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経理/財務税務(税金・節税) 2025/12/23

AIで税務調査が厳格化する?KSK2稼働で突入する“見逃しゼロ時代”に企業が備えるべき対策

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国税庁が2026年9月に稼働を予定している次世代基幹システム「KSK2(ケーエスケーツー)」は、AIを活用した新たな税務調査の時代を切り開くと注目されています。
紙中心だった税務行政は大きく見直され、申告データや証憑情報が一元管理されることで、AIによる高度な分析が可能になります。
その結果、税務調査の手法やチェックポイントは大きく変化する見込みです。
今回は、KSK2の仕組みやAI活用の方向性、そして企業がこれから備えるべき実務対応について解説します。

AIを導入した税務調査の現場で今起きていること

国税庁が公表した「令和5事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」によると、税務調査の対象先選定にAIを導入した結果、所得税の追徴税額は1,398億円と過去最高を記録しました。
さらに、実地調査1件あたりの追徴税額も224万円となり、前年度(219万円)から増加しています。
こうした増加の背景には、税務当局がAIを用いて過去の申告漏れ事例などを幅広く解析し、申告漏れの可能性が高い納税者をより精度高く抽出できるようになったことが一因として挙げられます。


AIを使った国税庁の動き
国税庁では、統計学や機械学習の技術を用いたBA(Business Analytics)ツールを導入し、多様なデータを分析する仕組みを整備しています。
収集データをBAツールで解析することで、申告漏れの可能性が高い納税者を効率的に抽出し、その結果を調査や行政指導に活用しています。
こうした分析に基づき、調査必要度が高いと判断された納税者に対しては、より深度ある調査を実施する取り組みを進めています。


滞納整理の領域におけるAI活用
滞納整理の領域においてもAI活用が進んでいます。
滞納者の属性(規模・業種など)や過去の架電履歴を分析し、応答確率を予測するモデルを構築したうえで、その予測結果に基づき効果的なコールリストを自動生成するシステムが既に稼働しています。
さらに、国税庁は2026年9月に次世代基幹システム「KSK2」を本格稼働させる予定です。
これにより、税務調査のプロセスや運用は従来とは大きく異なるものへと変革していく見通しです。

※参考資料:国税庁「令和5事務年度 所得税及び消費税調査等の状況
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【2026年9月】KSK2本格稼働、開発コンセプトとは

KSKシステム(国税総合管理システム)とは、納税者情報や申告情報を全国の税務署・国税局で一元管理するための国税庁の基幹システムです。
全国の国税局・税務署をネットワークで結び、申告・納税の事績や各種情報を入力することで統合管理するシステムであり、国税債権の管理をはじめ、税務調査や滞納整理など幅広い業務で活用されています。
これにより、税務行政に関わる事務処理は、高度化・効率化を実現してきました。
さらに、このKSKシステムは、2026年9月に次世代基幹システムであるKSK2へと刷新される予定です。

※参考資料:国税庁「納税者サービスの充実と行政効率化のための取組


KSK2とは
KSK2(国税総合管理システム/次世代システム)とは、国税庁が導入を進める次世代の基幹システムです。
ICT(情報通信技術)の活用により、納税者の利便性向上と課税・徴収事務の効率化・高度化を図ることを目的としており、これまでの税務行政の進め方を根本から見直す取り組みでもあります。
KSK2の開発コンセプトは、以下の通りです。

データ中心の事務処理を実現するシステム(紙からデータへ)
これまでの税務行政は、紙の書類を基点として業務が進められてきました。これに対し、KSK2では事務処理やデータ分析をシステム上で完結させる「データ中心」の運用へと移行します。
紙で提出された書類についても、AI-OCRにより全件をスキャンしてデータ化・イメージ化し、ほぼすべての申告書が新様式に変更されます。
提出形式にかかわらず、最終的にはすべての情報がデジタルデータとしてKSK2に蓄積され、AI分析の対象となる仕組みです。

税目別データベース・アプリケーションの統合(縦割りシステムの解消)
現行のKSKシステムでは、納税者情報が税目ごとに分割管理されています。
そのため、例えば調査官が法人税の税務調査に出向いた際、所得税に関して疑問点が生じても、その場で申告状況を確認することができません。
一度税務署に戻り、所得税の申告内容を確認する必要があるのです。
この間に、顧問税理士などの助言によって帳簿が修正され、調査時点での実態把握が難しくなるといった課題も指摘されています。
KSK2では、税目別に分断されていたデータベースが統合され、情報が横断的に管理されるようになります。
税目間のデータを同時に参照できるようになることで、先に矛盾点が抽出され、その結果が税務調査へとつながるなど、従来とは逆方向の調査プロセスが発生することも想定されます。

オープンシステムへの刷新(メインフレームからの脱却)
現行のKSKシステムは、独自OSを搭載した大型コンピュータによるいわゆる「メインフレーム」で構築されています。 これに対し、KSK2では市販の汎用OSを用いる「オープンシステム」へと刷新されます。
OSが汎用化されることで、使用環境の柔軟性が大幅に向上します。
調査官は税務署内に戻らなくても、調査現場から直接KSK2へアクセスし、取引先情報の即時確認や反面調査を効率的に進めることが可能になります。
さらに、インターネット経由で外部の統計データを取り込み、税務調査に活用するといった高度な分析も実現します。
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KSK2稼働後の税務調査を乗り切る企業の対応策

KSK2が稼働すると、税務当局がアクセスできる情報量や分析精度が飛躍的に高まり、従来とは異なる観点から申告内容がチェックされるようになります。
企業にとっては、「今まで以上に調査の目が届くようになるのではないか」、「小さな不整合も指摘されやすくなるのではないか」と不安を感じる場面も増えるでしょう。
だからこそ、KSK2時代の税務調査を見据え、日頃から取るべき対応策を整理しておくことが重要です。


AI分析で抽出されやすくなる可能性のある項目
KSK2が本格稼働すれば、AIを活用した税務調査はさらに高度化し、これまで見過ごされていた小さな不整合でもデータ照合により抽出されやすくなると考えられます。
具体的な仕様は明らかになっていないものの、AIを活用すれば、理論上は次のような点もチェックできる可能性があります。

  • 売上計上基準・時期の不一致(売上日・請求日・検収日のズレ)
  • 役員関連費用の按分根拠不足
  • 外注費・原価の異常値(過年度比較や同業比較でのAI検知)
どこまで実装されるかはわかりませんが、AIの分析能力を踏まえると、こうした領域が対象となる可能性は十分に考えられます。


企業が準備すべき対応策
以下では、KSK2稼働後の税務調査を乗り切るための対応策を解説します。

適正な申告と証憑管理の徹底
KSK2稼働後の税務調査では、調査官が現場から直接システムにアクセスできるようになるため、企業側にもその場で説明できる体制が求められるようになります。
請求書や領収書、メモなどの証憑をデータ化し、いつでも迅速に確認できる状態にしておきましょう。
なお、適正な申告を行っていれば税務調査を過度に恐れる必要はありません。
かつては税務調査に入られれば何らかの指摘を受けるのが当然とも言われましたが、実際は、適切に申告している企業であれば指摘なく調査が終了するケースも多く見られます。

デジタル化の推進とデータ管理体制の構築
国税庁はAI-OCRの採用を明言しており、紙の書類で提出された情報もすべてデジタル化され、KSK2に蓄積される仕組みになります。
そのため、企業にはこれまで以上にデジタル化への対応が求められます。
多くの企業が既にe-Taxを利用していますが、それだけでは十分とはいえません。
申告時だけでなく、期中からクラウド会計システムなどを活用し、帳簿や請求書のデータ管理体制を整えるとともに、電子帳簿保存法にも適切に対応しておくことが重要です。
税務調査で問われるのは、「なぜこの科目なのか」、「なぜこの金額なのか」という処理の根拠です。
請求書・会計処理・税務申告のデータを必要なときに即座に確認できるよう整理しておけば、調査時の負担は大幅に軽減されます。


2026年以降の税務調査の動向
KSK2は2026年9月の本格稼働後も継続的に機能拡張が進むと見込まれています。
国税庁は、AIや統計学に精通した人材の採用・育成を強化しており、AIやビッグデータを活用した税務調査への移行が一層加速すると考えられます。
AIによる事前分析が進むということは、適正に申告している企業にとっては、調査の頻度が下がったり、調査自体が簡素化されたりする可能性があることを意味します。
また、万が一調査に入られた場合でも、企業内のデータが整理され、国税側システムの内容と整合する説明を即座に示せれば、企業への信頼性が高まり、調査が従来より短時間で終了することも期待できます。
したがって、今後の企業に求められるのは、デジタル化への取り組みを継続し、必要なデータを必要なときに確実に取り出せる体制を整えることだといえるでしょう。

※本記事の内容は掲載日時点での情報です。
仕訳データチェックの自動化で監査をサポート
MJS AI監査支援

財務報告書の作成に必要な月次監査業務を効率的に行うための支援システムです。入力作業の自動化・エラーチェック・検出の作業などを支援し、監査時間の短縮や業務の効率化を可能にします。

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KSK2の本格稼働により、税務行政はこれまでにないスピードと精度で進化していきます。
しかし、適正な申告と誠実なデータ管理を続けている企業にとって、必要以上に恐れる要素はありません。
むしろ、デジタル化への取り組みを進めることで、調査対応の負担が軽減され、企業の信頼性向上にもつながります。
KSK2時代の税務調査を見据え、日頃から帳簿・証憑・データの整備を進めておくことが、企業にとって最大の防御策であり、長期的な経営リスクの低減にも寄与します。
今後の制度改正やシステム更新の動向を注視しつつ、継続的なデジタル対応を進めていくことが求められるでしょう。

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