HOME 経理/財務税務(税金・節税) 【令和6年度税制改正対応】外形標準課税の抜け道ふさがる?“資本1億円以下”も対象になる新基準とは
経理/財務税務(税金・節税) 2025/08/26

【令和6年度税制改正対応】外形標準課税の抜け道ふさがる?“資本1億円以下”も対象になる新基準とは

この記事をシェアする

令和6年度税制改正により、外形標準課税の対象法人が大きく変わりました。
資本金が1億円以下でも、資本金と資本剰余金の合計が10億円を超える企業や、大法人の100%子会社は、新たに外形標準課税の対象となる可能性があります。
今回の記事では、外形標準課税に関する税制改正について、企業担当者が押さえるべきポイントを解説します!

外形標準課税とは

外形標準課税とは、法人事業税の課税方式の一つで、赤字・黒字にかかわらず、企業の事業規模に応じて一定の税負担を求める制度です。
通常、法人税や法人事業税は所得(利益)に応じて課税されますが、赤字の企業でも一定の経済活動を行っていれば、公共インフラや行政サービスなどの社会的コストを発生させていると考えられます。
そこで、所得ではなく事業規模を基準とした課税方式として、外形標準課税が導入されました。
外形標準課税は、法人事業税の所得を基準とした所得割と、法人の外形的な要因を基準とした付加価値割・資本割で構成されています。


所得割
所得割 = 事業税の課税標準 × 所得割の税率

法人税などと同様に企業の所得金額を基準に課税されます。


付加価値割
付加価値割 =(収益配分額 + 単年度損益)× 付加価値割の税率
※収益配分額は、その年度に欠損金が生じた場合、収益配分額から控除します。

付加価値割は、支払う報酬給与など、企業の付加価値を基準に課税する制度です。
収益配分額は以下の3つの要素で構成されます。

  • 報酬給与額:役員報酬・給与・企業年金等の掛金
  • 純支払利子:支払利子-時価受取利子
  • 純支払賃借料:支払賃借料-時価受取賃借料

資本割
資本割 =(事業年度末の資本金等の額±無償増減資の加算額)× 資本割の税率

資本割は、各事業年度終了日における税法上の資本金等の額に対して税率を乗じて算出します。
ただし、無償減資などを行った場合は、その影響をなくすような形での調整が行われます。


税率
外形標準課税に係る課税標準と税率は自治体ごとに異なりますが、東京都では以下のようになります。
なお、東京都で外形標準課税の申告をする法人の事業税は、超過税率(自治体ごとで定めた標準税率より高い税率)となるので注意が必要です。

区分 所得等の区分 標準税率 超過税率
所得割 年400万円以下の所得 1.00% 1.18%
年400万円を超え年800万円以下の所得 1.00% 1.18%
年800万円を超える所得(軽減税率不適用法人) 1.00% 1.18%
付加価値割 1.26%
資本割 0.525%
※参考資料:東京都主税局「東京都における外形標準課税の超過税率


外形標準課税の対象法人
外形標準課税の対象法人は、原則として各事業年度終了日における資本金の額または出資金の額が1億円を超える法人です。
ただし、公益法人等、人格のない社団等、特定目的会社などの法人は、外形標準課税の対象から除外されています。


旧制度の課題と改正の必要性
外形標準課税の対象法人数は、近年減少していることが問題視されてきました。
その背景には、「項目振替型減資」と呼ばれる会計上の操作があります。
項目振替型減資は、会計上だけ資本金を資本剰余金に振り替える減資のことです。
例えば、資本金5億円の企業が資本金を1億円に減資し、差額の4億円を資本剰余金に振り替えると、会計上のみの操作で企業の実質的な規模は変わらないにもかかわらず、外形標準課税の対象外とすることができてしまいます。
同様に問題とされたのが、組織再編での意図的な資本金調整です。
企業グループが子会社を設立したり、M&Aで他社を子会社化したりする際、子会社の資本金を1億円以下に設定することで、外形標準課税の適用を回避する事例は少なくありません。
会計業務を効率化!
かんたんクラウド会計

電子帳簿保存法・電子取引に対応!スタートアップの方、中小企業・小規模事業者の方に最適!クラウドだからこそ実現するプロから選ばれる会計・給与ソフトをだれでも簡単に!

詳しく見る

令和6年度(2024年度)税制改正のポイントと影響

形式的な資本金の調整によって外形標準課税の適用を回避する企業が増加しているという課題を受け、令和6年度税制改正では抜本的な見直しが行われました。


減資への対応(2025年4月~)
令和6年度税制改正の1つめの大きな柱は、減資に対応した改正です。
この改正により、これまでの外形標準課税の適用対象である「事業年度終了日時点で資本金1億円超の法人」に加えて、2025年4月からは以下の要件をすべて満たす法人も外形標準課税の対象となりました。

  • 前事業年度に外形標準課税の対象であった法人
  • 事業年度の終了日時点の資本金の額または出資金の額が1億円以下
  • 事業年度の終了日時点の払込資本の額(資本金と資本剰余金の合計額)が10億円超
具体例として、資本金5億円・資本剰余金55億円で外形標準課税の対象だった企業が、資本金を8,000万円に減資したとします。
この場合、従来は外形標準課税の適用対象外となりましたが、資本金+資本剰余金の合計は50億円と変わりませんので、改正後は引き続き外形標準課税の対象となります。

駆け込み減資への対応(経過措置)
改正案が提示されてから施行まで1年以上の期間があったため、その期間での駆け込み減資への対応として経過措置が設けられています。
2025年4月1日以後最初に開始する事業年度については、以下の要件をすべて満たす法人が外形標準課税の対象となります。

  • 公布日(2024年3月30日)を含む事業年度の前事業年度から、2025年4月1日以後最初に開始する事業年度(最初事業年度)の前事業年度までのいずれかの事業年度が外形標準課税の対象法人
  • 最初事業年度末日において、資本金が1億円以下
  • 最初事業年度末において払込資本の額(資本金と資本剰余金の合計額)が10億円超

100%子法人等への対応(2026年4月~)
令和6年度税制改正のもう1つの重要な柱が100%子法人等への対応です。
この改正により、以下の要件をすべて満たす法人が外形標準課税の対象となります。

  • 所得等課税法人以外の法人で、事業年度末日の資本金が1億円以下
  • 特定法人との間に当該特定法人による法人税法に規定する完全支配関係がある法人または100%グループ内の複数の特定法人に発行済株式等の全部を保有されている法人
  • 事業年度末日に、払込資本の額(資本金+資本剰余金)が2億円超
特定法人とは、払込資本の額(資本金+資本剰余金)が50億円を超える法人および保険業法に規定する相互会社をいいます。
また、払込資本の額については、公布日(2024年3月30日)以後に資本剰余金配当などで減少した払込資本の額を加算することとされており、改正の適用を回避する目的で意図的に資本剰余金を減少させることを防ぐ措置が行われています。
上記の改正は2026年4月1日以後に開始する事業年度から適用されます。

激変緩和措置
この改正で新たに外形標準課税の対象となったことにより、従来の課税方式で計算した税額を超えることとなる場合は、以下の通り税負担が軽減されます。
令和8年4月1日から令和9年3月31日までの間に開始する事業年度 法人事業税額から、令和8年度分基準法人事業税額が比較法人事業税額を超える部分の3分の2を軽減
令和9年4月1日から令和10年3月31日までの間に開始する事業年度 法人事業税額から、令和9年度分基準法人事業税額が比較法人事業税額を超える部分の3分の1を軽減
なお、一定の要件を満たすM&Aについては買収から5年間は外形標準課税の対象外とする特例も設けられています。


中間申告義務の判定の見直し
外形標準課税の適用対象法人の見直しに併せて、中間申告義務を有するかどうかを判定するタイミングについても重要な改正が行われました。
改正前 中間申告義務を有することとされる外形標準課税の適用対象法人であるかどうかの判定は、当該事業年度開始の日以後6か月を経過した日の前日の現況による
改正後
(2025年4月1日以後開始事業年度~)
中間申告義務を有することとされる外形標準課税の適用対象法人であるかどうかの判定は、当該事業年度の前事業年度の事業税について外形標準課税の適用対象法人であるかどうかによる
今後は、前事業年度に外形標準課税の適用対象であった場合は、たとえ翌事業年度に対象外となっても中間申告の義務があることになるので注意が必要です。
会計業務を効率化!
かんたんクラウド会計

電子帳簿保存法・電子取引に対応!スタートアップの方、中小企業・小規模事業者の方に最適!クラウドだからこそ実現するプロから選ばれる会計・給与ソフトをだれでも簡単に!

詳しく見る

外形標準課税の会計・税務処理の留意点

外形標準課税の会計処理では、所得割については通常の事業税と同様に「法人税、住民税及び事業税」として処理しますが、付加価値割と資本割については会計上「租税公課」で処理します。
特に初年度は、勘定科目を誤らないように注意しましょう。
また、法人税や法人住民税などの税金については原則として税務上損金算入されませんが、事業税については損金算入が可能です。
外形標準課税も損金算入が認められているため、支払額については、全額を支払った年度の損金に算入することができます。


申告・納付と特別法人事業税
外形標準課税による事業税は、申告納付の方法により、各事業年度終了の日から2カ月以内に申告・納付を行います。
新たに外形標準課税の対象となる法人については、従来の所得割のみの申告から、付加価値割・資本割・所得割を含む第6号様式の作成が必要で、特に以下の明細書については新たに作成する必要がありますので注意しましょう。

  • 別表5の2:付加価値額および資本金等の額の計算書
  • 別表5の3:報酬給与額に関する明細書
  • 別表5の4:純支払利子に関する明細書
  • 別表5の5:純支払賃借料に関する明細書

資本政策・組織再編における今後の対応方針
今回の税制改正は、今後の企業の資本政策や組織再編のスキームに大きな影響を与えることになります。
企業担当者として、以下を押さえておきましょう。

減資の戦略について
項目振替型減資による外形標準課税回避の効果は大幅に制限されたため、減資の戦略は根本的な見直しが必要です。
もちろん、事業再構築や財務健全化などが目的の減資については従来どおり実施すべきですが、単純な税負担軽減を目的とした減資は効果が期待できません。
今回の改正により、一度外形標準課税の対象となった法人は、減資を行っても資本金と資本剰余金の合計額が10億円を超える限り外形標準課税の適用を受けることになるため、安易に減資による節税を行うことができなくなった点を理解しておきましょう。

子会社の資本構成について
企業グループにおいては、各子会社の資本構成を見直す必要があります。
100%子法人等への対応により、特定法人の100%子会社は実質的な事業規模に応じた税負担が求められるようになりました。
各子会社の払込資本が2億円を超える場合は外形標準課税の適用を受ける可能性がでてきます。
今後も、外形標準課税制度の適用対象がさらに拡大する可能性を念頭に置き、自社グループの事業実態にあった対応を講じていく姿勢が重要になるでしょう。

※本記事の内容は掲載日時点での情報です。
会計業務を効率化!
かんたんクラウド会計

電子帳簿保存法・電子取引に対応!スタートアップの方、中小企業・小規模事業者の方に最適!クラウドだからこそ実現するプロから選ばれる会計・給与ソフトをだれでも簡単に!

詳しく見る
**********

外形標準課税に関する令和6年度税制改正は、従来の資本金基準による課税回避策に対する見直しで、多くの企業の税務戦略に影響を与えるものです。
改正内容は複雑で影響範囲も広いため、税理士や公認会計士などの外部専門家との連携強化し、早めの体制整備を進めることが企業にとって極めて重要となるでしょう。

人気記事ランキング - Popular Posts -
記事カテゴリー一覧 - Categories -
関連サイト - Related Sites -

経理ドリブンの無料メルマガに登録