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ITDX 2025/12/16

生成AI使用の義務化が広がる企業現場で、経理業務はどう変わる?人とAIの役割を見極める時代へ

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近年、生成AIは一部の先進企業だけのものではなく、多くの企業にとって「業務インフラ」に近い存在になりつつあります。
特に象徴的なのが、生成AIの使用を前提とした働き方への転換です。
このような動きは、経理業務においても無関係ではありません。
今回は、企業における生成AI使用の義務化が進む背景を整理したうえで、経理業務への具体的な影響と、導入にあたってのメリット・注意点を解説します。

企業における生成AI使用の義務化

LINEヤフー株式会社は、約1万1,000人の全従業員を対象に、3年間で生産性を2倍に高めることを目標として、業務での生成AI活用を義務化する前提の新しい働き方を開始しました。
同様にソフトバンク株式会社でも、社内向け生成AIチャットとITヘルプデスクのQ&Aデータを連携させ、社内問い合わせ対応の標準手段として生成AIを組み込む取り組みを進めています。

※参考資料:LINEヤフー株式会社「LINEヤフー、全従業員約11,000人を対象に業務における「生成AI活用の義務化」を前提とした新しい働き方を開始
ソフトバンク株式会社「ソフトバンク版AIチャットと社内向けITヘルプデスクを連携させて業務のさらなる円滑化を推進

企業が生成AI使用を義務化する背景

「義務化」という表現には強い印象がありますが、その背景には以下のような理由や目的があります。

人材不足と競争環境の変化
日本企業を対象としたPwCの調査では、回答者の73%が「生成AIを利用した経験がある」と回答し、87%が「生成AIの社内利用・社外活用を実施・検討している」としています。
同調査では、生成AI活用の主な動機として「他社に後れを取らないこと」が挙げられており、生成AIを活用できるかどうかが、中長期的な競争力に直結するとの認識が広がっていることがわかります。
さらに、日本では労働人口の減少が続いており、経理を含むバックオフィス部門の採用難も深刻です。
限られた人員で業務を維持・高度化するためには、業務プロセスの前提にテクノロジーを組み込むことが不可欠となりつつあります。

※参考資料:PwC Japanグループ「生成AIは次のフェーズへ:勝つための人材育成/確保と導入効果の追求が最重要課題 生成AIに関する実態調査2023 秋


自主利用から「標準プロセス」へ
生成AIは当初、「一部の意欲的な社員が試験的に使うツール」として導入されるケースが多く見られました。
その段階では次のような課題が指摘されています。

  • 利用する人としない人の間で、生産性やアウトプットの質に差が出る
  • 部署ごとに使い方がばらつき、全社的な効果が見えにくい
  • セキュリティや情報管理のルールが整わないまま利用が進む
これらの状況を踏まえると、生成AIを効率的に使用するには社内共通のツールとする必要があることが考えられます。
理由は以下の通りです。

教育とガイドラインをセットで整備できる
利用を前提とすることで、研修や利用ルールを体系的に整えることができます。
結果として、誤用や情報漏えいのリスクを減らしやすくなります。

業務プロセスを設計し直しやすくなる
一部の人だけが使う状況では、プロセスの全面見直しが難しくなります。
一定以上の利用率を前提にすることで、「この作業はAIに任せ、人はこの確認・判断に集中する」といった業務再設計が可能になります。

評価の公平性を保ちやすい
生成AIを使うかどうかを個人に任せたままでは、「AIをうまく使った人だけ成果が高く見える」といった不公平感も生じかねません。
ある程度利用を前提にすることで、評価基準をそろえやすくなります。

このように教育・ルール・業務設計をセットで進めるための打ち手として「義務」と位置付けることで、生成AIのメリットをより大きく享受できることが考えられます。
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生成AIの活用事例と経理業務への応用可能性

ソフトバンク株式会社では、社内向け生成AIチャットにITヘルプデスクのQ&Aデータ約3万6,000件を連携させ、自社専用の問い合わせ対応AIとして活用しています。
これにより、従業員は、従来のFAQ検索の代わりに、自然な文章で質問を入力するだけで、社内ルールやシステム操作方法を確認できるようになりました。

また、会計ベンダーの中には、マニュアルやFAQ、過去の問い合わせ履歴をRAG(Retrieval-Augmented Generation)で検索し、生成AIが回答を提示する問い合わせ対応システムをカスタマーサポート部門で利用している企業もあります。
日々蓄積される問い合わせ履歴も自動的に学習データとして取り込まれ、時間の経過とともに回答範囲と精度が高まる仕組みとなっており、生成AIの特徴をうまく利用しています。


経理業務への応用
このような生成AIによる問い合わせ対応は、経理業務にもそのまま応用することができます。
例えば、次のような社内質問に対しても、生成AIが回答できるようになるのです。

  • この交際費は経費として認められるか
  • 経費精算の締切日はいつか
  • インボイス番号が記載されていない場合の処理方法
  • 特定の取引の勘定科目は何を使うべきか
経費規程やマニュアル、過去のQ&Aを生成AIに学習させておくことで、従業員は24時間いつでもAIチャットに質問できるようになります。
これにより、企業担当者は、標準的な問い合わせ対応からある程度解放され、例外的なケースの判断や業務改善といった付加価値の高い業務に時間を割くことが可能になります。


経理業務での具体的な活用例
ほかにも、生成AI及び関連技術を組み合わせると、経理業務では、特に次のような領域で効果が期待できます。

  • 領収書・請求書のAI-OCRによるデータ化
  • 銀行・カード明細や経費データの自動仕訳
  • 経費申請や取引データの異常値検知
  • 経費ルールや勘定科目に関する社内問い合わせ対応
これらを導入した場合のイメージを、従来との比較で整理すると次のようになります。

導入前後のイメージ比較
領域 従来の運用例 生成AI・AIツール導入後のイメージ
領収書・請求書の処理 紙の原本を回収し、担当者が手入力 スマホ撮影やPDFアップロードを行い、AI-OCRが日付・金額・取引先などを自動読み取り
勘定科目の判断・仕訳 担当者が過去資料や勘定科目表を参照しながら1件ずつ仕訳 過去の取引パターンを学習したAIが仕訳候補を提示し、人が内容を確認・承認
不正・ミスの検知 月次締め後にExcelなどで集計し、違和感がないかを目視で確認 AIがリアルタイムに異常なパターンを検出し、生成AIがその理由や確認ポイントを文章で提示
社内からの経理関連問い合わせ メールや電話で経理部門に質問し、担当者が個別に回答 経費規程やFAQを読み込んだAIチャットボットが標準的な問い合わせに自動回答
このように、入力・検索・一次判断といった定型的な作業をAIに任せ、人は確認と最終判断に集中する構図が見えてきます。


RPAとの違い
経理業務の自動化では、これまでRPA(Robotic Process Automation)が主に活用されてきました。
RPAは、画面操作やデータ転記など、「手順が決まっている作業」をソフトウェアロボットに置き換える技術であり、あらかじめ定義したルールに従って同じ処理を繰り返すことを得意とするものです。
一方で生成AIは、「自然言語での質問に対応できること」、「様々なデータをもとに、自ら判断結果や文章を生成できること」が特徴です。
例えば、「この経費申請が他の月と比べて不自然かどうか」といった問いに対して、生成AIは過去のデータを参照し、平均との比較や前年同月比などを踏まえたうえで、「どの点に注意すべきか」といった説明を文章で返すことができます。
RPAが「決められた操作を正確に繰り返す仕組み」であるのに対し、生成AIは「判断や説明が求められる場面を支援する仕組み」として位置付けられています。
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生成AI導入に関するメリット・注意点と、中小企業が取るべき最初の一歩

最後に、生成AI導入に関するメリットと注意点を整理したうえで、実際に導入する際の最初の一歩を紹介します。


生成AIのメリット
生成AI及び関連ツールを経理業務に導入することで、主に次のようなメリットが期待できます。

業務効率化とコスト削減
仕訳入力や経費チェック、請求書処理、社内問い合わせ対応など、時間を要する定型業務を減らし、残業時間の削減や外部委託コストの圧縮につなげることができます。

不正・ミス防止とガバナンス強化
AIによる異常値検知やログ分析により、不自然な経費申請や計上漏れ・二重計上などを早期に発見しやすくなります。
問い合わせ対応に生成AIを活用することで、回答の内容も標準化され、ナレッジの蓄積にもつながります。

人材不足への対応
少人数の経理部門でも、一定規模の取引量に対応しやすくなり、属人化の解消にも寄与します。


導入時の注意点
一方で、導入にあたっては次の点に留意する必要があります。

機密情報の取り扱い
経理データは極めて機密性が高いため、パブリックな環境にそのままアップロードすることは避けましょう。
Azure OpenAI Serviceなど、閉域ネットワークを前提とした企業向け環境で運用する事例も増えています。

最終判断の責任範囲の明確化
仕訳の提案や異常検知の結果はあくまでAIからの提案であり、最終的な判断は人が行う必要があります。
どの範囲までAIに任せ、どこから人が確認するのかを、業務フローとして明確にしておくことが重要です。

現場への教育と負担感の軽減
ツールだけ導入しても、現場が「使い方がわからない」、「従来のやり方の方が早い」と感じれば定着しません。
基本的な操作教育に加え、「どの業務で使うと効果が出やすいか」を具体的に示すことが有効です。


中小企業が取り組みやすい最初のステップ
中小企業や少人数の経理部門にとっては、いきなりすべての業務を生成AI前提に切り替えるのではなく、次のような段階的なアプローチが現実的です。

経費精算×AI-OCRから着手する
領収書やレシートをスマートフォンで撮影し、自動で日付・金額を読み取るサービスは、導入効果がわかりやすく、従業員側の利便性向上にもつながります。

自動仕訳機能付きクラウド会計システムの活用
銀行明細やクレジットカード明細を連携し、AIによる仕訳候補の提案を受けながら、徐々に手入力を減らしていきます。

AIチャットボットによる経費規定とFAQの整備
将来的に社内向けAIチャットボットを導入することを念頭に、経費規程やよくある質問を整備し、文書化しておきます。
これは、AI導入の有無にかかわらず、ガバナンス向上に役立ちます。

※本記事の内容は掲載日時点での情報です。
MJSによる、お客様に寄り添う徹底的な伴走支援
MJS DXコンサルティング

デジタル技術の進展により、企業の競争環境が大きく変化しています。特に中小企業にとってDX(デジタルトランスフォーメーション)は、持続的な成長と市場競争力の強化に不可欠な取り組みとなっています。

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生成AI使用の義務化は、一見すると「強制」の色合いが強いテーマに見えます。
しかしその背景には、生産性向上と人材不足への対応、全社的な標準化とガバナンスの強化、教育とルールをセットで整える必要性といった、実務的な目的があります。
経理業務の現場でも、AI-OCRや自動仕訳、不正検知、問い合わせ対応など、既に具体的な活用領域が見え始めている中で、自社にとっての現実的な第一歩がどこかを見極めながら生成AIの活用方法を考えていくことが、これからの企業経営にとって重要なポイントとなるでしょう。

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