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経理/財務公認会計士の仕事術 2026/01/08

第63回 比較分析のいろいろ(3) ~対前期比較の落とし穴

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前回は「比較分析」をテーマに「売掛金の増加理由」について説明させていただきました。今回は「対前期比較の落とし穴」についてご説明させていただきます。

1.はじめに

経理部では、P/Lの比較分析を行い、経営者などに著増減理由の説明を行う場面も少なくないでしょう。対前期比較での増減分析が決算の度に行われていることが多いと思いますが、はたしてそこで見落としていることはないでしょうか。今回はそんな観点での話をしてみようと思います。

2.ケースで考える比較分析 ~対前期比較の落とし穴

まずは、ある経理部での様子を描いた【ケース3】をご覧ください。

【ケース3】
R社では決算作業の終盤を迎えたある日、経理スタッフ歴3年のSさんがP/Lの比較分析を実施しています。これまで経理部で経験を積んできたことから、P/Lの対前期比較は慣れたもの。限られた時間の中で前期比較での増減分析を終え、結果を経理部長に報告しました。それまで比較的業績が安定していたR社ですが、新型コロナウイルス感染症の影響などで経営環境が激変し、前期は売上高や利益が大きく落ち込みました。その影響もあって当期は前期と比べて業績は大きく改善しているようです。

経理部長:「売上高は対前期比較200百万円増(33%増)の800百万円、営業利益は対前期比較3百万円増(50%増)の9百万円、……と大幅改善ということか。確かにそうなんだが…」
Sさんの分析に対して経理部長はどうも不満な様子です。どういうことなのでしょうか。

【ケース3】には、経理スタッフのSさんがP/Lの比較分析を実施した様子が描かれています。Sさんは経理スタッフ歴3年ということで、既にP/Lの比較分析は何回も経験してきました。ある意味、P/Lの比較分析には慣れているわけですが、そんな人だからこそ陥ってしまう落とし穴もあります。

【ケース3】でSさんが実施した比較分析は【図表1】のようなものでした。

【図表1】対前期比較

(単位:百万円)
前期 当期 増減額(率)
売上高 600 800 200(33%)
営業利益 6 9 3(50%)
当期のP/L(ここでは売上高と営業利益のみ示しています)を前期のP/Lと比較し、増減額及び増減率を算出しています。これによって、前期と比較してどのような変化が生じているのかが分かります。確かに通常の場合におけるP/Lの比較分析と言えば、このような分析になるでしょう。

ただし、今回のケースで注意しなければならないのは、「新型コロナウイルス感染症の影響などで経営環境が激変し、前期は売上高や利益が大きく落ち込みました」という部分です。

こうした環境変化が激しい状況でP/Lの比較分析を依頼されたとき、読者の皆さんならどうしますか。

仮に前期が経営環境激変により業績が異常値を示しているのであれば、単純に前期と当期の業績を比較してもあまり意味がありません。一つ考えられるのは、比較する期間を長くするということです。当期の業績を前々期の業績とも比較できるように、前々期・前期・当期の3期分のP/Lを並べて比較するのです。それを表したのが【図表2】です。

【図表2】3期比較

(単位:百万円)
前前期 前期 当期
売上高 1,000 600 800
営業利益 20 6 9

【図表2】のように3期分が併記されていれば、前期の業績が大きく落ち込んだこと、それと比較すると当期は大きく改善していることが分かります。また、前々期と当期を比べてみましょう。当期は業績回復傾向にあるものの、前々期の水準までは回復していないことも分かります。
実は【図表2】に、ある情報を追加すると、この3期間の状況変化がより分かりやすくなります。【図表3】をご覧ください。

【図表3】3期比較(趨勢比あり)

(単位:百万円)
前前期 前期 当期
売上高
(趨勢比)
1,000
(100)
600
(60)
800
(80)
営業利益
(趨勢比)
20
(100)
6
(30)
9
(45)
(注)趨勢比: 前々期(基準年)を100とした場合の比率を示している。

【図表3】には、【図表2】の金額の情報に加え、カッコ書きで趨勢比というものが示されています。これは基準年(前々期)を100とした場合に、他の年度がどのくらいの水準なのかを表しています。売上高を見てみると、前々期を100とした場合に、前期は60(6割)まで落ち込んでいること、当期は前期よりは回復しているものの、80(8割)までの回復にとどまっていることが一目瞭然です。

営業利益を見てみると、前期は前々期の3割の水準まで落ち込み、当期も4割5分の水準にとどまっていることがすぐ分かります。
【図表3】はシンプルな数値にしてあるので、金額だけ見ても傾向がつかめ、趨勢比のありがたみが伝わりづらいかもしれません。しかし、実際の売上高や営業利益はこんなに単純な数値ではありませんので、趨勢値のあるなしで傾向の理解には大きな差が生じることでしょう。

なお、傾向を理解する上では、比較する数期間において、以下のような点もチェックすると良いでしょう。
  • ①右肩下がり・右肩上がり・山型・谷型のいずれなのか
  • ②その間の振れ幅はどれ位なのか
①右肩下がり・右肩上がり・山型・谷型のいずれなのか
3期分の売上高や利益をグラフにしてみると、以下のような型に分かれます。仮に【図表4】の各型の右端の高さが当期の売上高を示しているとし、どれも同じ金額であったとしましょう。この場合、右肩下がりで悪化した結果その売上高になったのか、右肩上がりで改善した結果その売上高になったのかでは、たとえ同じ金額であっても当期の売上高の持つ意味合いがだいぶ違います。

【図表4】3期分の売上高や利益の推移の型


右肩下がり

右肩上がり

山型

谷型

(注)横軸は決算期、縦軸は売上高等の決算数値

②その間の振れ幅はどれ位なのか
3期分の売上高や利益をグラフにしてみると、【図表5】のようにその間の数値の振れ幅が分かります。振れ幅が小さければ業績が比較的安定しており、振れ幅が大きければ業績が不安定ということになります。

この振れ幅は上述した趨勢比を見ることでも確認することができます。例えば、売上高の趨勢比が90~110くらいであれば振れ幅は±10%で比較的安定している一方、50~150くらいであれば±50%で売上高が大きくブレやすいと言えるのではないでしょうか。

【図表5】3期分の売上高や利益の振れ幅


振れ幅小

振れ幅大(不安定)

(注)横軸は決算期、縦軸は売上高等の決算数値

3.おわりに

経理部では決算書等の比較分析を行う場面が少なくないでしょう。確かに、担当者ごと、その時々で分析方法が変わってしまうと混乱が生じることもありますので、各社における従来の分析の仕方を踏襲することも大切です。しかし、大きな経営環境変化が生じたときなど、従来の分析方法を踏襲すると弊害が大きい場合もあります。ただ従来の方法を踏襲するというのではなく、状況変化に応じてより良い分析の方法に見直してみることが大切です。

もし2期比較だけでは状況を適切に把握できないおそれがあるのであれば、3期比較などのより長い期間での分析をしてみるといったアレンジをするのが一つです。また3期分の金額だけ並べても状況が見えにくいのであれば、趨勢比などを併用することで比較しやすくアレンジしてみるのも一つです。

経理パーソンの方々は従来の分析方法を踏襲するのが良いのか、あるいは見直した方が良いのかを考えながら、適切な分析方法を選択することを心掛けて頂ければと思います。


(提供:税経システム研究所)
**********

いかがでしたでしょうか。 今回は、「比較分析」における「対前期比較の落とし穴」についてご説明させていただきました。
次回は、「第64回 比較分析のいろいろ(4) ~B/Sの月次推移分析(その1)」でまた別の事例をご紹介させていただきます。お楽しみに!
なお、このコラムの提供元である税経システム研究所については下記をご参照ください。

税経システム研究所
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