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経理/財務会計処理 2025/08/19

【仕訳例付き】吸収合併も新設合併も“のれん”がカギ?会計・税務処理でつまずかないための実務チェック

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M&Aが活発化する中で、企業担当者として合併に関する会計・税務の基礎知識を身に付けておくことは重要です。
今回の記事では、吸収合併・新設合併の基本やのれんの処理、合併に関する税務処理を仕訳例とともに解説します!

吸収合併・新設合併とは

グループ会社や競合企業の競争力を高めるために会社形態を変更することを組織再編といいます。
組織再編には合併、分割、株式交換、現物分配など、様々な方法がありますが、実務でも多く採用されているのが合併です。
合併とは、企業再編などの目的で複数の企業が統合し、1つの企業が法人格を残す形で他の企業が消滅する手続きを指します。


吸収合併とは
吸収合併とは、合併によって消滅する企業のすべての権利や義務を、存続する企業が引き継ぐ手法です。
吸収合併の会計処理では、取得する側の企業が、取得される側の企業の資産や負債を時価で受け入れます。
これらの時価による評価額と取得対価の差額は、会計上、のれん、または負ののれんとなります。

吸収合併の仕訳イメージ(存続会社 のれんが発生する場合)
例:以下の条件でA社がB社を吸収合併とする。
  • B社の諸資産の時価:280,000千円
  • 諸負債の時価:65,000千円
  • 取得対価:250,000千円
借方 金額 貸方 金額
諸資産 280,000千円 諸負債 65,000千円
のれん 35,000千円 取得対価 250,000千円
※のれんは、資産負債の時価と取得対価の差額です。


新設合併とは
新設合併とは、合併によりすべての企業が消滅し、新たに設立された企業だけが残る取引を指します。
もとの企業の権利や義務は、新しくできた企業に引き継がれます。
吸収合併との違いは、新しく設立された企業が、合併後の存続会社となる点にあります。
新設合併の会計処理は、合併の性質によって「取得」か「共通支配下の取引」に分類されます。

取得の場合
新設合併後、一方の企業の株主が新設会社の議決権の過半数を持つ場合は、「取得」として会計処理を行います。
この場合の会計処理は吸収合併の場合と同様で、消滅する企業の資産・負債を合併日の時価で評価します。
合併対価と受け入れた純資産の時価評価額との差額は、のれんまたは負ののれんとして計上します。

共通支配下の取引の場合
親会社が同じ子会社同士で合併するような場合、会社形態は変わるものの最終的な株主は変わらないため、実質的には同じ株主による投資が続いていると見なされます。
そのため、資産や負債を時価評価することはなく、消滅会社の資産・負債は帳簿価額のまま新設会社に引き継がれます。
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合併で生じるのれんに関する会計処理(のれん償却と減損)

組織再編を行う場合、企業の価値とまったく同じ金額で取得されるケースは少なく、その差額としてのれんが発生することがあります。
以下では、のれんに関する会計処理を、吸収合併や新設合併で特に注意すべきポイントに絞って解説します。
なお、日本基準を採用している企業を前提とします。

※関連記事:「のれん」とは?M&Aでの事例や日本基準と国際会計基準(IFRS)の会計処理方法の違いまでかんたん解説


のれんの定額償却
のれんは会計上、効果が見込まれる期間(最長20年)にわたり、定額法で規則的に償却することとされています。
償却期間は、のれんの効果がどのくらいの期間にわたって続くかを合理的に見積もって決定します。

のれんの償却に関する仕訳のイメージ
例:A社が計上したのれんを、会計上5年で償却することとする。
  • A社が計上したのれん:35,000千円
  • 毎期ののれん償却額:7,000千円
借方 金額 貸方 金額
のれん償却費 7,000千円 のれん 7,000千円
のれん償却費は損益計算書の販売費及び一般管理費に計上されます。
のれんの帳簿価額は、これまでの償却累計額を直接控除した純額で貸借対照表の無形資産の部に表示されます。
実務上の注意点として大切なのは、償却期間の設定根拠を明確にしておくことです。
吸収合併・新設合併のいずれの場合も、償却期間は、買収した事業の将来キャッシュフロー予測、同業他社の事例、シナジー効果の持続期間などを踏まえて、総合的に判断する必要があります。
なお、税法上は5年での均等償却が義務づけられていますが、会計上は20年以内であれば任意の期間を選ぶことができます。
だからこそ、その期間設定には合理的な根拠を残す必要があります。


減損の兆候と判定基準
のれんは、固定資産の減損に係る会計基準の対象となっており、減損の兆候がある場合には、減損テストを実施する必要があります。
日本基準で、のれん減損に係る会計処理を行う場合は以下の順に対応します。

1. 減損の兆候の確認
まずは減損の兆候を確認します。
のれんを含むその事業に減損が生じる兆候としては、以下のようなケースが挙げられます。

  • 営業活動から生じる損益が継続してマイナスとなっている
  • 経営環境が著しく悪化している
合併した事業の経営状況が悪化した場合には、のれんの減損について検討する必要があります。

2. 減損テスト
減損テストでは、原則として、その事業部に属する資産グループ全体にのれんを加えた金額を用いて、減損損失を認識するかどうかを判定します。

3. 減損の認識
減損テストの結果、減損損失を認識する必要が生じた場合には、のれんを含むその事業の減損損失の計上が行われます。
減損損失を測定する際には、のれんを含む事業全体の資産について、帳簿価額と回収可能価額を比較します。
帳簿価額が回収可能価額を上回っている場合、その差額について減損損失を認識する必要があります。
減損損失はまずのれんに配分し、残額を他の資産に配分します。
なお、損益計算上では特別損失に計上されます。
このように、吸収合併・新設合併でのれんが計上される場合には、償却処理だけでなく減損処理が発生する可能性があることを留意しておきましょう。


負ののれんの発生と会計処理
負ののれんとは、取得企業が支払った対価が、取得時点における受け入れた資産から引き受けた負債を差し引いた純資産の時価を下回る場合に発生する差額を指します。
主な発生要因としては、被取得企業の財務状況の悪化、市場環境の急変、緊急売却による価格の下落、簿外債務の存在などが挙げられます。
負ののれんが発生する可能性が高い場合には、まず取得原価の配分や資産・負債の評価に誤りがないかを慎重に見直す必要があります。
実務では、これらの評価を自社内だけで行うのが難しいケースも多いため、外部のアドバイザーに依頼することも一般的です。
負ののれんが発生した際には、その金額を取得日に属する事業年度において、特別利益として損益計算書に一括計上します。
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合併に関する税務処理

税務上、合併は適格合併と非適格合併に分けられます。
どちらに該当するかで税務処理が異なるため、確認していきましょう。
なお、税務では合併で消滅する企業を被合併法人、合併後も存続する企業を合併法人といいます。


適格合併の税務処理
税務上の要件を満たす合併を適格合併といいます。
適格合併に該当する場合、合併法人は被合併法人の資産や負債を簿価のまま引き継ぐことができ、資本金や利益剰余金も被合併法人が計上していた金額分だけ増加させることになります。
また、被合併法人の繰越欠損金についても、一定の条件下で合併法人が引き継いで使用できます。
このように、適格合併では資産や負債の引き渡しが簿価で行われるため、その時点での課税は繰り延べられ、過去の税務上の赤字も条件付きで引き継げる点が大きな特徴です。

適格合併の税務仕訳イメージ(合併法人 のれんが発生する場合)
例:以下の条件にて、税務上の適格合併に該当するものとしてC社とD社が合併とする。
  • D社の諸資産の帳簿価額:210,000千円
  • 諸負債の帳簿価額:50,000千円
  • 資本金等の額の帳簿価額:160,000千円
借方 金額 貸方 金額
諸資産 210,000千円 諸負債 50,000千円
資本金等の額 160,000千円
※適格合併の場合、合併法人は被合併法人の税務上の貸借対照表をそのまま引継ぎます。

なお、適格合併の要件は、合併前の資本状況(100%の完全支配関係、支配関係、それ以外の関係)によって異なります。
共通して求められることとして、対価として金銭などを交付しないこと、合併後も継続して合併対価株式を保有し続けることなどが挙げられます。
これらの要件を満たしているかどうかの判断には税務の専門的な知識が必要となることが多いため、専門家による分析が推奨されます。


非適格合併の税務処理
非適格合併では、合併法人は被合併法人の資産や負債を時価で引き継ぐことになります。
その結果、取得対価と時価純資産との差額については、税務上ののれんに相当するものとして資産調整勘定または差額負債調整勘定が計上されます。
この差額は、原則として5年間で損金または益金として処理されます。
また、非適格合併では、被合併法人が資産や負債を合併法人に時価で売却することになるため、譲渡損益が発生したり、被合併法人が抱えていた繰越欠損金が消滅したりといったことが起こります。

非適格合併の税務仕訳イメージ(合併法人)
例:以下の条件にて、税務上の非適格合併としてE社とF社が合併とする。
  • F社の諸資産の時価:280,000千円
  • 諸負債の帳簿価額:65,000千円
  • 資本金等の額の時価:250,000千円
借方 金額 貸方 金額
諸資産 280,000千円 諸負債 65,000千円
資産調整勘定 35,000千円 資本金等の額 250,000千円
※貸借差額で資産調整勘定が35,000千円計上されます。


税務上ののれん(資産調整勘定と差額負債調整勘定)
資産調整勘定と差額負債調整勘定は、法人税法に特有の概念ですが、会計におけるのれんと似た性質を持つものです。
これらの勘定は、非適格合併により税務上で資産・負債を時価評価する必要がある場合に発生します。
資産調整勘定は、非適格合併で引き継いだ資産の時価が帳簿価額を上回る場合に、その差額を損金として5年間で均等償却するものです。
一方、差額負債調整勘定は、引き継いだ負債の時価が帳簿価額を下回る場合に発生し、その差額を益金として5年間で均等に計上します。
これらの処理は税務上、強制的に適用されます。
税務上では償却期間が5年と決められているのに対し、会計上ではのれんは20年以内の任意の期間で償却し、負ののれんは発生年度に特別利益として処理します。
そのため、会計と税務で償却額や利益の計上タイミングが異なることがあります。
この場合、法人税申告書の別表で、資産調整勘定・差額負債調整勘定の残高と償却状況を記載する必要があるため注意しましょう。

※本記事の内容は掲載日時点での情報です。
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今回の記事では、吸収合併と新設合併における会計・税務処理、またのれんに関する処理についても解説しました。
法人の合併処理は、合併時だけではなく、長期的な会計・税務・ビジネス面にも影響が生じるものです。
実際に合併の実務を行う際には、適宜、会計や税務の専門家との連携をとりながら、慎重に実行しましょう。

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