2016年5月に成立した仮想通貨の悪用阻止に向けた改正資金決済法。公布後1年に当たる2017年春に施行されることになります。
この改正資金決済法は、仮想通貨が通貨としての機能を持っていると認めた上で、金融庁が監督官庁となり、現金と仮想通貨を交換する取引所に登録制を導入します。
利用者保護を目的とした法整備によって、仮想通貨が一気に普及すると予想され、2017年を仮想通貨元年と位置付ける向きがあります。経理担当としてチェックしておくべきトピックスと言えるでしょう。
仮想通貨とは何か?
仮想通貨とは、現物のお札や硬貨とは違い、インターネット上でやり取りされるお金の総称。代表的なもので「ビットコイン」「イーサリアム」「リップル」などがあげられ、その種類は世界に600以上あると言われています。
円やドルなどの法定通貨を発行する中央銀行のような管理者が存在せず、取引所と呼ばれる専門の事業者を通じて円やドルなどで購入できます。利用者は「ウォレット」という専用の電子財布をネット上に作成して仮想通貨を保有します。
最大のメリットは、パソコンやスマートフォンを通じて、無料もしくは数円程度の手数料で自由に送金できること。ビットコインをはじめ、保有者の売買に応じて頻繁に対ドル、対円の価格が変動することから投機を目的にする保有するケースが多かったのですが、法整備がなされることで2017年は一般普及の元年になるのではと言われています。
メガバンクが次々と参入
利用者保護を目的とした法整備を見据え、メガバンクの参入が相次いでいます。三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は、2017年度より独自の仮想通貨「MUFGコイン」を一般向けに発行する計画を発表しました。
仮想通貨でいち早く台頭したビットコインが、対通貨における変動の激しさから投機目的の人々を刺激したこと。取引所の破綻などでネガティブな印象を与えた面があることを考慮し、MUFGコインは価格を固定させ、通貨やコンビニなどのポイントとも交換できるようにして一般普及をもくろんでいます。
また、みずほフィナンシャルグループでも同様の仮想通貨「みずほマネー」の実証実験を始めています。こうした新サービスを根底から支えているテクノロジーがブロックチェーン。もともとビットコインの安全性を確保するために開発された技術で、インターネット上の複数のコンピューターで取引の記録を共有し、取引の参加者すべてが互いに取引を承認する仕組みです。
ブロックチェーンは、すべての取引記録を記載した一つの取引台帳が存在するイメージです。この可視化された取引記録を分散されたネットワーク上に置き、取引の参加者で互いに監視し合うことで、通貨の偽造や二重払いなどを防止します。巨大なセキュリティーシステムや中央管理を不要とするシステムゆえに低コストを実現したと言えます。
決済や会計処理を一変させる!?
仮想通貨の代表格であるビットコインが使える実店舗やECショップは急増しています。送金コストが低いため、圧倒的に利率の低いクレジットカードのような存在となっているようです。気軽に決済手段を増やせる上、訪日外国人旅行客を見据えた導入といった声も多いようです。
仮想通貨は金融にITを活用したフィンテックの一つ。このフィンテックの広がりの大きな鍵を握るのがAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)と呼ばれる仕組みです。企業のシステムやプログラムをAPIで公開しておくことで、外部のソフトウェア開発者などがアクセスしてプログラムを呼び出し、その機能を組み込んだソフトウェアを開発することができます。
現在、メガバンクとフィンテック企業がAPIを通じてアライアンスを組む動きが目立ってきています。例えば、メガバンクからアクセス権を与えられたフィンテック企業が銀行の口座情報を活用して新しい会計ソフトや資産管理アプリ、送金アプリを開発するなど。2017年は、後に決済や会計処理が一変するカンブリア紀として記憶される年となるかもしれません。
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2017年は、利用者保護を目的とした改正資金決済法により、仮想通貨が一般普及する元年になるという仮説です。
しかし、たとえ仮想通貨が一般普及したとしてもそれは一つの現象にすぎません。その根底にはブロックチェーンやAPIがあり、背景にはメガバンクの思惑があります。では、メガバンクの思惑とはどのようなものでしょうか。
銀行は独自の仮想通貨を通じて顧客ニーズを詳細に把握し、新しい金融商品やサービスの開発につなげようとしています。フィンテック企業に投資するのも、彼らの技術力を新しい商品開発に活かす狙いがあると思われます。現象だけに目を奪われるのではなく、その背景にあるものに目を向けることが大事です。
フィンテックや仮想通貨は、今後企業の経理業務にどんな革新をもたらすのでしょうか。その時、経理担当にはどんなスキルが求められるのでしょうか。これからの経理には、そうした思考が不可欠となります。注目されているニュースや現象をひもとく習慣を付けていきましょう。