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経理/財務公認会計士の仕事術 2025/03/06

第22回 「プロセス思考」で転んでもただでは起きない(その13)

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前回に引き続き、ここまで説明してきた「プロセス思考」について振り返ってみることにします。今回は、4thステップのその2として、「運用面の弱点」を追及していく方法ついて説明していこうと思います。

1.はじめに

仕事をしていく中では、時として問題が発生することもあります。問題なんて起きない方がいいのかもしれませんが、本稿を通じてご紹介している仕事術「プロセス思考」を知っていると、実際に問題が発生したとしても、そのマイナス要因を業務改善のチャンスに変えることもできるのです。
本稿ではここまで、プロセス思考のステップのうち、4つ目のステップまで説明してきました。

【1stステップ】ザックリとプロセスをつかむ

【2ndステップ】起こりがちな問題のパターンを押さえておく

【3rdステップ】起こりがちな問題をプロセスと紐づける

【4thステップ】問題が起きやすいプロセスが持つ弱点を押さえておく


そして、ある企業を舞台にしたケースに当てはめながら、ここまでの1stステップから4thステップを振り返っています。

2.ケースで考える プロセス思考のステップ(4thステップ-その2)

前回取り上げたケースでは、プロセス思考の「4thステップ-その1」として、仕入計上に関わる業務に関して、適切なルールが整備されているかという「整備面の弱点」を4W2Hの観点を使いながら追及していく方法を説明しました。その結果、前回のケースにおいて舞台となった企業では、仕入計上に関わる業務について、そもそも適切なルールが整備されていない状況になっていることが分かりました。
一方、今回のケースでは、仕入計上に関わる業務について、適切なルールは整備されているものの、整備されたルールが正しく運用されていない企業を取り上げて、「運用面の弱点」を追及していく方法を説明しようと思います。
それでは、ある企業(N社)の仕入計上に関わる現場での様子を描いた次の【シーン】をご覧ください。内容は前回のケースと似ていますが、別の企業です。

【シーン】
N社の経理担当のBさんは購買部門から回付されてきた請求書に基づき、仕入計上の会計処理を行っています。ある日のこと、前月の仕入計上額が妙に大きいことに気づきました。調べてみたところ回付されてきた仕入先R社からの請求書がいつもよりもだいぶ多額であることが分かったので、Bさんは購買部門に問い合わせをしてみることにしました。
さらに原因を追及していくと、仕入先が誤って注文数の10倍の商品を納品してしまっていたのに、購買部門がそれに気づかずに請求書を回付していたため、誤った仕入計上をしてしまっていたことが分かってきました。
なお、その後のさらなる調査の結果、これ以外にも同様の誤りが何件か発生していたのでした。
この原因を探るため、まずは、問題が発生したプロセスである「入荷プロセス」において、適切なルールが整備されているかという「①整備面の弱点」の切り口から、購買部門の処理に関するルールを確認した結果、特段、整備上の弱点は浮かび上がってきませんでした。
それでは一体どこに問題があったのでしょうか。

(4) 4thステップ: 問題が起きやすいプロセスが持つ弱点を押さえておく
プロセスにおける弱点を探っていく上では、2つの切り口、すなわち、適切なルールが整備されているかという「①整備面の弱点」と、整備されたルールが正しく運用されているかという「②運用面の弱点」の2つを使うことで、的を射た答えにたどり着きやすくなります。
N社における入荷プロセスでの処理に関するルールの概要は以下のとおりです。

N社における入荷プロセスでの処理に関するルール
【倉庫部門】
発注した商品が仕入先から納品されたら、倉庫部門の担当者が、当日中に、商品(現物)を「納品書」と照合した上で、倉庫に保管する。また、照合済みの「納品書」は倉庫部長が承認した上で、3営業日内に購買部門に回付される。

【購買部門】
倉庫部門から回付された「納品書」を、購買部門担当者が3営業日以内に「注文書」と照合する。「納品書」と「注文書」との照合は全件行うこととし、必ず商品名と数量を照合することとする。その際には、業務手続書に従って業務を行うとともに、業務確認のチェックリストを使って点検を行う。
また、購買部門の管理者が月次で仕入計上額合計に異常がないかをチェックする。

その他、照合した証跡はどのように残すのか、不一致だった場合はどうするのかといったことについてもルールが定められていました。
「①整備面の弱点」の切り口から、入荷プロセスにおける購買部門の処理に関するルールを確認した結果、特段、整備上の弱点は浮かび上がってきませんでした。

②「運用面の弱点」がないかを追及する
最初の切り口である整備面の弱点に続いて、運用面の弱点がないか、すなわち、ルールに従って業務が行われるような仕組みがプロセスの中に織り込まれているかを確認していきます。その際役に立つのが「自己チェック」や「他者チェック」の仕組みが織り込まれているのかという観点です。また、ルールからはずれた場合などにそれを発見できる仕組み(発見チェック)やルールからはずれるのを予防する仕組み(予防チェック)が織り込まれているのかという観点もあります。
今回のケースで、「自己チェック」や「他者チェック」、「発見チェック」や「予防チェック」の仕組みが織り込まれているのかという観点を使いながら、「運用面の弱点」がないかを確認していきましょう。
「運用面の弱点」を追及していく際は、例えば、【図表1】のようなチェックリスト形式にして、1つずつ確認していくこともできます。なお、ここでは便宜上、購買部門での処理に関連するもののみを取り上げて説明することにします。

【図表1】チェックに着目した、「運用面の弱点」の追及~購買部門での処理に関連するもの 
(チェックリスト)
項目 Y N 状況についてのコメント
1 【発見するための自己チェック】
担当者の業務がルールからはずれた場合に、担当者自身が気づくための仕組みが機能しているか?
  ・担当者は業務手続書に従って業務を行うとともに、業務確認のチェックリストを使って自己点検を行うこととなっている。
2 【発見するための他者チェック】
担当者が業務のルールを守らなかったり、ミスをしてしまった場合に、担当者以外が気づくための仕組みが機能しているのか?
(例)ダブルチェック
クロスチェック
 

・コスト対効果なども考慮し、ダブルチェックは行っていない。

・購買部門の管理者が月次で仕入計上額合計に異常がないかをチェックする。

3 【予防するためのチェック】
担当者が業務のルールを守らなかったり、ミスをしてしまうのを予防する仕組みが機能しているか?
(例)フォーマットチェック
  ・特段の仕組みを設けていない。

No.1~No.3の項目ごとに、該当する場合は「Y」(=Yes)に✔を入れ、該当しない場合は「N」(=No)に✔を入れます。合わせて「状況についてのコメント」欄に状況を付記します。「N」の方に✔が入っている場合、そこが運用面の弱点ということになります。
以下では、【図表1】のチェックリストで「N」の欄に✔が入っている項目について、具体的に説明していきます。

□No.1:担当者自身が気づくための仕組みが機能しているか?
今回のケースでは、【図表1】のコメント欄に記載のとおり、担当者の業務がルールからはずれた場合に、担当者自身が気づくための仕組みは一応設けられていたと言えます。
ルールどおりに業務を行えるように、担当者は業務手続書に基づいて業務を進めるとともに、チェックリストを使って自己点検を行ってはいました。しかし、実際には担当者が気づかないうちにミスをしてしまっていました。なぜかと言うと、たくさんの取引を処理する中で、ほとんどは間違いなく処理できていても、次第に注意力が散漫になるといったことが起こり得るからです。そのため、今回のケースでは、実際に、納品書の数量を見たときにうっかり0が1つ多いことを見過ごし、納品額が注文数の10倍になっていることに気づかないといった事態が起こってしまったのです。

□No.2:担当者以外が気づくための仕組みが機能しているか?
業務を担当者任せにしていると、担当者がルールを守らないといったことが起きるかもしれません。あるいは今回のケースのように、担当者自身はルールを守りながら業務を行っているつもりなのに、気づかないうちにミスをしてしまうこともあります。
そこで、担当者がルールを守らなかったり、気づかないうちにミスをしてしまったような場合に備えて、担当者以外が気づくための仕組みを設けておくことが重要になってきます。その1つとして、担当者以外の者が担当者と同じ視点でチェックするダブルチェックが考えられますが、N社では行っていませんでした。
一方、担当者とは異なる視点でのクロスチェックを行うことも考えられます。N社では、クロスチェックとして、購買部門の管理者が月次で仕入計上額合計に異常がないかをチェックすることになっていました。現状のN社における管理者のチェックは月次の仕入計上額合計に基づく概括的なチェックにとどまっています。これだけでは、購買部門の担当者の業務がルールから逸脱して、「納品書」と「注文書」との照合で不一致を見過ごしたとしても、それを発見するのは難しいかもしれません。
「納品書」と「注文書」を照合する際に担当者がその不一致に気づかなかったとしても、例えば、管理者が日次や週次で仕入先別の仕入リストを確認し承認するなど、別途、詳細なチェックがあれば不一致に気づくかもしれませんが、今回のケースではそのような仕組みまでは設けられていませんでした。

□No.3:予防する仕組みが機能しているか?
上記No.1とNo.2は発見するための仕組みを取り上げていますが、No.3は予防する仕組みを取り上げています。N社では、担当者が業務のルールを守らなかったり、ミスをしてしまうのを予防するような仕組みは特に設けられていませんでした。
注文した数量と異なる数量の商品が仕入先から納品された場合などに、それを見過ごしてしまうことを予防する仕組みとしては、例えば、注文数量と納品数量が一致しない場合に、システムからエラーリストが出るなどといった仕組みが考えられます。しかし、今回のケースではこうした仕組みはありませんでした。

今回取り上げたN社のケースでは、担当者が業務のルールを守らなかったり、ミスをしてしまった場合に、担当者以外の者がそれを発見することがなかなか難しい状況になっていました。また、担当者が業務のルールを守らなかったり、ミスをしてしまうのを予防するような仕組みも特に設けられていませんでした。このため、一度担当者の業務がルールからはずれてしまったり、ミスをしてしまうと、なかなか修復することは難しい状況になっており、仕入業務のプロセスに運用面の弱点があることが分かりました。その結果、注文した数量と異なる数量の商品が仕入先から納品されたのに気づくことができなかったのでした。
このようなステップを踏んで問題の発生原因を特定していくことで、改善する必要がありそうな業務がどこなのかがだいぶ見えてきているはずです。

3.プロセス思考のステップを踏んで、問題の発生原因を特定しよう

ある企業を舞台にしたケースに当てはめながら、プロセス思考の中の1stステップから4thステップを振り返っていますが、今回は4thステップのその2として、自己チェックと他者チェック、並びに発見チェックと予防チェックの観点を使った、「運用面の弱点」の追及について説明しました。
次回は業務改善につなげていくステップへと話を進めようと思います。

(提供:税経システム研究所)
**********

いかがでしたでしょうか。今回は、4thステップのその2として、「運用面の弱点」を追及していく方法ついて説明しました。
次回は、第23回 「プロセス思考」で転んでもただでは起きない(その14)になります。お楽しみに!
なお、このコラムの提供元である税経システム研究所については下記をご参照ください。

税経システム研究所
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