している期間」が分かるということなのです。

【図表1】に示した計算式で算出される当該期間のことを「売掛金回転期間」と言います。【図表1】のように日数として計算する場合の他、月数として計算する場合などもあります。

売掛金回転期間の計算式

売掛金回転期間(日) = 売掛金残高 ÷ 1日当たり売上高
売掛金回転期間(月) = 売掛金残高 ÷ 1月当たり売上高
自社とライバル会社では売上規模が異なるため、売掛金残高そのものを比較してもあまり意味がありませんが、規模が違っても比較できるような共通のモノサシがあれば、適切に比較することができます。このモノサシの一つが経営指標であり、今回のケースでは、売掛金回転期間という経営指標を使うことで両社を比較することができるようになります。

【図表1】の自社(G社)とライバル会社(F社)の売掛金回転期間を比較すると、自社が60日であるのに対して、ライバル会社は40日となっています。これはライバル会社の場合は売り上げてから40日位で売掛金を回収できているのに対して、自社では売掛金回収まで60日位かかっているということになります。

回収までに時間がかかれば、それだけ資金繰りは厳しくなります。40日で回収できるか、60日かかるかでは回収に20日間もの違いがありますので、資金繰りへの影響も少なくはないでしょう。

また、回収までの期間が長くなれば、その分だけ、相手先に不測の事態が発生したり、取引時の状況を確かめるのが難しくなってきたり、といった問題が生じるので、貸倒れの発生するリスクが高まるといった点も忘れてはなりません。

こうした点から、「売掛金の回収に要している期間」を短縮できないか検討することは有効で、売掛金回転期間を継続的にウォッチすることをお勧めします。

3.おわりに

今回は、いろいろな比較分析の中から売掛金に関わる比較を取り上げました。売掛金が大きいかどうかを「売掛金残高の絶対額」で判断してしまいがちですが、それだけではなく、「相対的な大きさ」で判断することがとても大事です。具体的には「売上高に対する相対的な大きさ」である売掛金回転期間を取り上げました。これにより、「売掛金の回収にかかっている期間」を比較できることがお分かり頂けたかと思います。

また、単純に同業他社の決算数値と比較しようとした場合、会社規模などが違えばうまく比較できないこともあります。しかし、今回取り上げた「売掛金回転期間」といった指標を使えば、規模の違う会社同士でも「売掛金の回収にかかっている期間」を比較することが可能になりますので、とても便利だということもお分かり頂けたかと思います。

次回以降も、経理パーソンの方々が直面する部分にスポットを当てながら、いろいろな比較分析について考えていこうと思いますので、皆様の業務の中で活かして頂ければ幸いです。


(提供:税経システム研究所)
**********

いかがでしたでしょうか。 今回から「比較分析」というテーマでいくつかのケースをご紹介しながら説明していきます。
次回は、「第62回 比較分析のいろいろ(2) ~売掛金の増加理由」でまた別の事例をご紹介させていただきます。お楽しみに!
なお、このコラムの提供元である税経システム研究所については下記をご参照ください。

税経システム研究所
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