上場企業のIRサイトで有価証券報告書と一緒に目にする四半期報告書。今回は四半期報告書はどのような資料で構成されるのか、さらに提出の義務やスケジュールについて簡単に解説します。四半期報告書の基礎を学べば、自社や他社の会計情報について、理解がしやすくなるでしょう。
- 投稿日:2019/08/01
- 更新日:2021/08/05
四半期報告書とは
有価証券を発行している企業は「ディスクロージャー(企業内容等開示)制度」によって、投資者に適切な投資判断を促すための情報を開示することが定められています。この時に提出する資料が有価証券報告書です。
この有価証券報告書の内容を補完する目的で、事業年度を3カ月以上に設定している企業は、その事業年度の四半期(3カ月)ごとにも報告書を提出することが、金融商品取引法第24条によって義務付けられています。これが四半期報告書であり、提出後は3年間開示されることとなっています。
四半期報告書の提出が求められる対象は、基本的に上場企業となります。それ以外でも、有価証券報告書を提出する企業は任意で四半期報告書を提出することができますが、その場合は以降も提出を継続しなければならないとされています。また、提出しているのが特定有価証券に係る有価証券報告書の場合は、任意であっても四半期報告書を提出することはできません。
四半期報告書は、原則として各四半期が終了してから45日以内に提出しなければなりません。そのため該当期間の翌月に作成し、翌々月の中旬までに提出するのが基本的な流れになります。
以下は3月決算の企業における四半期報告書の提出スケジュールです。
報告書 |
期間 |
提出月 |
第1四半期報告書 |
4~6月 |
8月 |
第2四半期報告書 |
7~9月 |
11月 |
第3四半期報告書 |
10~12月 |
2月 |
有価証券報告書 |
事業年度(前年4~3月) |
6月 ※事業年度終了後3カ月以内 |
四半期報告書の構成資料
四半期報告書では、対象期間の企業概況、事業、設備、経理の状況を表明します。経理については財務諸表を用意しますが、迅速性・適時性が重視されていることもあり、連結決算を行っている企業では個別ではなく連結財務諸表を提出します。
■四半期報告の際の提出物
- 企業の概況
- 主要な経営指標等の推移
- 事業の内容
- 関係会社の状況
- 従業員の状況
- 事業の状況
- 生産、受注及び販売の状況
- 経営上の重要な契約等
- 財政状態及び経営成績の分析
- 設備の状況
- 提出会社の状況
- 経理の状況(四半期財務諸表)
- 四半期貸借対照表
- 四半期損益計算書
- 四半期キャッシュ・フロー計算書
- 注記項目
以上の資料は原則すべて提出する必要があります。しかし該当期間が終了してから45日以内に提出しなければならないという時間の制約もあるため、特に財務諸表については「経理の負荷が大きい」という声も上がっています。
四半期報告書の簡素化
経理現場の負担軽減を目的とし、2011年3月以降「四半期財務諸表に関する会計基準」などが改正され、以下の通り、四半期報告の簡素化が実施されています。
四半期会計期間の任意開示
改正前の四半期損益計算書では、期首から四半期会計期間末日までの「四半期累計期間」と、当該年度の期間を3カ月ごとに区分した「四半期会計期間」、それぞれの書類を作成する必要がありました。
このうち「四半期会計期間」の四半期報告書については、それまでに公表されている四半期財務諸表から数値を推測できるため、開示する必要がなくなりました。
開示の必要あり:四半期累計期間(3月決算企業の第2四半期累計期間は4~9月)
開示の必要なし:四半期会計期間(3月決算企業の第2四半期累計期間は7~9月)
四半期キャッシュ・フローの開示を省略可
キャッシュ・フローについてはもともと四半期ごとに作成が必要でしたが、改正後は第1四半期と第3四半期の開示を省略できるようになりました。
ただし、省略する場合には下記の点に注意してください。
- キャッシュ・フローの状況を把握するための代替情報として、期首からの累計期間における無形固定資産の減価償却費とのれんの償却額を注記する。
- 開示を省略する場合、第1期四半期と第3四半期の両方を省略しなければならない(どちらかのみ省略することは原則不可)。
注記事項の削除
四半期報告書の簡素化のために、開示対象から削除された注記も多数あります。以下がその一部です。
削除された注意事項 |
理由 |
簡便的な会計処理 |
限定的であり記載の意義が乏しいため |
表示方法の変更内容 |
過去の財務諸表が組み替え可能であるため |
ストック・オプション |
投資者などの財務諸表利用者の開示ニーズがそれほど高くないため |
1株あたりの純資産 |
財務諸表利用者が開示情報から計算可能なため |
発行済み株式総数
自己株式数
新株予約権
|
四半期財務諸表以外の開示項目から入手可能なため |
その他にも「開示対象特別目的会社に関する注記」など、多くの注記が削除されています。四半期報告書の作成を効率化、簡素化できる可能性もあるので、まずは企業会計基準委員会が公開している「
四半期財務諸表に関する会計基準」を確認してみてください。
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今回は四半期報告書について解説しました。四半期報告書や四半期財務諸表の作成は、経理担当者の重要な業務の1つであり、仮に転職をする場合にも作成実績を問われることもある重要なスキルです。まだ作成未経験の経理担当者も、簡略化できる部分に注目しながらシミュレーションしてみてください。いざというときにスマートに資料を作成できるかが、”できる経理”かどうかの決め手です。