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経理/財務会計処理 2025/04/24

IFRS(国際会計基準)と日本基準、結局なにが違う?理解しておきたいIFRSとIASBの基礎知識

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国際会計基準「IFRS」は、近年、国外を見据えた投資環境の変化やM&Aの増加により、日本でも適用企業が増えています。
今回の記事では、設定機関であるIASBの情報を交えながらIFRSの概要を解説し、さらに日本の会計基準との違いを掘り下げ、最新の改正事項についても触れていきます。

IFRS(国際会計基準)とは

IFRS(国際財務報告基準:International Financial Reporting Standards)は、欧米諸国所在の企業で多く採用されている会計基準の一つです。
IFRSが登場するまでは各国が異なる会計基準を採用していたため、投資家や金融機関にとって、異なる国の企業の業績を比較することが難しいという課題が指摘されていました。
これを解決するために、統一された会計基準としてIFRSが導入されました。
なお、日本での正式名称は「国際財務報告基準」ですが、「国際会計基準」と呼ばれることの方が一般的です。


IFRSの歴史
IFRSは、1973年に設立された国際会計基準委員会によって開発が進められました。
その後、2001年に国際会計基準委員会がIASB(国際会計基準審議会:International Accounting Standards Board)に改組され、IFRSの開発と改訂作業が積極的に進められるようになります。
さらにEU(欧州連合:European Union)がEU域内の上場企業に対してIFRSの適用を義務付け、EU域外の企業にもIFRSまたはIFRSと同様の会計基準の適用を義務付けたことをきっかけに、多くの国でIFRSの導入やIFRSと自国基準の差異の調整(コンバージェンス)が積極的に進められるようになりました。
日本では、2010年からIFRSの任意適用が認められることになりました。
任意適用決定後、日本の会計基準(日本基準)は原則としてこれまでの枠組みや考え方を維持しつつ、会計基準の設定や改定時に、処理を整合できる内容については、国際的な連携を考慮しIFRSを積極的に取り入れる姿勢をとることが表明されています。
その後、日本基準とIFRSとの差異調整が進められた結果、日本でも多くの企業でIFRSの適用が進められ、2025年2月の時点で日本のIFRS適用済企業は279社となっています。


IASBとは
IASBとは、IFRSの基準開発や改訂の検討項目の設定を行う独立した会計基準設定機関です。
本部は英国のロンドンにあり、世界各国の会計基準設定機関や規制当局と連携しながら、国際的な財務報告基準の調整と統一を進めています。

IASBの組織構造
IASBは以下の主要な機関と連携しながら、IFRS財団の監督のもとで活動しています。

IFRS諮問会議
(IFRS Advisory Council)
IASBに対する助言を行う組織で、業界の専門家や投資家の意見を反映する役割を果たす。
IFRS解釈指針委員会
(IFRS Interpretations Committee)
IFRSの適用や解釈に関する情報を提供している委員会。
モニタリング・ボード
(Monitoring Board)
金融庁を含む各国当局の代表者から構成された組織。IFRS財団などから提出される報告書についてフィードバックを提供するなどの活動を行う。
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日本基準とIFRSの違い

日本基準とIFRSでは、財務諸表の構成、重視する利益の考え方、会計処理など様々な点で違いがあります。
日本基準とIFRSの相違点のうち、実務上特に重要な論点は以下の通りです。

項目 日本基準 IFRS(国際会計基準)
基準設定機関 ASBJ(企業会計基準委員会) IASB(国際会計基準審議会)
基本主義 細則主義 原則主義
利益計算の概念 収益費用アプローチ(P/L重視) 資産負債アプローチ(B/S重視)
特別損益項目 あり なし
のれんの処理 20年以内で償却 非償却(減損のみ)
研究開発費 全額発生時費用化 研究費は費用化、開発費は条件付資産化
リース会計 オペレーティング・リース取引はオフバランス 原則としてすべてのリース取引をオンバランス
固定資産の減損 二段階アプローチ、戻入不可 一段階アプローチ、戻入可能

概念や利益計算の考え方
上記の表のうち、概念や利益計算の考え方については以下のような違いがあります。

細則主義と原則主義
日本基準は細則主義を採用しているため、のれんの償却期間を定めるなど、個別の会計処理について数値基準や具体的な処理手順が設定されています。
一方、IFRSは原則主義を採用しているため、会計基準の考え方を示したうえで、実態に即した処理を経営者に委ねています。
そのため、IFRSでは企業が自主的な判断を活かし、柔軟に財務報告を行えるとされています。

利益計算の考え方の違い
日本基準は収益費用アプローチに基づき、1年間の収益から費用を差し引いた当期純利益を導き出す損益計算書を重視しています。
一方、IFRSは資産負債アプローチを採用し、貸借対照表の資産と負債の評価から導かれる包括利益を重視しています。

損益区分
日本基準では、経常的な営業活動から生じる損益と区別して、臨時的・異常な事象から生じる損益を特別利益、特別損失として区分表示します。
一方、IFRSには特別損益の区分がなく、企業が処分または売却を予定している事業部門の損益を非継続事業として他の継続事業と区別して表示することが求められます。
日本基準にはこのような規定はありません。


会計処理の違い
会計処理の違いのうち、主要なものは以下の通りです。

のれん
のれんの会計処理は、日本基準とIFRSの最も大きな違いの一つです。
日本基準では、企業買収などで発生するのれんは20年以内の期間で定額法により規則的に償却することが求められます。
これに対してIFRSでは、のれんは償却せず、代わりに毎年または減損の兆候がある場合に減損テストを行い、必要に応じて減損損失を認識します。
この違いにより、IFRSを採用している企業は、日本基準を採用している企業と比較して理論上は利益が高く報告される傾向があります。
ただし、減損が発生した場合には、一度に多額の損失が計上される可能性があります。

研究開発費
日本基準では、研究開発にかかった費用はすべて発生時に費用として計上することが求められます。
これに対してIFRSでは、研究活動にかかる費用は即時費用化されるものの、開発活動については一定の要件を満たした場合に、無形資産として資産計上することが求められます。
そのため、研究開発費の金額が大きい場合には、その中から一部を切り出し資産化する調整が必要になることもあるため留意が必要です。

有形固定資産
有形固定資産の会計処理にも複数の違いがあります。
まず、取得原価の範囲について、日本基準では含める付随費用の範囲が限定的です。
対してIFRSでは固定資産の調達に直接起因するすべての付随費用を取得原価に含めることとされています。
また、固定資産に減損の兆候がある場合について、日本基準では将来キャッシュフローの割引前総額と帳簿価額を比較し、帳簿価額が上回る際に減損損失を認める二段階で減損を認識します。
一方、IFRSでは、帳簿価額と回収可能価額とを比較し、帳簿価額が上回る際は直ちに減損損失を認識します。
さらにIFRSでは減損の戻入れ(過去に認識した減損損失の取り消し)が認められていますが、日本基準では認められていません。
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直近のIFRS改正の注目点

IFRSは2010年に任意適用が認められた後も、様々な改正を繰り返してきました。
その中から、日本国内で影響のあったものを紹介します。


収益認識基準の適用
2018年にIFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」が公表されました。
この公表を受けて、日本では2021年から、顧客との契約から生じる収益(売上)をどのように認識して財務諸表に計上するかを定めた「収益認識に関する会計基準」が適用されています。
これまでの日本では、収益を、実現したタイミングで認識する実現主義が採用されてきましたが、「収益認識に関する会計基準」では「契約に基づく履行義務の充足に応じて認識する」という原則のもと、5つのステップに基づいて認識することとされました。
この基準はIFRS第15号の内容を概ね踏襲するような内容で規定されましたが、日本企業にとってなじみのない処理が多いことにより、適用にあたって様々な議論を呼びました。
また、日本基準独自の内容もあるため、親会社が日本基準、海外子会社がIFRSを適用しているといった企業では、両者の差異を理解する必要があるなど、実務に大きな影響を与えました。


リース会計基準の改正
IFRS第16号では、リースの会計処理において、借手側は原則すべてのリースを使用権資産とリース負債としてオンバランス化することが公表されました。
この内容を受けて、日本基準のリースの会計処理も改定され、従来はオフバランス処理されていたオペレーティング・リース取引について貸借対照表に計上されることとなりました。
これにより、こうした取引が多い業種では、資産総額と負債総額が大幅に増加する状況となりました。

※関連記事:新リース会計基準が2027年から強制適用!会計処理と税務処理のズレに要注意


営業利益の定義の明確化(予定)
今後予定されているIFRS改正の中で注目されているものの1つが、2027年度から導入予定の「営業利益の定義の明確化」です。
ここでは営業利益を「本業から得られる儲けを主体とする利益」と定義し、企業にその開示を義務付けています。
また、このルールでは損益計算書の売上高から税引前利益までが、営業、投資、財務の3つの段階に分けられることになります。
日本基準適用企業ではこれまでも営業利益を公表してきたため、開示における影響は限定的となるでしょう。
ただし、IFRS移行企業では新たな基準に基づいて財務諸表を作成する必要があるため、新基準に適応するための財務データの整理や、利害関係者に対する説明に向けた準備をしていくことが求められます。

※本記事の内容は掲載日時点での情報です。
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IFRS(国際会計基準)適用企業が増える中、企業担当者はIFRSと日本基準それぞれの「利益計算の考え方」や「会計処理」などの違いを把握しておくことが重要となります。
今後予定されている改正の動向もしっかりチェックしておきましょう。

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