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経営事業計画/経営計画 2025/09/24

M&A(エムアンドエー)が事業承継の切り札に?全国245万の中小企業に迫る“後継者ゼロ”危機と活用すべき支援策

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日本では、2025年のうちに約245万人の経営者が引退時期を迎えるとされ、そのうち約127万人は後継者が決まっていないといわれています。
中小企業の事業承継は大きな課題となっている一方で、近年はM&Aを選択する企業が増加しており、国も支援策を強化しています。
今回の記事では、中小企業の事業承継をめぐる現状、M&Aのメリット、支援策などを解説します。

中小企業における事業承継の現状と課題

中小企業では経営者年齢のピークがこの20年間で50代から60~70代へと大きく上昇しており、いわゆる経営者の高齢化が進んでいます。
2025年中に平均引退年齢である70歳を超える中小企業・小規模事業者の経営者は約245万人に昇り、そのうち約半数にあたる127万人が後継者不在という深刻な課題を抱えています。
この127万人は、日本の経営者全体の約3分の1に相当します。

後継者不在には大きく2つのパターンが存在します。
一つは文字通り後継者となる人材がいないケース、もう一つは後継者候補はいるものの本人が承継を望んでいないというケースです。
後者については、従来までの親族内での事業承継の前提が崩れつつあることを示しています。

※参考資料:中小企業庁「中小企業・小規模事業者における M&Aの現状と課題


中小企業の経済的重要性と事業承継の危機
日本企業のうち99.9%は中小企業であり、その多くが長年にわたり地域に欠かせないサービスを提供しながら、独自の技術力やノウハウを培ってきました。
製造業のニーズに応じた加工技術、伝統工芸に根ざした職人技、地域に親しまれる特産品の生産技術、地域密着型サービスのノウハウなど、大企業では代替が難しい価値を生み出している企業も少なくありません。
こうした中小企業は、雇用や技術の担い手として日本経済を支える基盤であり、極めて重要な役割を果たしています。

一方で、中小企業白書によれば、「子どもに事業を継ぐ意思がない」、「適切な後継者が見つからない」といった理由による廃業は、廃業予定事業者の28.4%を占めています。
この事業承継の課題が解決されなければ、中小企業が持つ貴重な技術やノウハウが失われてしまう恐れがあります。
実際、経済産業省は事業承継問題を放置した場合、近い将来に約650万人の雇用と約22兆円のGDPが失われる可能性があると試算しています。

※参考資料:株式会社日本政策金融公庫「中小企業の事業承継に関するインターネット調査(2023年調査)
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事業承継で注目されているM&Aとは

中小企業の事業承継の方法は、引き継ぐ相手によって大きく3つに分類されます。
親族内承継、従業員承継、そしてM&A(エムアンドエー)です。

M&Aとは、「Mergers(合併) and Acquisitions(買収)」の略で、株式取得や事業譲渡などを通じて第三者企業に事業を引き継ぐ「合併・買収」といった事業再編を指します。
従来、日本の中小企業では親族内承継が主流でしたが、後継者不在が深刻化するなかで、M&Aへの注目が高まっています。
実際、2022年度には5,000件を超えるM&Aが行われており(事業承継・引継ぎ支援センター経由1,681件、民間M&A支援機関経由4,036件)、中小企業におけるM&Aはもはや特殊なケースではなく、一般的な事業承継手法として定着しつつあるといえるでしょう。

M&Aの大きな特徴は、親族や従業員の中に適任者がいない場合でも、広く候補者を探せる点にあります。
また、新規事業の展開や規模拡大を目指す企業にとって、中小企業が持つ事業や技術は高い価値を持つため、M&Aが成功すれば、売り手企業と買い手企業の双方にとって望ましい経営環境が実現する可能性があります。
ただし、M&Aは経営方針が大きく変わるリスクもあるため、メリットとリスクを十分に比較検討することが欠かせません。

※参考資料:中小企業庁「事業承継を知る


M&Aで期待できるメリット
M&Aによる事業承継では、売り手企業・買い手企業にとってそれぞれ以下のようなメリットが期待できます。

売り手企業側のメリット
売り手企業における最大のメリットは、売却益の獲得です。
多くの中小企業では、創業家や役員が株式を保有していますが、上場企業のように市場で容易に売却することはできません。
しかしM&Aを通じて、事業価値に見合った金額で株式を売却すれば、まとまった資金を得ることが可能となります。
その資金を活用して引退生活を送ることも、新たなビジネスに挑戦することもできます。

買い手企業側のメリット
買い手企業にとって最大のメリットは、事業規模の拡大です。
新規事業をゼロから立ち上げる場合、軌道に乗るまで数年を要するのが一般的ですが、M&Aであれば既存の事業基盤や顧客ネットワークを一括で取得できるため、時間とリスクを大幅に削減できます。
さらに、売り手企業と買い手企業の資本や販売網を組み合わせることで、業界特性に応じた相乗効果が期待できます。
また、売り手企業が持つ優秀な人材を確保できる点も大きな魅力です。
長年培われた専門技術や業界ネットワークを持つ人材の獲得は、買い手企業の組織力強化に直結します。
加えて、同業他社を買収することで市場シェアを拡大できる点も、買い手企業にとって大きなメリットといえるでしょう。


M&Aで想定されるリスク
M&Aでは、これまで別々だった企業同士が1つになるため、売り手企業・買い手企業に共通して以下のようなリスクも存在します。

統合作業の負荷
M&A実施後は経営面、業務面など様々な領域で買い手企業と売り手企業の間のギャップの調整が必要となります。
急激な統合はシステムや従業員に混乱を与えてしまうため、段階的に数年かけて統合を進めることが一般的です。
M&Aを機に、会計システムを最新のクラウド型のERPシステムへ移行するといった業務効率化を検討することもありますが、相応のコストや負担が伴うことも考慮する必要があります。

会計上の見えない債務や想定外の法的リスクの発生
M&A成立後に、当事者すら把握していなかった簿外債務や、想定外の法的問題が発覚するケースは少なくありません。
こうしたリスクを避けるためには、M&A実行前に専門家による徹底した財務・法務デューデリジェンスを実施することが不可欠です。
さらに、売買契約書において適切な表明保証条項を設けることで、リスク発生時の責任の所在を明確にしておくことが重要となります。

企業文化の違い
買い手企業と売り手企業では、企業風土や価値観が異なることが多く、その一体化には相応の時間がかかります。
文化の違いを軽視すると、従業員の不満や離職につながる恐れがあるため、双方の企業文化を尊重しながら、粘り強く統合を進めていく姿勢が求められます。
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M&Aに関する支援制度と補助金活用法

中小企業のM&Aを支援するため、国は以下のような支援制度を整備しています。


M&Aの相談窓口
公的なM&Aの相談窓口として、全国に「事業承継・引継ぎ支援センター」が設置されています。
ここでは事業承継に関する相談を無料で受けられるだけでなく、商工会議所や税理士などの専門家と連携し、具体的なマッチング支援までサポートを受けることができます。
また、国が全国47カ所に設置している「よろず支援拠点」も有効な相談先です。
中小企業・小規模事業者の売上拡大や経営改善など幅広い経営課題に対応しており、事業承継に関しても準備段階から相談できるため、身近な窓口として活用できます。
M&Aのアドバイザーや専門家を利用する際には、「M&A支援機関登録制度」に登録されているかどうかを確認することが大切です。
この制度に登録された支援機関は、中小企業庁が定めるガイドラインの遵守を宣言しており、一定の品質保証を受けていると判断できます。

※参考資料:中小企業庁「M&A支援機関登録制度に係る登録フィナンシャル・アドバイザー及び仲介業者の公表(令和7年度公募(7月分))について
事業承継・引継ぎポータルサイト「第三者承継支援



事業承継診断
事業承継診断は、M&Aを経験したことのない企業が、自社の事業承継に関する課題を客観的に把握するためのツールです。
金融機関や商工会・商工会議所の経営指導員、税理士などの専門家による診断を受けられるほか、中小企業庁が提供する診断票を用いて自己チェックすることも可能です。
診断結果を踏まえることで、客観的な視点から事業承継に関する相談を受けられるようになり、解決すべき課題を早期かつ網羅的に特定できる点がポイントといえます。

※参考資料:中小企業庁「事業承継診断~10年先の会社を考えてみませんか?~


事業承継・引継ぎ補助金
事業承継・引継ぎ補助金は、M&Aに伴う費用負担を軽減できる代表的な補助制度のひとつです。
この制度は、事業承継やM&Aを契機とした経営革新を支援することを目的に毎年公募が行われており、2025年に実施される第12次公募では、4つの支援枠が設けられています。
概要は以下の表の通りですが、事業承継を進めるうえで欠かせない設備投資費用や、ファイナンシャルアドバイザーなど支援機関への報酬も補助対象となっています。
M&Aを具体的に検討している企業の担当者は、内容を確認しておくとよいでしょう。

支援枠 概要 補助対象経費 補助率 補助上限額
事業承継促進枠 5年以内に親族内承継または従業員承継を予定している企業を対象に、設備投資などにかかる費用を補助
  • 設備投資費用
  • 店舗・事務所の改築工事費用 など
1/2(小規模事業者の場合2/3) 800万円~1,000万円
専門家活用枠 買い手支援類型 M&Aの買い手企業を対象に、M&Aに係る専門家活用費用を補助
  • 登録機関によるFA・仲介費用
  • デューデリジェンス費用
  • 表明保証保険料 など
1/3~2/3 600万円~800万円(100億企業要件を満たす場合2,000万円)
売り手支援類型 M&Aの売り手企業を対象に、M&Aに係る専門家活用費用を補助 1/2(赤字または営業利益率の低下の場合2/3) 600万円~800万円
PMI(合併後統合)推進枠 PMI専門家活用類型 M&Aによって経営資源を引き継ぐ予定の中小企業を対象に、PMI(合併後の統合作業)に必要な専門家活用費用や設備投資費用を補助
  • 設備費
  • 外注費
  • 委託費 など
1/2 150万円
事業統合投資類型 1/2(小規模事業者の場合2/3) 800万円~1,000万円
廃業・再チャレンジ枠
※他の枠と併用可能
既存事業を廃業し、新たな事業に挑戦する予定の企業を対象に、廃業に伴う費用や再チャレンジのための費用を補助
  • 廃業支援費
  • 在庫廃棄費
  • 解体費 など
2/3、1/2
※他の枠と併用申請する場合はその枠の率に従う
150万円
※他の枠と併用申請する場合はそれぞれの補助上限に加算
※年度により補助内容・金額・要件などは変更されます。申請前に必ず最新の公募要領をご確認ください。

※参考資料:中小企業庁「中小企業生産性革命推進事業「事業承継・M&A補助金」(十二次公募)の公募要領を公表します

※本記事の内容は掲載日時点での情報です。
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中小企業の事業承継問題は、先送りできない重要課題です。
M&Aにおいて重要なのは、リスクを恐れて機会を逃すのではなく、適切なリスク管理のもとで、戦略的に活用することです。
事業承継を視野に入れている企業は、支援策をチェックしつつ、M&Aの実行を選択肢の1つとして検討してみてはいかがでしょうか。

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