HOME 経理/財務公認会計士の仕事術 第29回 「プロセス思考」で転んでもただでは起きない(その20)
経理/財務公認会計士の仕事術 2025/04/23

第29回 「プロセス思考」で転んでもただでは起きない(その20)

この記事をシェアする

前回まで、プロセス思考のステップのうち、問題の発生原因を特定していくステップに相当する4つのステップ、さらに、発生した問題を業務改善につなげていくためのステップについて説明してきました。今回は、いよいよ最後の「改善につなげる」ステップへと話を進め、プロセス思考の説明に区切りをつけようと思います。

1.はじめに

仕事をしていく中では、時として問題が発生することもあります。問題なんて起きない方がいいのかもしれませんが、本稿を通じてご紹介している仕事術「プロセス思考」を知っていると、実際に問題が発生したとしても、そのマイナス要因を業務改善のチャンスに変えることもできるのです。

本稿ではここまで、プロセス思考のステップのうち、問題の発生原因を特定していくステップに相当する4つのステップ、さらに、発生した問題を業務改善につなげていくためのステップについて説明してきました。

【1stステップ】ザックリとプロセスをつかむ

【2ndステップ】起こりがちな問題のパターンを押さえておく

【3rdステップ】起こりがちな問題をプロセスと紐づける

【4thステップ】問題が起きやすいプロセスが持つ弱点を押さえておく

【5thステップ】改善ポイントを整理し、改善案を検討する


これを受けて、今回はいよいよ最後の「改善につなげる」ステップへと話を進め、プロセス思考の説明に区切りをつけようと思います。

2.ケースで考える プロセス思考のステップ(6thステップ)

今回はプロセス思考の最後のステップとして、改善につなげることをテーマに取り上げます。監査法人時代に私が行っていた監査業務の中でも、監査先等に対して改善を促す場面がいろいろと出てきました。

(例)

・財務諸表の監査を行った際に、監査先の各部署や支店、子会社などで、決算数値の誤りなど会計上の問題や、購買・販売・在庫管理など内部統制上の問題が見つかり、改善を促す場面

・株式上場を目指す会社について、上場に向けての課題などの調査依頼を受け、会計処理や、販売管理体制・購買管理体制・在庫管理体制・予算管理体制・月次決算制度・決裁制度などを調査し、改善点を報告する場面


問題を見つけて改善を促すわけですから、当然、その問題は改善されるはずだと思われるかもしれません。しかし、実はそううまくは行かない場合があります。
では、なぜ改善が進まないのでしょうか。
私の監査法人時代の経験から考えると、きちんと問題の改善までつなげてもらうためには、いくつかの重要なポイントがあります。
そのポイントについて、簡単なケースを用いながら考えてみることにします。
まずは次の【ケース1】をご覧ください。


【ケース1】

監査先S社で購買業務プロセスにかかる内部統制の検証を担当することになった新人会計士のTさん、検証の過程で仕入計上の誤りにつながる問題を発見しました。上司に相談したところ、何件かの仕入計上ミスをした先方の購買業務担当者に対して今後注意してほしい旨を伝えておくように言われ、そうしました。
翌期になって、再びS社を訪れたTさん、前回同様購買業務プロセスにかかる内部統制の検証を担当することになりました。早速Sさんが検証を始めたところ、その期も前期と同様の仕入計上ミスが何件か見つかったのです。
どうやらS社の購買業務の改善は進んでいないようです。

【ケース1】では、監査先S社に問題点を伝えたものの、その後改善がまったく進んでいない様子を描いています。【ケース1】はごく単純化していますので、実際の監査現場とは異なりますが、このケースでは、問題の改善につなげるために押さえておきたいポイントである「伝え方」や「伝えた後の対応」がうまくできていないために、改善が進んでいないのです。
以下では、それぞれのポイントを整理することにします。


(1)伝え方
まず、「伝え方」についてですが、ここでは大きく「①伝える手段」、「②伝える相手」、「③伝える項目」の3つに分けて見ていきます。
①伝える手段
伝える手段としては、口頭や書面などが考えられます。もちろん書面にするのは手間もかかるので、手っ取り早く口頭で伝えることもあります。しかし、口頭で伝えただけだと、関係者の間で共有されにくい、忘れられてしまいやすい、認識のずれが生じがちなどといった問題がどうしても出てきます。ある程度重要性がある項目については、口頭で伝えるだけではなく、書面なども作成するようにします。
監査結果の報告などで行われていたのは、監査結果報告やマネジメントレターなどと言われる報告書面を用意することでした。もちろん書面を渡すだけでは、意図が伝わりづらいことなどもありますので、口頭で意図や内容の説明も行うようにしていました。また、一方的に伝えるのではなく、それを材料にして意見交換を行うといったことも併せて行っていました。

②伝える相手
誰に伝えるかも大事なポイントです。問題の生じている業務を行っている担当者自身に伝えることはもちろんなのですが、それだけでは改善が進まないこともよくあります。仮に担当者自身に伝えただけだとしましょう。この場合は、自身の業務上の問題なので上司には知らせたくないと考え、そのままにしてしまったり、自分だけで処理してしまったりするかもしれません。そうすると、同様の問題が他の部署であったとしても共有されませんし、他の部署と連携しないといけないような問題の場合には一担当者では手に負えないかもしれません。問題の重要度が高くなればなるほど、改善のためには他部署との連携が必要になる場合も多くなりますので、一担当者に伝えただけで改善が進むとは考えにくくなります。
こうした欠点を補うため、監査業務の中で見つかった問題を監査先に報告する際は、問題の重要度にもよりますが、部門の責任者、担当役員さらには社長など、改善に対してしかるべき責任を持つ方に伝えるようにしていました。

③伝える項目
何を伝えるか、すなわち、伝える項目も大事なポイントです。まずは、現状がどうなっているのか、どこにどんな問題点があるのかが明らかになっていなければなりません。関係者であっても現状認識がしっかりできているとは限りません。現状を明示することで、関係者間の現状認識を合わせることが必要です。
また、この問題を放置してしまうと、どんなリスクが生じるのかといったことも織り込めるとよいでしょう。そうすることで、監査先としても、問題を改善しなければならないという認識につながるからです。また、現状の問題点を伝えるだけでなく、それに対する改善の方向性あるいは改善案を提示できれば、改善に向けての検討が進みやすくなり、改善にもつながりやすくなります。監査先に問題点を伝える際は、「現状の問題点」だけでなく、「改善してほしい事項」・「改善の方向性」、場合によっては「改善案」などもセットにして伝えるなど、工夫をするようにしていました。
これらを踏まえて改めて【ケース1】を見て頂くと、【ケース1】では、購買業務の一担当者に口頭で、今後注意してほしい旨を伝えただけですので、「①伝える手段」、「②伝える相手」、「③伝える項目」のいずれも不十分であったことがお分かり頂けるでしょう。


(2)伝えた後の対応
上記「(1)伝え方」で説明したように、「①伝える手段」、「②伝える相手」、「③伝える項目」を意識して、現状の問題と改善事項を伝えたとしても、それで改善が順調に進んでいくとは限りません。ここでは大きく2つの観点から考えてみることにします。
①担当者・責任者・期限等の設定
現状に問題があることは認識できたとしても、改善につながらないことがあり得ます。
例えば、会議の中で問題が指摘され、参加メンバーも確かにそうだと思ったとしても、実際にはなかなか改善に向けて動き出さないことはないでしょうか。こんな場面でありがちなのは、誰がいつまでにやるのかがはっきりしていないことです。
上述した監査結果報告やマネジメントレターなどの書面についても、指摘した問題を改善してもらおうとしたら、監査先に担当者や責任者を設定してもらうとか、期限を決めるなどといったことが必要になります。
改善に向けて動き出そうとしたら、まずは誰が(担当者・責任者)、いつまでに(期限)といったことを決めることが大事です。

②フォローアップ
担当者・責任者・期限等の設定に加えて大事なのが、改善状況をフォローアップすることです。
例えば、監査のケースで、重要性がそれほど高くないために、当期の決算では見つかった問題を修正しなくても済んだとしましょう。しかし、それを放置してしまったら、来期も同じような問題が起き続け、その重要性が高まるかもしれません。そのため、来期にはこれらの問題点を確実に監査先に改善してほしいということも出てきます。この場合には、今回指摘した問題について、実際に改善されたのか、あるいは改善に向けて対応が進んでいるのかどうかを、適宜フォローする必要があります。問題を指摘した側も、決して問題を指摘したまま放置していてはならないのです。改善につなげるためには、しっかりとその後の状況をフォローアップしていくことが大事です。
もし、「伝え方」や「伝えた後の対応」に関するポイントをしっかり押さえていたら、【ケース1】は一体どんな感じになっていたでしょうか。おそらく次のような感じになっていたのではないでしょうか。


見直し後の【ケース1】

監査先S社で購買業務プロセスにかかる内部統制の検証を担当することになった新人会計士のTさん、検証の過程で仕入計上の誤りにつながる問題を発見しました。上司に相談したところ、今回見つかった仕入計上ミスについて、どこでどんな事象が発生しているのか、その結果どんな影響が懸念されるのかなどを整理した書面を作成し、S社に伝えることになりました。書面には、「改善してほしい事項」・「改善の方向性」なども適宜織り込みました。
その上で、当該書面に基づき、購買部門や他の関係部署の責任者なども交えて意見交換をするミーティングをセッティングしました。
その結果、S社の関係者と問題の共有ができ、今回発生した問題の原因調査などを進めて頂けることになりました。
そこで、S社には、誰がいつまでに何をするのかを決めて頂くことにしました。
その後も適宜、原因調査や改善策の検討状況などをすり合わせる機会を持ちながら、購買業務に関する問題の改善状況をフォローした結果、しっかりと改善が進みました。そして、翌期の監査で再び購買業務プロセスにかかる内部統制の検証を担当することになったTさんも、スムーズに業務を進めることができたのでした。

ここまで、ケースを使って「改善につなげる」ためのポイントを説明しました。これは監査の場面に限らず、さまざまな業務にも共通するはずですので、上述のポイントを踏まえて、読者の皆様の業務に当てはめてみて頂ければと思います。

3.プロセス思考のステップを踏んで、発生した問題を業務改善につなげよう

今回は、プロセス思考の中の最後の6thステップである「改善につなげる」ステップを取り上げました。そこでは、「伝え方」や、「伝えた後の対応」にポイントがあり、「伝え方」に関しては、「①伝える手段」、「②伝える相手」、「③伝える項目」の3つのポイントにスポットを当てました。また、「伝えた後の対応」に関しては、「①担当者・責任者・期限等の設定」と「②フォローアップ」の2つのポイントにスポットを当てました。

問題が発生してしまったときに、そのマイナス要因を業務改善のチャンスに変えていけるよう、これまで20回にわたって「プロセス思考」について説明してきました。これは、私の監査法人時代の経験などを踏まえて、6つのステップに分けて整理したものであり、監査法人で「プロセス思考」という言葉が使われていたわけでも、もともと6つのプロセスに整理されていたわけでもないことはお断りしておきます。

問題が起きてしまった、あるいは問題が起きるかもしれないといったときに、これまで説明しました「プロセス思考」の考え方や手順、関連フォーマットなどを適宜アレンジしながら、是非、そうした皆様の業務で直面するさまざまな問題に対応して頂き、業務改善につなげて頂ければ幸いです。

(提供:税経システム研究所)
**********

いかがでしたでしょうか。今回は、「改善につなげる」ステップへと話を進め、プロセス思考の説明を締めくくらせていただきます。
次回は、第30回 「複眼思考」~複数の視点を持つことで見えてくることになります。お楽しみに!
なお、このコラムの提供元である税経システム研究所については下記をご参照ください。

税経システム研究所
人気記事ランキング - Popular Posts -
記事カテゴリー一覧 - Categories -
関連サイト - Related Sites -

経理ドリブンの無料メルマガに登録