まずは、特定株式投資信託の定義や仕訳で使う勘定科目について解説します。
特定株式投資信託の定義
投資信託とは、投資家から集めた資金を運用の専門家が株式や債券などに投資・運用し、その運用成果を投資家に還元する金融商品です。
その中で特定株式投資信託とは、株式のみを投資対象とする証券投資信託のうち、受益権が金融商品取引所に上場しており、特定の株価指数に連動することを目的に運用されるものを指します。
法令上の3つの要件をまとめると以下の通りです。
- 信託財産が株式のみで構成されていること
- 受益権が金融商品取引所に上場していること
- 特定の株価指数に連動することを目的として運用されていること
特定株式投資信託の一般的な特徴は以下の通りです。
投資対象 |
指数に採用された多数銘柄の株式(分散) |
リスク |
市場リスクに連動(個別企業集中リスクは小さめ) |
目的 |
指数連動の低コスト運用 |
運用スタイル |
パッシブ運用 |
特定株式投資信託とETFの違い
よく似た商品にETF(上場投資信託)がありますが、両者は混同されやすいものの、厳密には要件が異なります。
ETFとは「取引所に上場し指標連動を目指す投資信託」の総称で、株式だけでなく債券・商品(コモディティ)など幅広い資産に連動する商品を含みます。
一方、特定株式投資信託はその中でも「株式のみ」、「上場」、「指数連動」という先述した3つの要件を満たすものを指します。
つまり、株式ETFの多くは特定株式投資信託に該当しますが、要件を満たさない債券ETF・商品ETF・アクティブETFは対象外となります。
特定株式投資信託で使う勘定科目
特定株式投資信託の取得時に使う勘定科目は、運用目的(短期か長期か)によって異なります。
主な勘定科目は、以下の通りです。
取引内容 |
勘定科目 |
取得時(短期売買目的) |
有価証券 |
取得時(長期保有目的) |
投資有価証券 |
期末評価時(短期売買目的) |
有価証券評価益または有価証券評価損 |
期末評価時(長期保有目的) |
その他有価証券評価差額金 |
分配金の受取時 |
受取配当金(普通分配の場合) |
投資有価証券の減額(特別分配の場合) |
売却時 |
有価証券売却益または有価証券売却損 |
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特定株式投資信託の仕訳例を、取引区分別に、具体例とともに解説します。
取得時(短期売買目的)
短期売買目的で特定株式投資信託を50万円分取得した場合は、以下のように仕訳します。
借方 |
金額 |
貸方 |
金額 |
有価証券 |
500,000 |
普通預金 |
500,000 |
仕訳の適用欄には、投資信託の名称、ファンド名、購入口数などを記載します。
後で確認しやすいよう、「短期売買目的」と購入目的も明記しておくと便利です。
期末には、その時点の時価評価を行い、「有価証券評価益」または「有価証券評価損」で差額を処理します。
例えば、期末時点の評価額が55万円(取得時より5万円増加)だった場合の仕訳は次の通りです。
借方 |
金額 |
貸方 |
金額 |
有価証券 |
50,000 |
有価証券評価益 |
50,000 |
取得時(長期保有目的)
長期保有目的で特定株式投資信託を50万円分取得した場合は、次のように仕訳します。
借方 |
金額 |
貸方 |
金額 |
投資有価証券 |
500,000 |
普通預金 |
500,000 |
申込手数料などの取得関連費用は、取得額に加えて資産計上するのが一般的です。
短期売買目的のときと同様に、適用欄には、投資信託の名称・ファンド名・購入口数などを記載します。
後で目的がわかるように、「長期保有目的」などの用途も明記しておくと便利です。
長期保有目的の特定株式投資信託も、期末時点で正しい財政状態を把握するために時価評価を行い、「その他有価証券評価差額金」で評価差額を処理します。
例えば、期末の評価額が55万円(取得時より5万円増加)の場合は、以下のように仕訳します。
借方 |
金額 |
貸方 |
金額 |
投資有価証券 |
50,000 |
その他有価証券評価差額金 |
50,000 |
分配金の受取時
分配金とは、投資信託が保有する株式や債券などから得た利益の一部を、投資家に分配して支払うお金のことです。
分配金には普通分配金と特別分配金の2種類があります。
普通分配金は運用益に基づき課税対象となる一方で、特別分配金は投資信託の元本を取り崩して支払われるものであり、利益とならないため、課税の対象とはなりません。
そのため、普通分配金と特別分配金は明確に区分して処理する必要があります。
普通分配金
投資信託の運用で得た利益から支払われる課税対象の分配金です。
普通分配金1万円を受領し、源泉徴収(所得税・復興特別所得税:15.315%)が差し引かれて入金された場合の仕訳は、以下の通りです。
※法人は住民税の源泉徴収はありません。
借方 |
金額 |
貸方 |
金額 |
普通預金 |
8,469 |
受取配当金 |
10,000 |
仮払法人税等 |
1,531 |
|
|
特別分配金
特別分配金は元本を取り崩して支払われるため、投資有価証券の帳簿価額を減額します。
利益ではないため、課税されません。
特別分配金1万円を受領した場合の仕訳は、以下の通りです。
借方 |
金額 |
貸方 |
金額 |
普通預金 |
10,000 |
投資有価証券 |
10,000 |
混合配当の場合
混合配当とは、実務上、普通分配金と特別分配金が混在するケースを指します。
投資信託の分配金は常に全額が特別分配金に該当するとは限りません。
分配金は、ファンドの基準価額と投資家ごとの個別元本との関係で、以下のように区分されます。
基準価額 ≥ 個別元本 |
普通分配金(利益、課税対象) |
基準価額 < 個別元本 |
差額部分が特別分配金(元本払戻し、非課税) |
例えば合計1万円の分配金のうち、普通分配金6,000円・特別分配金4,000円のケースでは、以下のように仕訳します。
源泉徴収
普通分配金6,000円 × 15.315% = 約918円
手取り
普通分配金6,000円 − 源泉徴収918円 = 5,082円
特別分配金
4,000円(そのまま入金)
入金額合計
5,082円 + 4,000円 = 9,082円
借方 |
金額 |
貸方 |
金額 |
普通預金 |
9,082 |
受取配当金 |
6,000 |
仮払法人税等 |
918 |
投資有価証券 |
4,000 |
このように、分配金の内訳によって課税・非課税の取り扱いが変わるため注意が必要です。
売却時
特定株式投資信託を売却する際は、売却価額と帳簿価額の差額を有価証券売却益または有価証券売却損で処理します。
例えば、短期売買目的で保有する帳簿価額10万円の特定株式投資信託を、12万円で売却した場合の仕訳は、以下の通りです。
借方 |
金額 |
貸方 |
金額 |
普通預金 |
120,000 |
有価証券 |
100,000 |
|
|
有価証券売却益 |
20,000 |
一方、帳簿価額10万円の特定株式投資信託を9万円で売却した場合の仕訳は、以下の通りです。
借方 |
金額 |
貸方 |
金額 |
普通預金 |
90,000 |
有価証券 |
100,000 |
有価証券売却損 |
10,000 |
|
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特定株式投資信託に関する税制のポイントを解説します。
受取配当金の益金不算入(20%)
受取配当金の益金不算入とは、法人が受け取った配当金の一部または全部を、課税所得(益金)に含めないとする制度です。
特定株式投資信託の収益分配金の場合、原則として分配額の20%を益金不算入とできます。
ただし、外国株価指数に連動する特定株式投資信託は対象外であるほか、法人の株式保有形態や持株割合によっては取り扱いが異なるケースもあるので注意しましょう。
この制度は、法人が同じ収益について二重に課税されることを防ぐとともに、間接的に株式を保有する場合でも公平な課税を図る目的で設けられています。
そのため、特定株式投資信託の収益分配金については、法人税法に基づき一定割合が益金に算入されないので、税務上のメリットがあるといえます。
所得税額控除
特定株式投資信託の分配金は、受け取る際に所得税が源泉徴収されます。
この源泉徴収税は、法人税の前払いとして扱われるため、決算時に法人税額から控除することが可能です。
その結果、法人税の実質負担が軽減され、二重課税の防止にもつながります。
※本記事の内容は掲載日時点での情報です。
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