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経理/財務会計処理 2025/12/09

ヘッジ会計で企業リスクを正しくコントロール!為替・金利変動の影響を抑える考え方と仕訳のポイント【仕訳例あり】

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円安・円高や金利の変動など、経済の動きが企業の業績に直結する今、リスクを正しく把握し、適切に管理することが求められています。
こうしたリスクを効果的にコントロールする手法の一つが「ヘッジ会計」です。
名前は聞いたことがあっても、仕組みや処理方法は複雑に感じる方も多いのではないでしょうか。
今回の記事では、ヘッジ会計の基本的な仕組みから、適用要件、具体的な処理方法まで実務に役立つポイントを解説します。

ヘッジ会計の基礎知識

「ヘッジ(hedge)」とはもともと「生け垣」や「垣根」を表す英単語であり、「外部からのリスクを防ぐ」という意味から、金融業界では「価格変動などのリスクから身を守る行為」を指すものとされています。
これを踏まえて、ヘッジ会計の基本を整理してみましょう。


ヘッジ会計の定義と目的
ヘッジ会計とは、リスク回避のための取引と実際の取引を帳簿上でも一体として扱い、両者の損益の認識時期をそろえることで、企業の業績を実態に即した形で表示するための会計処理です。
輸出入を頻繁に行う企業や多額の借入を抱える企業など、相場変動で業績がぶれやすい企業が、金利・為替・商品価格といった相場変動リスクを回避する目的で行う「ヘッジ取引」に対して適用されます。

ヘッジ取引とは、「ヘッジ対象」と「ヘッジ手段」を組み合わせて損益を相殺することで、財務リスクを軽減する手法のことです。
ヘッジ対象は、将来の価格変動などによって損益が発生するリスクを持つ資産や負債などの「守るべき対象」であり、ヘッジ手段はリスクを回避・軽減するために使う取引や金融商品などの「守るための手段」です。
代表的なヘッジ手段としては、主に「先物取引」、「オプション取引」、「スワップ取引」といったデリバティブ(金融派生商品)が用いられます。
デリバティブとは、為替レートや金利、商品価格などの値動きに基づいて価値が変動する金融契約のことです。

取引の種類 内容 リスク回避の例
先物取引 将来の一定時点で、あらかじめ決めた価格で特定の商品を売買する契約 将来ドルを購入する予定がある場合、先物で購入価格を固定して円高リスクを回避する
オプション取引 将来の特定時点に、特定の価格で原資産を売買する権利を売買する取引 為替レートが不利に動いた場合のみ行使して損失を抑える
スワップ取引 将来のキャッシュフロー(主に金利や通貨)を二社間で交換する取引 変動金利を固定金利に変えることで金利上昇リスクを回避する
通常のデリバティブ取引における金融商品は時価で評価され、その時点の損益がすぐに計上されます。
一方で、ヘッジ対象の損益は将来になって発生するため、両者の計上タイミングがずれることから、そのままだと業績が実際以上に大きく変動して見えることがあります。
ヘッジ会計では、このズレを調整し、ヘッジ対象とヘッジ手段の損益を同じタイミングで計上できるようにします。
これにより、リスク回避の効果を正確に財務諸表に反映させ、業績の変動をなだらかにして財務の安定性を高めるのです。


ヘッジ会計の例
Aさんはカフェを経営しています。
1年後にコーヒー豆100kgを仕入れる予定があり、相場は80万円程度になると見込んでいますが、価格上昇のリスクも懸念しています。
そこでAさんはリスクヘッジとして「コーヒー豆の先物取引」を行い、市場で形成されている1年後の取引価格(先物価格)である70万円で、1年後に100kgを購入する契約を結びました。
このときの関係性は以下の通りです。

ヘッジ対象 コーヒー豆の購入
ヘッジ手段 コーヒー豆の先物取引
1年後、実際の相場が120万円まで上昇した場合、次のような結果になります。

現物取引 本来80万円で仕入れる予定だったものが、相場上昇により120万円で仕入れることになり、40万円の損失が発生
120万円 - 80万円 = 40万円
先物取引 70万円で買う契約をしていたため、時価120万円との差額で50万円の利益が発生
120万円 - 70万円 = 50万円
結果として、現物の損失(-40万円)と先物の利益(+50万円)がほぼ相殺され、実質的な損益は+10万円に抑えられます。

通常の会計処理では、先物取引による利益50万円を期末時点で時価評価し損益に計上しますが、ヘッジ会計では、この利益を実際にコーヒー豆を仕入れるタイミングに合わせて認識します。
これにより、リスク回避の効果を正確に財務諸表へ反映し、業績の変動を抑えることができます。


ヘッジ会計のメリットとデメリット
ヘッジ会計のメリット
ヘッジ会計のメリットは、「実態どおりに損益を安定させられる」ことです。
ヘッジ会計を適用しない場合は、先物取引や為替予約などのヘッジ取引と、実際の取引が異なる時期に計上されるため、帳簿上の利益が大きく変動して見えることがあります。
ヘッジ会計を使えば、両者を同じタイミングで処理できるため、リスク回避の効果を損益に正しく反映できます。
また、企業がリスクを適切に管理している姿勢を財務諸表に示せるため、経営の安定性が伝わりやすくなり、投資家や経営者の判断にも役立ちます。

ヘッジ会計のデメリット
一方で、デメリットは「手続きと管理が複雑である」点です。
ヘッジ会計を適用するには、ヘッジ対象・ヘッジ手段・ヘッジ関係を明確にし、事前の文書化や効果検証(テスト)が求められます。
さらに、評価差額の処理や繰延など、通常より仕訳が増えて会計処理が複雑になります。
要件を満たさなければ適用できず、誤って処理すると財務諸表の信頼性を損なうリスクもあります。
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ヘッジ会計を適用するために満たすべき要件

ヘッジ会計は、企業のリスク管理方針を財務諸表に適切に反映する仕組みです。
ただし、損益を意図的に操作することを防ぐため、「金融商品に関する会計基準」で定められた要件を満たす必要があります。

※参考資料:企業会計基準委員会「企業会計基準第10号 金融商品に関する会計基準


要件1:ヘッジ取引が企業のリスク管理方針に適合していると客観的に認められること(事前テスト)
ヘッジ取引が企業のリスク管理方針に基づいて行われていることを、客観的に確認できることが必要です。
この手続きを「事前テスト」と呼びます。
具体的には、以下のいずれかの要件を満たさない場合、ヘッジ会計を適用することはできません。

  • 当該取引が企業のリスク管理方針に適合している旨を、文書により確認できること
  • 企業のリスク管理方針に関して明確な内部規定及び内部統制組織が存在し、リスク管理方針に沿った形での処理が期待されること
つまり、「どの資産や負債、予定取引にどのようなリスクがあって、それをどのような方法でヘッジしていくのかを、社内のルールとして明確にしておく必要がある」ということです。
ここでまとめた文書や規程は、監査人や規制当局に説明する際の重要な根拠資料にもなります。


要件2:ヘッジ効果が有効であること(事後テスト)
ヘッジ取引開始後も、ヘッジ対象の変動リスクがヘッジ手段によって十分に相殺されているかを、継続的に評価する必要があります。
この評価手続きを「事後テスト」と呼びます。
具体的には、以下の要件を満たさない場合、ヘッジ会計を適用することはできません。

ヘッジ取引時以降において、ヘッジ対象とヘッジ手段の損益が高い程度で相殺される状態又はヘッジ対象のキャッシュフローが固定されその変動が回避される状態が引き続き認められることによって、ヘッジ手段の効果が定期的に確認されていること
※出典:企業会計基準委員会「企業会計基準第10号 金融商品に関する会計基準

一般的には、ヘッジ開始時から有効性を判定する時点までの間に、ヘッジ対象とヘッジ手段の相場変動額の累計を比較し、その比率が80~125%の範囲内に収まっていれば、ヘッジ効果は有効と判断されます。
ヘッジ効果が有効でなくなった場合は、ヘッジ会計の適用を中止し、通常の処理に戻す必要があります。
また、事後テストは決算日に必ず実施し、少なくとも半期に一度行うことが求められます。

なお、為替予約では銀行とあらかじめ決済レートなどを決めておくため、基本的には実際のキャッシュフローが変動しません。
そのため、取引後に行う事後テストは省略できることがあります。


補足:「金利スワップの特例処理」の適用要件
金利スワップの特例処理とは、特定の要件を満たす金利スワップ取引について、時価評価を行わず、金銭の受払いの純額を対象資産・負債の利息に加減する簡便的な会計処理です。
この処理を適用するためには、先ほどのヘッジ会計の基本要件を満たしたうえで、金利スワップの想定元本と対象資産・負債の元本金額がほぼ一致していることなど、複数の追加要件を満たす必要があります。

※参考資料:国税庁「デリバティブ取引に係る損益等
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ヘッジ会計の仕訳例

最後に、ヘッジ会計の具体的な仕訳処理を確認しておきましょう。


繰延ヘッジ(原則的な処理)
繰延ヘッジは、ヘッジ会計で最も一般的な処理方法です。
ヘッジ手段で発生した損益を、貸借対照表の純資産の部に繰延ヘッジ損益として計上し、ヘッジ対象の損益が認識されるまで繰り延べます。
この処理によって、ヘッジ対象とヘッジ手段の損益を同じ期間に認識でき、損益のズレを防ぐことができます。
以下は、期末時点でヘッジ手段(デリバティブ取引)に評価損益が発生した場合の仕訳例です。(実効税率:40%)

例1:デリバティブに評価損(100,000円)が発生した場合
借方 金額 貸方 金額
繰延ヘッジ損益
(純資産)
60,000 デリバティブ
(負債)
100,000
繰延税金資産
(資産)
40,000
例2:デリバティブに評価益(100,000円)が発生した場合
借方 金額 貸方 金額
デリバティブ
(資産)
100,000 繰延ヘッジ損益
(純資産)
60,000
繰延税金負債
(負債)
40,000

時価ヘッジ
時価ヘッジは、ヘッジ会計の特例的な処理方法の一つです。
ヘッジ手段とヘッジ対象の両方を時価評価し、その評価損益を当期損益に反映します。
以下は、その他有価証券(ヘッジ対象)の金利変動リスクを、先物取引(ヘッジ手段)でヘッジする場合の仕訳例です。

前提
  • 取引開始時に、その他有価証券を980,000円で取得
  • 同時に、価格変動リスクをヘッジするため、先物取引契約を締結
  • 決算時に社債の時価は950,000円に下落、先物取引で30,000円の評価益が発生
1.取引開始時の仕訳
借方 金額 貸方 金額
その他有価証券 980,000 普通預金 980,000
2.決算時の仕訳
借方 金額 貸方 金額
投資有価証券評価損 30,000 投資有価証券 30,000
債券先物 30,000 先物評価益 30,000
この結果、損益計算書上では以下の2つが計上され、損益が相殺されます。

  • 投資有価証券評価損(費用):30,000円
  • 先物評価益(収益):30,000円
これにより、ヘッジ取引によって価格変動リスクが回避されているという経済的な実態が財務諸表に正しく反映されます。


為替予約等の振当処理
為替予約等の振当処理は、外貨建の金銭債権・債務(ヘッジ対象)と、その為替変動リスクをヘッジするための為替予約(ヘッジ手段)を一体のものとして会計処理を行う方法です。
具体的には、外貨建の取引額を、取引発生時の為替レート(直物レート)ではなく、あらかじめ契約した為替予約のレートで換算し、その円貨額で固定します。
この処理を適用することにより、取引発生時点で将来の決済額(円貨)が確定するため、その後の為替レートの変動による影響を会計上受けることがなくなります。
結果として、期末決算時の評価替えが不要となり、為替差損益が計上されないため、企業の損益の安定化につながります。
以下は、海外から商品を輸入し、その代金決済のために為替予約を締結した場合の仕訳例です。

前提
  • 仕入額:10,000ドル
  • 取引発生時の直物レート:1ドル=140円
  • 為替予約レート(先物レート):1ドル=145円
  • 決算時の直物レート:1ドル=135円
1.取引発生時(為替予約レートで円貨額を確定)
商品を仕入れたと同時に、代金決済のための為替予約を締結します。
振当処理では、この時点で将来の支払額が予約レートで確定するため、仕入れと買掛金を為替予約レート(145円)で計上します。
借方 金額 貸方 金額
仕入れ 1,450,000 買掛金(ドル建) 1,450,000
2.決算時(仕訳は不要)
振当処理を適用しているため、買掛金の円貨額は為替予約レート(145円)で確定しており、決算時の直物レート(135円)による評価替えは行いません。

3.決済時(予約レートで外貨を購入し支払を実行)
決済日に、為替予約に基づき1ドル=145円で資金を調達し、買掛金を決済します。
借方 金額 貸方 金額
買掛金(ドル建) 1,450,000 普通預金 1,450,000

※本記事の内容は掲載日時点での情報です。
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ヘッジ会計は、複雑な会計処理に見えますが、実は企業のリスクをコントロールし、経営の安定を支える大切な仕組みです。
その原理を理解することで、財務戦略の本質を読み解き、より実践的な会計スキルを身につけることができるでしょう。

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