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経理/財務公認会計士の仕事術 2025/06/05

第34回 人の生産性アップにつながる原価管理②

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前回から、人の生産性アップにつながる原価管理についてご紹介しています。前回は「実績時間の把握」に絞って話を進めてきましたが、今回は「実績時間の分析」について話を進めていこうと思います。

1.はじめに

新型コロナウイルスの大流行をきっかけに、これまで毎日会社に出勤して働いていた人たちも、テレワークの推進などで働く場所は会社に限られなくなるなど、働き方が大きく変わりました。一方で、会社側からすると従業員の様子がつかみづらくなるといったことも起こり得ます。そうすると、従業員が何らかの壁にぶつかっていても分からないなど人の管理が難しくなり、タイムリーに助言ができずに仕事の進捗が悪くなるなど、生産性ダウンが進んでしまうことも考えられます。
そこで、前回から人の生産性アップにつながる原価管理について考えています。前回は、人の生産性アップにつながる原価管理の仕組み作りの第一歩として、「実績時間の把握」に絞って話を進めました。実績時間については、全社合計や各人の合計をつかむことも必要でしょうが、原価管理のためにはその内訳をつかむことこそが大事です。そこで、実績時間の把握に関わる諸々の問題や、そうした問題への対応としてのタイムシートの仕組み、そして関連する留意点などを説明しました。
2回目となる今回は、実績時間を把握した後のステップである、実績時間の分析に話を進めようと思います。

2.ケースで考える 実績時間の分析

私は以前、監査法人で監査業務をしていましたが、監査法人でも原価管理は行われていました。そこでの経験も踏まえて人の生産性アップにつながる原価管理の仕組みについて前回に続き、考えていこうと思います。

まずは、ある監査法人での出来事を描いた次の【シーン1】をご覧ください。舞台となっているX監査法人は前回と同じですので、その業務の概要や抱えている問題については、前回の【シーン1】及び【シーン2】をご参照ください。

【シーン1】

X監査法人ではどこかに生産性の悪い部分があるようで、業務時間合計が増えて採算が悪化してしまっています。何とか手を打たなければならない状況で、原価管理の第一歩を踏み出すことになったX監査法人。各人がタイムシートを作成することにした結果、誰がどの監査先でどのくらい時間を使っているのかが分かるようになりました。そこで、X監査法人では、業務実績時間合計の多い人をピックアップして、業務時間を削減させようとしたのですが、残念ながら業務時間の削減につながってはこなかったのです。何故でしょうか?

(1)実績時間が多いのか少ないのかを判断するためのモノサシ
【シーン1】で描いたのは、業務実績時間が多いのか少ないのかを判断をするための適切なモノサシを持たないまま、実績時間が多いことを問題視し、実績時間合計の多い人をピックアップして、業務時間を削減させようとしている様子です。
単に実績時間が多いと言っても、その人の業務の効率が悪いために時間がかかり過ぎているとは限りません。その人にたくさんの業務が集中しているのかもしれませんし、難易度の高い業務を行っているのかもしれません。こうしたことは実績時間だけを見ていても分からず、実績時間が多いのか少ないのかを判断できないのです。そのため、実績時間が多いのか少ないのかを判断するためには、実績時間を何か判断の基準となるモノサシと比較する必要があります。
それでは、どんなモノサシを使えば良いのでしょうか。
一つ考えられるモノサシとして、前期(前年同期)の実績値があります。ただ当期の実績値を見るのではなく、前期の実績値と比較することで、当期の実績値が大きく増えてしまったところに問題がありそうだと見当を付けます。その上で、当該部分を詳しく分析していくことで、問題の箇所に到達しやすくなります。ある程度定型的な業務であれば、前期の実績値というモノサシは大いに役立つことでしょう。
一方、定型的とは言えない業務の場合には前期実績との比較はあまり有効とは言えません。また、定型的な業務ではあっても前期と状況が変化することを鑑みれば、定型的な業務についても前期実績との比較では十分ではないとも言えます。
そんなときに使って頂きたいのが計画値というモノサシです。計画値を立てるという面倒はありますが、定型的な業務において前期と状況の変化が見込まれる場合には、それを織り込むことができます。また、非定型的な業務においては、特別な要素などを計画値に織り込むこともできます。
ちなみに監査業務について言えば、定型的な業務も相当程度ある一方で、監査先企業の状況や社会環境の変化、会計基準等の新設・改訂なども生じるので、前期実績というモノサシよりも、計画値というモノサシが重視されていました。

(2)計画の設定並びに実績との比較
計画の立て方については、今月のレポートの中では簡単な説明にとどめさせて頂きますが、該当する業務の全体としてどれだけの時間を要するかの計画を立てます。その際、どのような単位で計画を立て、実績と比較するかについてですが、部署ごとであったり、プロジェクトごとであったり、人ごとであったりと、いろいろ考えられるので、それぞれの状況に応じて適切な単位で計画を立てることになるでしょう。
また、計画を立てる上では、考慮が必要な要素があります。例えば、業務量や業務の難易度、報酬を得る場合はその契約金額や採算、かけられるマンパワー、過去の実績、状況の変化などが考えられます。
ちなみに監査業務について言えば、上記のような要素を考慮した上で、監査先ごと(=監査チームごと)の単位で、その業務に誰が、いつ、どれだけの時間を使うかをブレイクダウンして計画を立てていました。こうすることで、当該業務についての計画時間が、メンバー別・時期別に内訳(タイムシートの提出時期に対応した時期別)に展開でき、【図表1】のようなかたちで、タイムシートで実績値が出たタイミングでタイムリーに計画値と比較することが可能になっていたのです。

【図表1】監査先ごとの業務実績時間集計(計画付)の例

監査先:T社

メンバー 当月までの累計
(単位:時間)
実績時間 計画時間 差異
Aさん 28 30 △2
Bさん 52 50 2
Cさん 65 45 20
・・・・・ ・・・ ・・・ ・・・
合計 225 200 25


もっとも、こうした計画を立てるというのはハードルが高いということもあるでしょう。その場合は、例えば、まずは1週間とか1カ月といった短い期間でトライアルとして、自分はどういう仕事にどれだけ時間を使っているのかを記録してみることから始めてみて、そこに他の重要な要素を加味することで今後の計画値を想定していくこともできると思います。
【図表1】では、実績時間に加えて計画時間との比較がされています。当月までの累計で見ると、合計200時間で実施する計画だったところ、実績は225時間と計画を25時間も超過してしまったということが分かります。
さらにメンバー別の内訳を見ていくと、Cさんが45時間の計画に対して実績が65時間と、計画を20時間超過しており、ここに問題がありそうだということが分かります。

以上の点を考慮した結果、【シーン1】で描いたX監査法人は次のような見直しをすることになりました。


【シーン2】

X監査法人では、業務の生産性が低い箇所を見つけ、採算を改善していくための方法の一つとして、監査業務を始める前に監査先ごとに業務時間の計画を立てることにしました。その際、誰がどの時期にどれだけの時間、その業務に使うかをブレイクダウンした内訳も作成するようにしました。その上で、各人が入力したタイムシートのデータをもとに、毎月15日締めと月末締めで月2回、監査先ごとに業務時間に関する情報をまとめ、計画値と実績値との比較形式の表が作成されるような仕組みにしました。監査先ごとの業務時間は、チームメンバーごとの内訳も表示しており、計画値と実績値の差異がどれ位あるか、どのメンバーの業務時間で差異が生じているかが、タイムリーに分かるようになったのです。

(注)その後の展開については次回以降に取り上げる予定です。



3.実績時間の分析ができるようにしよう

人の生産性アップにつながる原価管理の仕組み作りのうち、第一歩となる「実績時間の把握」について前回説明したのに続いて、今回は「実績時間の分析」に話を進めました。
その中では、実績時間の分析においては、実績時間が多いのか少ないのかを判断するためのモノサシが必要になること、そのモノサシとして考えられるのが計画値であることなどを、ケースを交えて説明しました。また、計画値を立てるというハードルが高い場合の代替的な方法にもふれました。
今後、原価管理の仕組み作りを検討する上での参考にしていただければ幸いです。なお、タイムシートを使って一人一人の業務別の業務実績時間をつかんだ上で、それをどのように活用するのかなど、次回以降も引き続き説明していく予定です。

(提供:税経システム研究所)
**********

いかがでしたでしょうか。今回は、人の生産性アップにつながる原価管理「実績時間の分析」について説明しました。
次回は引き続き、第35回 人の生産性アップにつながる原価管理③になります。お楽しみに!
なお、このコラムの提供元である税経システム研究所については下記をご参照ください。

税経システム研究所
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