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経理/財務公認会計士の仕事術 2025/05/29

第33回 人の生産性アップにつながる原価管理①

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前回は、資料を体系化する際のポイントとして組織効率を上げる資料保存の仕組みについてご紹介しました。今回からは、人の生産性アップにつながる原価管理について説明をはじめていこうと思います。

1.はじめに

新型コロナウイルスの大流行をきっかけに働き方も大きく変わろうとしています。毎日会社に出勤して働いていた人たちも、テレワークの推進などで働く場所は会社に限られなくなりました。一方で、会社側からすると従業員の様子がつかみづらくなるといったことも起こり得ます。そうすると、従業員が何らかの壁にぶつかっていても分からないなど人の管理が難しくなり、タイムリーに助言ができずに仕事の進捗が悪くなるなど、生産性ダウンが進んでしまうことも考えられます。
そこで、今回から数回にわたり、人の生産性アップにつながる原価管理について考えてみようと思います。

2.ケースで考える 実績時間の把握

私は以前、監査法人で監査業務をしていましたが、監査法人でも原価管理は行われていました。そこでの経験も踏まえて人の生産性アップにつながる原価管理の仕組みについて考えてみようと思います。

まずは、ある監査法人での出来事を描いた次の【シーン1】をご覧ください。

【シーン1】

X監査法人は多くの監査先企業と財務諸表監査の契約を結んでおり、監査先ごとに契約額はまちまちです。監査法人に所属するメンバーは、それぞれが複数の監査先を担当しています。監査先ごとにチームのメンバーは異なり、また監査先に出向いて業務を行うこともあれば、監査法人の事務所内で業務を行うこともあります。何日も同じ監査先の業務を行う人もいれば、1日に複数の監査先の業務を並行して行う人もいるといった状況です。
X監査法人では、監査の質を重視する一方で、採算確保も軽視しておらず、全メンバーが日々の出社時間と退社時間を記録し、月1回人事総務部門に勤務の実績時間の報告を上げています。
ところがここ数カ月、勤務時間が増えてしまっており、何とか手を打たなければなりません。そこで経営者は全メンバーに対して一斉に残業削減の指示を出そうとしているのですが……

【シーン1】では、採算確保を大事にして毎月勤務の実績時間を把握しているものの、原価管理がうまくいっていない様子を描いています。実はこのX監査法人の勤務実績時間を把握する仕組みには原価管理をする上での大きな弱点があるのですが、それは何でしょうか。


勤務実績時間の把握で起こりがちな問題と、対応の仕組み
(1)実績時間の内訳がつかめない
【シーン1】では、月1回全メンバーの日々の出社と退社の時間、つまり日々の勤務時間をつかんでいるだけです。実際には各メンバーはこの1カ月の間に複数の監査先の業務を行っているのですが、現状ではどの監査先にどれだけ時間をかけているのかが全く分かりません。残業の多い人に個別的にその理由を聞くことはできるかもしれませんが、業務が多過ぎて時間がかかっているのか、ある監査先の業務の進め方に問題があって時間がかかっているのか、監査先側に帰する問題で時間がかかっているのかなども、なかなか分からないでしょう。そんな状況で【シーン1】にあったように全メンバーに対して一斉に残業削減の指示を出すと、根本的な問題が解決されないまま、仕事の質を落として無理に残業を減らそうとするなど、かえって問題を広げてしまいかねません。
何とかどの監査先にどれだけ時間をかけているのかをつかむようにしたいのですが、そのために考えられるのが、【図表1】のようなタイムシート(勤務実績表)を作成するようにすることです。このタイムシートは、メンバー一人一人が作成するもので、毎日どの監査先の業務に何時間使ったのかを記録していきます。

【図表1】タイムシートの例

(〇月前半分・メンバーA)

(単位:時間)

業務内訳 1日 2日 ・・・ 14日 15日
監査先X ・・・ XX
監査先Y ・・・ XX
・・・・・ ・・・ XX
勤務時間計 ・・・ XX


【図表1】は、月2回、前半分(1日~15日)と後半分(16日~月末)に分けて作成する例を挙げています。メンバーのAさんは、○月1日に監査先Xの業務を7時間、2日に監査先Xの業務を8時間実施したということです。また、14日については、監査先Xの業務で3時間、監査先Yの業務で6時間となっていますが、これは1日で複数の監査先の業務を実施していることを表しています。
前半分と後半分のタイムシートを合算すれば、この月1カ月分のAさんの業務時間を業務内訳別(ここでは監査先別)につかむことができます。このタイムシートは全員が作成するものなので、Aさん以外の人についても同様にして業務時間を業務内訳別につかむことができます。
なお、このようにして一人一人の業務別の業務実績時間をつかんだだけではあまり意味がなく、これをどのように活用するのかが大事なのですが、紙幅の都合上、この点についての説明は次回以降に譲ることとさせていただきます。


(2)実績時間の内訳区分の設計
実績時間の内訳をどのような区分で把握するかは、当然その後の活用に影響することになります。内訳区分が大雑把過ぎると後で使い物にならないこともあり得ますし、細か過ぎると把握や分析に手間がかかることになります。したがって、その後の活用を念頭に置いて、それに適した内訳区分を検討する必要があります。【シーン1】では監査先ごとに実績時間を記録するかたちを示していますが、監査法人の場合、通常の監査業務は1年ごとの契約で、スポット的な業務などがあれば別途契約を締結するので、実際には、原則として契約ごとに業務の実績時間を把握することになっていました。
サービス業を営む企業においても契約ごとに実績時間をつかむことを基本に、内訳区分の粗さ・細かさの具合を考慮して、適切な内訳区分を設計するようにしましょう。


(3)記録・提出のタイミング
まず、各人が自分の実績時間を記録するという点に関して言えば、日次が基本となるでしょう。たとえタイムシートの提出が半月ごとだとしても、半月分まとめて記録するということでは、当日の記憶があいまいになってしまい、正しい実績時間が記録できない恐れがありますので、できる限り当日中に記録を取っておくようにしましょう。
また、会社が各人からタイムシートを提出してもらうタイミングについては、最低でも1カ月に1回としましょう。提出が1カ月に1回に満たないようだと、その後の活用の面で大きく後退してしまうからです。必要に応じて月2回以上とすることが考えられます。ちなみに監査法人時代に私が経験したのは、月2回、前半分(1日~15日)と後半分(16日~月末)に分けて提出するパターンでした。
なお、提出は月初3営業日目までにするなど、提出期限も決めるようにしましょう。


(4)提出漏れ
タイムシートの仕組みを導入しても全員が提出しないと正しい実績時間が把握できず、場合によっては誤った実績時間に基づいて誤った判断をしてしまうことになりかねません。未提出の人がいないかを人事総務部門で必ずチェックするなど、漏れが生じないようにする必要があります。


(5)手間
例えば、タイムシートを各人が手書きで作成し、それを人事総務部門でまとめて表計算ソフトや原価管理のシステムに入力するといった仕組みも考えられますが、二度手間になりますので、できるだけ各人が実績データを入力し、そのデータを活かすようにしたほうが良いでしょう。
以上の点を考慮した結果、【シーン1】で描いたX監査法人は次のような見直しをすることになりました。

【シーン2】

各人の業務実績時間の内訳をつかめていなかったX監査法人ですが、実績時間の内訳を把握するためにタイムシートの仕組みを導入することになりました。タイムシートは各人がシステムに入力し、前半分は15日締め、後半分は月末締めで、締め日の2営業日後までに提出することとしました。タイムシートの内訳区分は監査先との契約ごとに把握することとしました。そして、未提出の人がいるとシステムでアラートが出るようにし、人事総務部門で督促をかけることにしたのです。
こうして、まずは原価管理の第一歩を踏み出すことになったのです。

ここまで見てきたように、人の生産性アップにつなげるためには、まずは実績時間をしっかりと把握することが大事であること、実績時間を把握するためにはどんな仕組み作りをしたら良いのかについて説明しました。これはどの業種であっても、また間接部門を含むどの部門であっても通じることだと思います。特に、コストに占める人件費の割合が高い企業ではこうした仕組みを設けることが効果的です。中でも、契約ごとにサービスの内容や契約金額も大きく異なるなど、契約ごとの個別性が大きい場合などには、原価を管理することによる効果が大きいと思いますので、是非参考にしてください。

3.実績時間の内訳を把握できるようにしよう

人の生産性アップにつながる原価管理の仕組み作りの第一歩として、今回は「実績時間の把握」に絞って話を進めました。実績時間については、全社合計や各人の合計をつかむことも必要でしょうが、原価管理のためにはその内訳をつかむことこそが大事です。今回、実績時間の把握に関わる諸々の問題や、そうした問題への対応としてのタイムシートの仕組み、そして関連する留意点などを説明しました。
今後、原価管理の仕組み作りを検討する上での参考にしていただければ幸いです。なお、タイムシートを使って一人一人の業務別の業務実績時間をつかんだ上で、それをどのように活用するのかという点については、次回以降に説明する予定です。

(提供:税経システム研究所)
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いかがでしたでしょうか。今回は、人の生産性アップにつながる原価管理「実績時間の把握」について説明しました。
次回は引き続き、第34回 人の生産性アップにつながる原価管理②になります。お楽しみに!
なお、このコラムの提供元である税経システム研究所については下記をご参照ください。

税経システム研究所
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