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経理/財務公認会計士の仕事術 2025/10/02

第50回 実地棚卸から学ぶ、経理の心得(3)

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前回は、「実地棚卸」を題材に、そこから学べる経理の心得について、過去の記事を引用し、棚卸資産の実地棚卸に当てはめながらお話しいたしました。今回は、これら4つ以外の経理の心得についてもお話ししていきたいと思います。

1.はじめに

今回も引き続き、実地棚卸を題材にしながら、そこから学べる経理の心得について話を進めたいと思います。前回は、「現金実査から学ぶ、経理の心得」(第44~46回)の中でまとめた4つの経理の心得を、棚卸資産の実地棚卸に当てはめながら話を進めましたが、今回からはこれら4つ以外の経理の心得についても挙げていきたいと思います。

2.ケースで考える ~実地棚卸の整理整頓からの学び

まずは、M社の実地棚卸での様子を描いた【シーン】をご覧ください。

【シーン】

M社は各種部品の卸売業を営む会社で、今日は実地棚卸をしています。営業チームの担当者(A・B・C)がカウントを行っていますが、どうも混乱が生じているようです。

Aさん「あれっ、さっき数えたこの商品X、こんなところにも置いてあった。こっちの数量も加えておかなきゃ。……。あっ、ここにもあった」

でも、Aさんは倉庫の隅にも商品Xが置いてあるのには気付いていないようです。


Bさん「うわっ、この商品Yが入っている段ボール箱、随分高々と積み重ねられてるな。一番下の段は何箱かな…。2段目は…。この箱の中の商品Yの個数は20個で、こっちの箱の中は10個か。なんか時間がかかっちゃうなぁ」

Bさんのカウント作業はなかなかはかどらないようです。


Cさん「商品Zの在庫はこの山とこの山か。……。よし、全部で○個だな」

でも、Cさんがカウントした商品Zの在庫の山のうちの1つは、得意先からの依頼で一時的に預かっているだけのものでした。
【シーン】には、実地棚卸で生じがちな整理整頓に関わる3つの問題が描かれています。そして、整理整頓ができていないことで生じる実地棚卸の問題点からは、経理パーソンが業務を行う上での心得となるポイントを見出すことができます。

経理の心得5 業務を細切れにせず、同じ業務はできるだけまとめる
【シーン】には、カウント担当のAさんが商品Xの在庫数をカウントしているときの様子が描かれています。しかし、商品Xがあちこちに点在して保管されているため、一旦カウントした商品Xの数量を何度も修正する事態となっています。また、商品Xが倉庫の隅にも置いてあるのを見落としており、この分が実在庫数のカウントからモレてしまっています。
M社では本来、同じ商品を点在させて保管することは想定していないのですが、入荷時に商品Xのいつもの保管場所に空きスペースがないと、別のところに一旦保管してしまい、そのことを忘れてしまうなどして、同じ商品が点在する状況に陥っているのです。実地棚卸に先立って同じ商品を1箇所にまとめるなど、事前の整理整頓も行われないまま、実地棚卸に入ってしまっています。
このように、同じ商品があちこちに点在して保管されていて、同じ商品がまとまっていない状態だと、どうしてもカウントが非効率になったり、カウント誤りが生じやすくなったりします。そのため、事前の整理整頓、あるいは日頃からの整理整頓が大事になります。
これは何も「商品」の整理整頓に限ったことではなく、経理パーソン等の「業務」にも当てはまります。日々、いろいろな業務を行う中で、業務の整理整頓ができていないとどうなるでしょうか。やるべき業務を忘れてしまったり、業務が細切れになって効率が悪くなったりといったことも生じ得ます。管理者が、行き当たりばったりで手の空いているスタッフに業務を割り振った結果、混乱が生じて業務の手戻りが生じてしまうこともあり得るでしょう。そこで業務の整理整頓をし、できるだけ同じ業務を同じ担当者が行うようにすれば、効率的でミスも少なくなるはずです。
これらのことから分かる経理の心得とは、「業務を細切れにせず、同じ業務はできるだけまとめる」ということになります。

経理の心得6 業務を標準化して効率を上げる
【シーン】には、カウント担当のBさんが商品Yの在庫数をカウントしているときの様子が描かれています。しかし、段ボール箱の中にある商品Yの個数は、20個だったり10個だったりとバラバラです。また、積み上げられた段ボール箱も1段当たりの箱数はバラバラの状態です。このような状態で実地棚卸を行った結果、非常にカウントの効率が悪くなっているとともにカウント誤りも生じやすくなっています。
こうならないためには、1箱に入れる商品の個数をそろえるとか、入っている個数が同じ箱ごとに整理する(20個入りの箱同士はまとめる)などといった整理整頓が必要です。
これは何も「商品」の整理整頓に限ったことではなく、経理パーソン等の「業務」にも通じるところがあります。箱ごとに入っている商品の個数がバラバラな状態というのは、行き当たりばったりで箱に適当に商品を入れて整理しているつもりになっているようなものです。これを「業務」に当てはめて考えると、業務(作業)の標準化が図られておらず、その都度やり方が変わって混乱が生じている状態と重なります。
これらのことから分かる経理の心得とは、「業務を標準化して効率を上げる」ということになります。

経理の心得7 やるべきこと、やる必要のないことをしっかり区分する
【シーン】には、カウント担当のCさんが商品Zの在庫数をカウントしているときの様子が描かれています。商品Zの在庫が積み上げられた山が2つあり、Cさんはこれらすべてを商品Zの自社在庫としてカウントしました。しかし、このうちの一山は得意先の保管スペースの問題で一時的にM社の倉庫に保管しているもので、M社の在庫ではなく得意先の在庫でした。
自社の在庫(自社の在庫としてカウントすべきもの)と、預かり在庫(自社の在庫としてカウントしてはならないもの)とが、明確に区分されないまま一緒に保管されていたことから、それに気付かず、預かり品も自社在庫に含めてカウントしてしまったのです。
こうならないためには、自社在庫として「カウントすべきもの」と「カウントしてはならないもの」とを明確に区分しておかなければならなかったのです。
これはやるべきこととやらなくていいことが不明確なまま放置されている状態と言ってもいいでしょう。これは何も「商品」の整理整頓に限ったことではなく、経理パーソン等の「業務」にも当てはまります。日々、いろいろな業務を行う中で、業務の整理整頓ができていないと、やる必要のない業務までなんとなくやってしまうといった事態につながりかねず、ムダが生じてしまいます。
このことから分かる経理の心得とは、「やるべきこと、やる必要のないことをしっかり区分する」ということになります。

3.おわりに ~業務の整理整頓を心掛けよう

今回は、在庫の整理整頓ができていないことから生じる実地棚卸での3つの失敗例から、経理の心得として以下の3つを導き出しました。

  • 業務を細切れにせず、同じ業務はできるだけまとめる(経理の心得5)
  • 業務を標準化して効率を上げる(経理の心得6)
  • やるべきこと、やる必要のないことをしっかり区分する(経理の心得7)
これらはすべて、業務の整理整頓であると言え、経理パーソンが何らかの業務を行うときに、これらのことに留意すれば、ミスを生じにくくしたり、効率をアップしたりすることができます。
また、これらの心得は、業務を行う個人個人が留意するというだけでなく、管理者が部下の業務のやり方を指示したり、業務の割り振りを行ったりする際にも当てはまります。是非、経理パーソンの方々には、業務の整理整頓を心掛けて頂き、業務の正確性・効率性アップにつなげて頂ければ幸いです。

(提供:税経システム研究所)
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いかがでしたでしょうか。「実地棚卸」を題材に、さらにそこから学べる3つの経理の心得についてお話しいたしました。
次回は、第51回 実地棚卸から学ぶ、経理の心得(4)で、続きを説明をさせていただきます。お楽しみに!
なお、このコラムの提供元である税経システム研究所については下記をご参照ください。

税経システム研究所
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