2024年10月から段階的に施行が開始されている雇用保険法等の改正により、企業の人事労務部門が重大な影響を受けています。
今回の記事では、改正内容の詳細から企業の対応策までを解説します。
雇用保険法等の改正の概要
2024年5月、雇用保険法等の一部を改正する法律(令和6年法律第26号)が施行されました。
この改正の背景には、働き方に対する価値観やライフスタイルが多様化し、女性や高齢者など様々な人材の労働参加が増えたことが挙げられます。
国はこうした多様な働き方を支える雇用のセーフティネットの構築を目指しており、従来の終身雇用を前提とした制度から、労働者の持つ能力を十分に発揮できる制度への大転換を図っています。
また、日本全体の労働市場を活性化させ、人材を生産性の高い企業に集約することで労働生産性を向上させることも目的の一つです。
労働者が成長産業やIT分野など将来性の高い業界に移動しやすい環境をつくることで日本の国際競争力を上げることを目指しています。
※参考資料:厚生労働省「令和6年雇用保険制度の改正内容について(雇用保険法等の一部を改正する法律)」
施行スケジュールと主な改正点
今回の雇用保険法改正は、2024年から2028年にかけて段階的に施行されます。
2024年10月1日施行 |
教育訓練給付金(専門実践教育訓練給付金、特定一般教育訓練給付金)の最大給付率改正など |
2025年4月1日施行 |
自己都合退職者への支援強化 |
2025年10月1日施行予定 |
教育訓練休暇給付金の創設 |
2028年10月1日施行予定 |
適用範囲拡大(週所定労働時間要件の変更) |
それぞれの改正内容に対して、企業は長期的な視点で管理体制の整備を計画的に進める必要があります。
組織の人的資源を最大限に活用!
給与・人事システム
複雑な支給形態を網羅!勤怠管理などのシステムとも連携することで、給与・賞与計算を自動化できます。また、従業員のあらゆる情報を適切に管理することで、組織の人的資源を最大限に活用することができます。
押さえておきたい改正内容
ここからは、企業担当者が押さえておくべき改正内容について具体的に解説します。
教育訓練給付金の拡充【2024年10月1日施行】
教育訓練給付制度とは、厚生労働大臣が指定する教育訓練を受講・修了した際に、受講費用の一部が雇用保険から教育訓練給付金として支給される制度です。
医療、社会福祉、デジタル技術、専門職大学院、運転免許、専門資格など様々な分野における、約16,000の講座が対象となっています。
今回の改正の内容は以下の通りです。
|
【改正前】給付率 |
【改正後】給付率 |
最大給付率 |
内訳 |
最大給付率 |
内訳 |
専門実践教育訓練給付金 |
70%
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- 教育訓練経費50%
- 資格取得・就職した際は追加で20%
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80%
|
- 教育訓練経費50%
- 資格取得・就職した際は追加で20%
- 訓練修了後の賃金が受講開始前と比較して5%以上上昇した場合は追加で10%
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特定一般教育訓練給付金 |
40%
|
|
50%
|
- 教育訓練経費40%
- 資格取得・就職した際は追加で10%
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※参考資料:「教育訓練制度 厚生労働大臣指定教育訓練講座」
自己都合退職者への給付制限期間短縮【2025年4月1日施行】
雇用保険の被保険者は正当な理由なく自己都合で退職した場合、基本手当の受給資格決定日から7日間の待期期間後、一定期間は基本手当が受け取れません。
これを給付制限といいます。
この給付制限期間の原則が2カ月から1カ月に短縮されました。
さらに離職期間中もしくは離職日前1年以内に教育訓練講座を受けた場合は給付制限が完全に解除され、自己都合の退職であっても7日間の待期期間後すぐに失業給付を受給できるようになっています。
この改正により、労働者にとっては転職のハードルが大きく下がります。
一方で企業にとっては人材流出リスクが高まる可能性もあるため、対策が必要となることが考えられます。
教育訓練休暇給付金の創設【2025年10月1日施行予定】
教育訓練休暇給付金とは、在職中の従業員がリスキリングのために無給休暇の取得(休職)をした場合に、被保険者期間に応じて支給される給付金です。
被保険者期間 |
給付日数 |
給付額 |
5年以上10年未満 |
90日 |
基本手当日額と同額 |
10年以上20年未満 |
120日 |
基本手当日額と同額 |
20年以上 |
150日 |
基本手当日額と同額 |
この制度を取り入れることで、企業は従業員のスキルアップと人材定着を図り、競争力向上につなげることができます。
適用範囲拡大(週所定労働時間要件の変更)【2028年10月1日施行予定】
2028年10月から、雇用保険の加入対象要件における週所定労働時間が従来の20時間から10時間に変更されます。
新たに雇用保険の被保険者となる人数は推定約500万人とされており、企業は保険料負担と事務処理負担の増加に見舞われることが危惧されています。
2028年までの3年間の準備期間を有効活用し、システム改修、事務処理体制の整備、予算確保などを計画的に進める必要があるでしょう。
これらの改正のほか、2025年4月からは育児休業給付関連の改正も行われています。
※関連記事:育休延長の審査が厳格化?2025年4月に変わる申請ルールと新たな給付金を総まとめ!
組織の人的資源を最大限に活用!
給与・人事システム
複雑な支給形態を網羅!勤怠管理などのシステムとも連携することで、給与・賞与計算を自動化できます。また、従業員のあらゆる情報を適切に管理することで、組織の人的資源を最大限に活用することができます。
雇用保険法等の改正に伴う企業が行うべき対策
2025年4月からの制度変更に向けて、企業が今すぐ着手すべき対策を、大きく2つに分けて解説します。
制度の変更内容に備える
給付制限期間短縮による転職活性化への対応策
従業員の転職対策として、従業員の職場満足度を把握することは重要なポイントです。
アンケートなどで定期的に満足度調査を行い、実情を確認しておきましょう。
また、転職動機の主な要因は給与や福利厚生にあることが多いため、自社の状況が業界水準と比較してどのような位置にあるのかを把握しておくことも大切です。
賃上げ税制などを活用すれば賃上げに係るコスト負担を低減させることもできるため、対策として押さえておきましょう。
なお、転職活性化は、人材流出のリスクである一方で優秀な人材を獲得する機会でもあります。
他社から転職を希望する有能な人材を積極的に獲得し、組織全体のレベルアップを図ることなども検討してみましょう。
適用範囲拡大への準備
まずは2028年10月以降、新たに雇用保険の被保険者となる従業員の実態調査を行うことが重要です。
現在の雇用人数、賃金水準などを把握したうえで、適用範囲拡大後の保険料負担増加額を試算してみてください。
状況によっては、給与計算・労務管理システムの改修も行う必要があるため、早めに確認しておきましょう。
制度を正しく理解する
制度の正確な理解
今回の改正は段階的に施行が始まっているため、どの制度がいつから開始されるのかを正確に把握しておく必要があります。
例えば、給付制限期間の短縮は2025年4月から、適用範囲拡大は2028年10月からと、準備すべき内容と時期が大きく異なります。
他の社会保険制度との適用基準の違いも混乱の原因となりがちなので注意しましょう。
従業員への制度説明
従業員には、制度変更の内容だけでなく、変更の背景やメリットを伝えることで、その後の対応の協力を得やすくなります。
特に教育訓練制度の拡充については、従業員のキャリア形成支援として積極的な活用を提案することで、人材定着にもつながるでしょう。
専門家との連携
状況によって社会保険労務士などの専門家と連携することも重要です。
制度への理解を深め、実務対応やシステム改修へのアドバイスを受けることで、トラブルを未然に防ぎスムーズに対応することができるでしょう。
※本記事の内容は掲載日時点での情報です。
組織の人的資源を最大限に活用!
給与・人事システム
複雑な支給形態を網羅!勤怠管理などのシステムとも連携することで、給与・賞与計算を自動化できます。また、従業員のあらゆる情報を適切に管理することで、組織の人的資源を最大限に活用することができます。
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今回の雇用保険法等の改正は、教育訓練制度の拡充、転職環境の変化、適用範囲の大幅拡大など、日本の雇用制度に大きな変革をもたらす改正といえます。
まだまだ準備が間に合っていない企業も多いかと思いますが、今回の記事を参考に、できるところから対応していきましょう。