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経理/財務税務(税金・節税) 2025/10/28

海外進出の課税リスクとは?移転価格税制からグローバル・ミニマム課税まで“必ず押さえたい税制”を紹介

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海外進出を考える際に重要となるのが「現地の税制対応」です。
移転価格税制や租税条約、外国子会社合算税制など、日本国内ではあまり意識してこなかったルールが関わってきて、混乱する企業担当者もいるのではないでしょうか。
本記事では、企業担当者が押さえておきたい海外税制のポイントや、企業としてどのような対応を進めるべきかを解説していきます。

海外進出時に留意すべき主要税制

海外展開する企業が直面する税制はいくつもありますが、代表的なものとして大きく3つが挙げられます。
関連会社間取引における適正価格の確保を求める「移転価格税制」、二重課税を回避するための「租税条約」、そして海外の低税率国で得た所得を合算して課税する「外国子会社合算税制」です。
それぞれの概要を順に見ていきましょう。


移転価格税制とは
移転価格税制とは、海外の関連会社との取引について「第三者との取引と同じように適正な価格で行うこと」を求める制度です。
関連会社間の取引は価格を自由に設定しやすく、契約書などの裏付けがないケースも少なくありません。
そのため、利益を意図的に操作して課税を回避する行為を防ぐ目的で設けられています。

税務リスク
移転価格税制は、税務調査で指摘されると企業にとって大きな負担となります。
例えば、1つのサービスラインに関する取引が問題と認定されると、その取引に関連する過去5年分の利益を修正し、申告をやり直さなければならない場合があるからです。
実際、国税庁の発表によれば移転価格調査による実地調査は年間120件を超え、一件あたりの追徴税額も高額になる傾向があります。

必要な対策
こうしたリスクに備えるには、取引内容や価格算定の根拠をまとめた文書を整備しておくことが重要です。
特に、連結売上高1,000億円以上の企業グループは次の文書の作成が義務付けられています。

  • 最終親会社等届出事項
  • 国別報告事項(CbCレポート)
  • 事業概況報告事項(マスターファイル)
  • 独立企業間価格の算定に必要な書類(ローカルファイル)
これらの文書化対応は、税務調査に備えるうえで欠かせません。

※参考資料:国税庁「移転価格に関する国税庁の取組方針
国税庁「令和5事務年度 法人税等の調査事績の概要



租税条約とは
租税条約とは、「所得に対する租税に関する二重課税の回避や脱税の防止」を目的とした条約で、同じ所得に対して日本と相手国の双方で課税できる範囲を調整するものです。
企業にとって租税条約が重要なのは、適用によって現地の税率よりも低い税率が適用される場合があるからです。
例えば、現地では配当に20%の税率が課される場合でも、租税条約の適用により10%に引き下げられたり、免税となったりするケースがあります。
つまり、租税条約の適用によって税負担を軽減できるのです。

租税条約を適用するには
租税条約を適用するには、居住者証明書の取得や届出書の提出が必要です。
これらの手続きに誤りがあると条約の特典を受けられない可能性があるため、実務担当者は事前の準備を入念に行う必要があります。
なお、租税条約には移転価格税制に関する相互協議の仕組みも定められています。
早期に相互協議を申し立てることで、移転価格税制に関する二重課税の長期化を避けられることも期待できます。


外国子会社合算税制(CFC税制)とは
外国子会社合算税制とは、経済実体のない外国法人に利益を移し替えて課税を逃れることを防ぐための仕組みです。
一定の要件を満たさない外国法人で生じた所得を、日本の親会社の所得と見なし、日本で合算して課税します。
対象となるのは、日本企業が直接または間接に株式の50%超を保有する外国関連会社です。

判定の流れ
判定にあたっては、次の流れで確認が行われます。

  • その会社が「ペーパーカンパニー」や「キャッシュボックス」(受動的所得が総所得の30%以上を占める会社)に該当するかを判定
  • 1に該当し、かつ実効税率が27%未満であれば「特定外国関係会社」とされ、その所得は日本の親会社で合算課税とされる
  • 1に当てはまらない場合でも、経済活動基準(事業基準・実体基準・管理支配基準・非関連者基準・所在地国基準)のいずれかを満たさず、かつ税負担割合が20%未満であれば、合算課税の対象となる
さらに、外国子会社が経済活動基準をすべて満たしていても、配当や有価証券の譲渡損益、為替差損益などの「受動的所得」については、日本の所得に合算され課税される場合があります。
そのため、外国子会社合算税制では実体の有無だけでなく、所得の内容にも注意が必要です。

※参考資料:財務省「外国子会社合算税制の概要
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海外進出する企業が注意すべき税制(グローバル・ミニマム課税と組織再編)

先述した基本的な国際税制への対応は多国籍企業にとって既に常識となりつつありますが、海外展開に伴う税務リスクはそれだけではありません。
近年は、グローバル・ミニマム課税の導入や、PE(恒久的施設)認定・組織再編に伴う現地課税など、追加で注意しておくべきポイントが増えています。


グローバル・ミニマム課税
2021年10月、OECD/G20の「BEPS包摂的枠組み」で合意されたグローバル・ミニマム課税が、世界各国で導入され始めています。
この制度は、グローバルに活動する企業グループに対して「最低でも15%の税率」を確保することを目的としており、売上高7.5億ユーロ以上の多国籍企業グループが対象です。

日本での導入状況
日本では2024年から IIR(所得合算ルール) が適用開始となりました。
IIRは、親会社の所在国が税率の低い子会社の所得に対して追加課税を行う仕組みです。具体的には、海外子会社の実効税率が15%を下回る場合、その差額が日本で追加課税されます。
さらに2026年4月からは、次のルールが導入される予定です。

  • QDMTT(国内ミニマム課税)
    各国が、自国内での実効税率が最低税率を下回る所得に対して追加課税を行う制度
  • UTPR(軽課税所得ルール)
    IIRによる課税ができない場合に適用される追加課税ルール
実務上の対応ポイント
対象となる多国籍企業グループは、2024年4月以降に開始する事業年度から情報申告書の提出義務があります。
たとえ追加課税が発生しなくても、子会社の情報や国別の実効税率などを記載した申告書を、事業年度終了日の翌日から 1年3カ月以内(初年度は1年6カ月以内) に提出しなければなりません。
また、グローバル・ミニマム課税は「売上規模が大きな多国籍企業」が主な対象であり、一定の免除基準(セーフハーバー)も整備されています。
そのため、規模の小さい企業には適用されないケースもあります。
ただし、適用の有無を判断するためにも、正確な財務データを収集・整理できる体制を整えることが重要です。

※参考資料:国税庁「グローバル・ミニマム課税関係
PwC税理士法人「グローバル・ミニマム課税に係る実務対応ガイド



PEや組織再編などの思わぬ現地課税
海外展開に伴っては、進出先で通常の法人税だけでなく、予想外の税務リスクが発生することがあります。

恒久的施設(PE)
まず注意すべきは、恒久的施設(PE)認定リスクです。
PEとは、企業が事業を行う一定の場所を指し、そこがPEと認定されると、その国に拠点がなくても課税義務が生じます。
例えば、日本本社の従業員が海外子会社に長期出張して技術支援などを行う場合、その活動が日本企業のPEと見なされ、現地で課税を受けるケースが少なくありません。

海外子会社の組織再編に伴う課税リスク
日本では課税が生じない取引であっても、現地国の税制では多額の課税が発生することがあります。
事前に把握できていないと、現地での申告・納税期限に間に合わず、延滞税が課されて余計な負担につながる可能性もあります。
こうしたリスクを回避するためには、従業員の派遣や組織再編などを行う前に、現地税制の詳細な検討と、必要に応じた現地専門家への確認が不可欠です。
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多国籍企業が国際税務に対応していくために

多国籍企業に求められる国際税務対応はますます複雑になっています。
その中で重要となるのが、文書化の徹底、国際会計・税務人材の育成、クラウド型会計システムの活用です。
ここでは、それぞれのポイントを解説します。


文書化への対応
多国籍企業に求められる国際税務対応の中でも、まず重要となるのが取引の文書化です。
これは、OECDが主導するBEPS(税源浸食と利益移転)プロジェクトでも重視されています。
BEPSプロジェクトとは、多国籍企業による租税回避を防止するための国際的な取り組みで、移転価格税制、外国子会社合算税制、グローバル・ミニマム課税などもその一環です。
BEPSプロジェクトでは、税務ガバナンス体制を構築する際には、まず税務方針の策定が基本とされています。
税務方針では、税務コンプライアンスに対する姿勢、リスク管理の方針、情報開示や透明性に関する考え方を明文化することが求められます。

多国籍企業に対する税務対応の要件は年々増えています。
移転価格税制に対応した取引の文書化や、グローバル・ミニマム課税に対応した情報収集・申告準備など、必要な体制を整え、適切に対応できるようにしていきましょう。


国際会計・税務対応人材の育成
国際税務に対応する社内体制を整えるうえでは、専門人材の確保と育成も重要です。
国際税務は経理財務の中でも特に専門性が高く、税法・会計・語学のスキルを兼ね備えた人材が求められます。
また、実務経験を重ねながら時間をかけて習得する部分も多いため、将来を見据えて若手社員にも早い段階から国際税務の業務を経験させると良いでしょう。
さらに、希望する社員を現地法人に派遣すれば、現地の実態や会計・税務をより深く理解することにつながります。

加えて、国際税務関連の法令は頻繁に改正されるため、最新情報のキャッチアップも欠かせません。
外部セミナーの受講や、会計・税務に関する専門誌・ニュースレターの購読を企業として取り入れ、従業員が気軽に知識をアップデートできる環境を整備すると良いでしょう。

ただし、国際税務の論点は高度で、専門家であっても判断に迷うケースがあります。
そのため、対応が難しい課題が見つかった場合には、国際税務に強い外部専門家に速やかに相談する体制を整えておくことも重要です。


クラウド型会計システムの活用
国際税務対応における会計システムの役割もますます重要になっています。
移転価格文書を作成する際には、海外子会社を含む取引データから関連者間取引を抽出する必要があります。
また、外国子会社合算税制やグローバル・ミニマム課税の計算では、各国・地域の財務データを統合的に管理・集計しなければならず、手作業では膨大な負担となります。
こうした背景から、海外子会社を含む拠点ごとにデータを連携できる会計システムの導入が進んでいます。
これにより、税務対応だけでなく、経営管理や業務改善にも役立つ点が大きなメリットです。

特に注目されているのがクラウド型会計システムです。
クラウドであれば、日本国内だけでなく世界中の拠点からリアルタイムにデータへアクセス・更新でき、海外展開を進める企業にとって最適な仕組みといえるでしょう。

※本記事の内容は掲載日時点での情報です。
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海外展開企業にとって、会計・税制対応は適宜アップデートが求められます。
今回解説した主要な税制やグローバル・ミニマム課税などの新制度に対応できるよう、社内での研修体制も整備しておくようにしましょう。

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