本稿ではここまで、プロセス思考のステップのうち、4つ目のステップまで説明してきました。
【1stステップ】ザックリとプロセスをつかむ
【2ndステップ】起こりがちな問題のパターンを押さえておく
【3rdステップ】起こりがちな問題をプロセスと紐づける
【4thステップ】問題が起きやすいプロセスが持つ弱点を押さえておく
そして、第19回 『「プロセス思考」で転んでもただでは起きない(その10)』から、ある企業を舞台にしたケースに当てはめながら、ここまでの1stステップから4thステップを振り返っています。
2.ケースで考える プロセス思考のステップ(4thステップ-その1)
それでは、ある企業の仕入計上に関わる現場での様子を描いた次の【シーン】をご覧ください。【シーン】(前回の続き)
さらに原因を追及していくと、仕入先が誤って注文数の10倍の商品を納品してしまっていたのに、それに気づかずに仕入計上してしまっていたことが分かってきました。
なお、その後のさらなる調査の結果、これ以外にも同様の誤りが何件か発生していたのでした。
これまでケースに当てはめながら1stステップから3rdステップまでを説明してきました。
1stステップでは、どこで問題が発生する可能性があるのかを把握しやすくするために、業務プロセスを洗い出しました。
2ndステップでは、どんな問題が発生しやすいのかを把握しやすくするために、起こりがちな問題パターンを洗い出しました。
3rdステップで起こりがちな問題を業務プロセスと紐づけて考えることで、各業務プロセスにおいて起こりがちな具体的な問題を洗い出すことができるとともに、それと実際に起きた問題とを照らし合わせることで、どこでどんな問題が発生したのかをつかむことができました。
3rdステップまでの検討で、どこでどんな問題が発生したのかをつかむことができたら、次はいよいよ、そのプロセスでそのパターンの問題がなぜ発生したのか、つまり問題の発生原因を特定していくことになります。
これが今回説明する4thステップになります。
(4) 4thステップ: 問題が起きやすいプロセスが持つ弱点を押さえておく (注1)
いよいよ問題の発生原因を特定するステップになります。その際に効果を発揮するのが、プロセスの弱点からアプローチする方法です。
(注1)「(1)1stステップ:ザックリとプロセスをつかむ」、「(2)2ndステップ:起こりがちな問題のパターンを押さえておく」は第19回 を、「(3)3rdステップ: 起こりがちな問題をプロセスと紐づける」は第20回 をご覧ください。
今回のケースでは、3rdステップまでの検討を通じて、「仕入先が誤って注文数(100個)の10倍(1,000個)の商品を納品してしまったのに、それに気づかずに仕入計上してしまっていた」、つまり、「入荷プロセスにおいて、注文した数量と異なる数量の商品が仕入先から納品されたのに気づかなかった」ということが分かりました。こうした見落としが起きた結果、その後のプロセスでは、納品どおりの請求書が届き、また請求書どおりに仕入計上したにもかかわらず、結果として不正確な仕入計上につながってしまったわけです。
ここまで来れば、誤った仕入計上をしてしまった原因が特定されたようにも思えますが、そうではありません。入荷プロセスにおいて、注文した数量と異なる数量の商品が仕入先から納品されたのに気づかなかったことが、誤った仕入計上をするきっかけになっているわけですが、これは表面的な事象に過ぎません。大事なことは、なぜ注文数量と異なる数量の納品がされたことに気づかなかったのかということです。これを明らかにすることこそが問題の原因を特定することになります。
今回のような問題が起きたということは、入荷プロセスのどこかに弱点があったということになります。その弱点を見つけることで、問題の原因を特定することができます。とはいえ、やみくもに何か弱点はないかと考えていても、なかなか的を射た答えにたどり着くことはできません。そこで、まずは問題が起きやすいプロセスが持つ弱点のパターンを押さえておきます。そして、これを切り口にし、これに照らし合わせながら実際のプロセスにおける弱点を探っていくようにするのです。
では、弱点を探っていく上で押さえておくべき切り口としてどんなものがあるのでしょうか。実はプロセスにおける弱点には「ルール」が大きく関わっています。そもそもルールが整備されていなかったり、ルールが定まっていてもそれが適切でなければ、これは大きな弱点だと言えます。なぜなら、やるべきこと・押さえておくべきことが不明確なまま、人それぞれのやり方で何となく業務が行われてしまいかねないからです。
それでは、ルールが整備されていればいいのかというと、決してそういうことではありません。整備されたルールが正しく運用されていないのであれば、これも大きな弱点だと言えます。当然のことですが、ルールは守られなければ意味がありません。
プロセスにおける弱点を探っていく上では、この2つの切り口、すなわち、適切なルールが整備されているかという「①整備面の弱点」と、整備されたルールが正しく運用されているかという「②運用面の弱点」の2つを使うことで、的を射た答えにたどり着きやすくなります。
今回は、この2つの切り口のうち「①整備面の弱点」についてケースに当てはめて見ていきます。
①「整備面の弱点」がないかを追及する
まずは最初の切り口として、整備面の弱点がないか、すなわち業務を行う上でのルールに不備がないかを確認していきます。ここでいうところの“ルール”は、単に正式な規程ばかりではなく、業務を進めるためのマニュアル、さらには文書化されていなくても慣習として行われていることなども含みます。そして、整備面の弱点がないかを確認する際には次の4W2Hの観点に照らしてみます。
今回のケースで確認していきましょう。この企業における入荷プロセスでの処理に関するルールは以下のようになっていることが分かりました。
入荷プロセスでの処理に関するルール
№ | 項目 | Y | N | 状況についてのコメント |
1 | When(時期)に関する適切なルールがあるか? | ✔ | ・時期に関するルールはない。 | |
2 | What(元資料)に関する適切なルールがあるか? | ✔ | ・「納品書」を「注文書」(元資料)と照合することになっている。 | |
3 | Who(人)に関する適切なルールがあるか? | ✔ | ・担当者は定まっている。 | |
4 | How(手段)に関する適切なルールがあるか? | ✔ | ・「納品書」と「注文書」の照合について、具体的なやり方が定まっていない。 | |
5 | Why(趣旨)の考慮がされているか? | ✔ | ・「注文書」と「納品書」を照合する趣旨が不明確である。 | |
6 | How Much(コスト対効果)の考慮がされているか? | ✔ | ・特にコスト対効果を考慮していない。 |
※No.1~No.4はルールそのものに関する事項、No.5~No.6はルールを決めるにあたって考慮するべき事項。
以下では、【図表1】のチェックリストで「N」の欄に✔が入っている項目について、具体的に説明していきます。
□No.1: When(時期)に関する適切なルールがあるか?
購買部門では、「納品書」を「注文書」と照合することになっていますが、それをいつ(いつまでに)実施するのかという時期に関するルールは特に定まっていません。
□No.4: How(手段)に関する適切なルールがあるか?
購買部門では、「納品書」を「注文書」と照合することになっていますが、具体的なやり方が定まっていません。やり方が定まっていないというのは、正式な規程ばかりではなく、業務を進めるためのマニュアル、さらには文書化されていなくても慣習として行われていることなども含めての話です。どの項目を照合するのか、全件照合するのかサンプルで照合するのか、照合した証跡はどのように残すのか、不一致だった場合はどうするのかなども定まっていません。
□No.5: Why(趣旨)の考慮がされているか?
なぜ注文書と納品書を照合する必要があるのかなど、規程やマニュアルなどを含め、その趣旨が不明確なままの状況です。
□No.6: How Much(コスト対効果)の考慮がされているか?
上記No.4のところで説明したとおり、「納品書」と「注文書」との照合について具体的なやり方が定まっていません。当然、以下のような点について、コスト対効果を考慮してルールを定めているわけでもありません。
・業務の正確性を重視して全件照合することにするのか
・コスト対効果を考慮してサンプルで照合することにするのか
・サンプルで照合する場合、どのくらいの件数照合するのか
・サンプルで照合する場合でも、一定の金額以上のものなど重要なものは全件照合するのか
・サンプルで照合することとする代わりに別の帳票で異常の有無を確認するのか
このように、4W2Hの観点を使いながら、入荷プロセスにおける購買部門の処理に関するルールを確認した結果、整備上の弱点が浮かび上がってきました。今回のケースでは、これらの整備上の弱点が少なからず影響して、「注文した数量と異なる数量の商品が仕入先から納品されたのに気づかなかった」という事態に陥ったと言えます。
例えば、購買部門の担当者は倉庫部門から回付された納品書を注文書と照合していましたが、ルールが定まっていない部分があるために、担当者によってやり方もまちまちであり、実際には例えば以下のような問題が起こっていたのです。
・納品書と注文書の照合は任意にその一部の取引だけ行っており、重要性の高い取引でも照合されていないものが少なからずあった。
・納品書と注文書の照合は商品名と数量を照合し、不一致だったものについて適切な発注担当者までフィードバックされていないものもあった。
・照合した証跡を残していないため、照合したのかどうかが後から確認できない状況だった。
・「納品書」と「注文書」を照合する趣旨(適切に仕入計上をするために、注文したとおりの商品が注文数どおりに納品されていることを確認すること)が購買部門の担当者に認識されていなかった。
今回のケースでは、「注文した数量と異なる数量の商品が仕入先から納品されたのに気づかなかった」という問題が起きたわけですが、その背後には適切なルールが整備されていないという問題があることがお分かり頂けたと思います。
3.プロセス思考のステップを踏んで、問題の発生原因を特定しよう
ある企業を舞台にしたケースに当てはめながら、プロセス思考の中の1stステップから4thステップを振り返っていますが、今回は4thステップのその1として、4W2Hの観点を使った、「整備面の弱点」の追及について説明しました。次回は4thステップのその2として、チェックの観点を使った、「運用面の弱点」の追及について説明しようと思います。