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経理/財務公認会計士の仕事術 2025/01/30

第17回 「プロセス思考」で転んでもただでは起きない(その8)

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前回に引き続き「プロセス思考」で転んでもただでは起きない仕事術をお送りします。今回は、問題が起きやすいプロセスが持つ弱点について説明しようと思います。

1.はじめに

仕事をしていく中では、時として問題が発生することもあります。問題なんて起きない方がいいのかもしれませんが、本稿を通じてご紹介している仕事術「プロセス思考」を知っていると、実際に問題が発生したとしても、そのマイナス要因を業務改善のチャンスに変えることもできるのです。
本稿ではここまで、プロセス思考のステップのうち、中盤までの3つのステップについて説明してきました。

【1stステップ】ザックリとプロセスをつかむ

【2ndステップ】起こりがちな問題のパターンを押さえておく

【3rdステップ】起こりがちな問題をプロセスと紐づける


今回は、4thステップとして、「問題が起きやすいプロセスが持つ弱点を押さえておく」ことについて説明することにします。

2.監査現場に学ぶ 問題が起きやすいプロセスが持つ弱点(その1)

ここまで説明してきた3つのステップを経た結果と、各ステップでは以下のような成果物ができあがります。

【1stステップ】ザックリとプロセスをつかむ→フローチャートと概要説明

【2ndステップ】起こりがちな問題のパターンを押さえておく→5つの問題(①もれ、②紛れ込み、③不正確、④不当判断、⑤遅延)

【3rdステップ】起こりがちな問題をプロセスと紐づける→「起こりがちな問題」と「プロセス」の対応マトリックス


このうち3rdステップに関して本稿では、仕入に関わる業務を例にして、各プロセスで発生した問題が最終的な問題(「適切な仕入計上ができない」という問題)につながってしまう状況を考え、『「起こりがちな問題」と「プロセス」の対応マトリックス』に整理してみました(第15回 『「プロセス思考」で転んでもただでは起きない(その6)』の【図表2】参照)。ここで忘れてはならないのは、個々のプロセスにおいて問題が発生するのは、プロセスに何らかの弱点があるということです。そこで今回は、プロセスが持つ弱点に着目し、問題が起きやすいプロセスはいったいどんな弱点を持っているのかを整理してみようと思います。
ここでは、第15回に整理した対応マトリックスのうち、起こりがちな問題のパターンの1つである「①もれ」の部分を使いながら考えていくことにします。

まずは対応マトリックスの「①もれ」の問題の部分を振り返ってみましょう。「①もれ」の部分のみを抜粋したのが【図表1】です。

(前提条件)
・「商品購入依頼書」(仕入に関わる業務プロセスの出発点)は適正なものが作成されたものとし、依頼どおりの発注・入荷・仕入計上ができないケースを問題として想定する。
【図表1】「発注要求」・「発注」・「入荷」・「仕入計上」のプロセスでの問題で適切な仕入計上ができない状況(「①もれ」の問題の部分のみを抜粋)


仮に、「もれ」が発生したにも関わらず、そのことに気付かないケースを思い浮かべてみましょう。こうした事態は、業務プロセスにどんな弱点があると起きやすいのか、ここでは「発注」のプロセスを例に挙げて説明することにします。
【図表1】にあるとおり、発注のプロセスでの処理は『購買部門は「商品購入依頼書」に基づいて「注文書」を作成し、仕入先に送付する』ということです。「もれ」が生じるというのは『営業部門等から提出された「商品購入依頼書」について、発注がされない』ということです。この場合、プロセスがどんな弱点を持っているのかを、私のこれまでの経験なども踏まえて考えると、大きくは次の2つに集約できると思います。

(1) 仕組みの整備に関する弱点

(2) 仕組みの運用に関する弱点


このうち今回は「(1)仕組みの整備に関する弱点」について考えることとし、「(2)仕組みの運用に関する弱点」については次回に譲りたいと思います。

(1)仕組みの整備に関する弱点
仕組みの整備に関する弱点とは何かを簡単にいうと、業務のルール(やり方)が定まっていないということです。そして、これには大きく、①ルールが定まっていない場合と、②ルールが適切でない場合とがあります。

①ルールが定まっていない
例えば、営業部門等から提出された「商品購入依頼書」に基づいて仕入先に発注するにしても、その具体的なルール(やり方)が定まっていなければ、どうしても発注もれといった問題が起きやすくなります。
ルールというと何となく格式張って聞こえますが、ここでのルールは広い意味でのルールであり、正式な規程ばかりでなく、業務を進めるためのマニュアル、さらには文書化されていなくても慣習として行われていることなども含みます。明確にしておいた方がよいことととらえることもできるでしょう。仕入業務の場合は、仕入管理の規程、仕入業務のマニュアルや手順書の他、慣習として行われているやり方などがあります。
発注業務に関わるルールの不備の例としては、以下のようなものが挙げられます。

(例)
・発注する方法(ルール)が定まっておらず、書類を使ってもいいし、メールを使ってもいいし、口頭で伝えるだけでもいいなど、各人が勝手な方法で発注しているケース
・発注する際に担当者がやるべきこと、管理者がやるべきことなどが定まっていないケース


②ルールが適切でない
ルールが定まっていたとしても、それが適切なものでない場合には、それも仕組みの整備に関する弱点といえます。とはいっても、ルールが適切でないのかどうかというのはなかなか分かりづらい面があるのも事実です。そこで、ここではルールに関する問題を5W2Hすなわち、Who、When、Where、What、Why、How、How Muchの観点を使いながら整理してみます。

・Who(人に関するルール)

・When(時期に関するルール)

・Where(場所に関するルール)(→場所の問題は想定される場面があまりないので省略)

・What(元資料に関するルール)

・How(方法に関するルール)

___________________

・Why(趣旨の考慮)

・How Much(コスト対効果の考慮)


(ⅰ)Who(人に関するルール)
ルールに関する問題の1つとして、人に関するルールの不備があります。
発注業務の場合であれば、発注を行う担当者が決まっていないといった問題です。ただ実際には、定め方がきっちりしているか否かの違いはあるにせよ、通常は何らかのかたちで発注担当者が決まっているものと思われます。このため、人に関するルールの不備が問題になるケースは少ないかもしれません。

(ⅱ)When(時期に関するルール)
ルールに関する問題の1つとして、時期に関するルールの不備があります。
発注業務の場合であれば、(営業部門等から提出された「商品購入依頼書」に基づいて、)日次で発注するとか、1週間分をまとめて翌週に発注するとか、25日までの発注要求分を毎月末までに発注するなどの、発注時期(あるいは発注期限)に関するルールが決まっていないといった問題です。

(ⅲ)What(元資料に関するルール)
ルールに関する問題の1つとして、元資料に関するルールの不備があります。Whatに関するルールは5W2Hの中でも重要性の高い項目です。発注業務の場合であれば、営業部門等から提出された「商品購入依頼書」に基づいて発注するといったように、元資料が明確になっている必要がありますが、それが明確になっていないといった問題です。また、商品購入依頼が「依頼書」といった文書によらず、メールでもメモ書きでも口頭でも何でもよいなど、ルールがあいまいになっているといった問題もあります。

(ⅳ)How(方法に関するルール)
ルールに関する問題の1つとして、方法に関するルールの不備があります。Howに関するルールは5W2Hの中でも特に重要性の高い項目です。発注業務のケースで考えてみましょう。発注は1回限りのものではなく何回も行われますし、1つの商品だけではなく様々な商品等について行われます。発注ごとに注文書の作成・提出などが行われることになり、その際にどのような方法で発注すべきかを決めておく必要が出てきます。業務プロセスの中では、各種の証憑、帳票、現物などがやり取りされますが、それらが相互に一致していることを確かめる(照合する)ことも必要です。対象項目などは企業や業務によって異なるでしょうが、方法が定まっていないと発注もれの発生に気付きにくくなります。
その他、発注は文書によるのか、メールによるのか、口頭でもよいのかとか、発注前に購買部門の責任者の承認を得る必要があるのかどうかなどが決まっていないといった場合も問題になります。

(ⅴ)Why(趣旨の考慮)
次にWhyの観点から考えてみますが、これは上述の(ⅰ)から(ⅳ)の観点とは異なる観点になります。Whyについては、ルールというよりは、ルールを決めるに当たっての考慮事項としてとらえてみてください。ルール(やり方)を決めたはいいが、いつの間にか何のためにやっていることなのか分からなくなってしまっている、このようなことにならないように何のためにやるのか(趣旨)を考慮しなければなりません。

(ⅵ)How Much(コスト対効果の考慮)
How Muchについても、ルールというよりは、ルールを決めるに当たっての考慮事項としてとらえた方がよいでしょう。できる限り問題が起こらないように、ルールを必要以上に細かく定める、手間のかかるやり方を定めるなどといったことは、コストに対する効果が見合わないかもしれません。ルールを決めるに当たっては、コスト対効果を考慮する必要があるでしょう。

3.問題が起きやすいプロセスが持つ弱点を押さえておこう

今回からは、プロセス思考の4thステップとして、「問題が起きやすいプロセスが持つ弱点を押さえておく」ことを取り上げています。問題が起きやすいプロセスにはどんな弱点があるのかを考えると、大きくは次の2つに集約できます。

(1) 仕組みの整備に関する弱点

(2) 仕組みの運用に関する弱点


このうち今回は、「(1)仕組みの整備上に関する弱点」について説明しました。そして、仕組みの整備に関する弱点は、業務のルール(やり方)が定まっていないということであり、これには、①ルールが定まっていない場合と、②ルールが適切でない場合があることを説明しました。
そして、5W2Hすなわち、Who、When、Where、What、Why、How、How Muchの観点を使って考えてみることで、ルールに関する問題があるとすると、それが見えてきたのではないかと思います。これらの観点に照らして、明確にしておいた方がよいことがないのかをチェックし、「仕組みの整備上に関する弱点」と思われるところを見つけて頂ければと思います。

(提供:税経システム研究所)
**********

いかがでしたでしょうか。今回は、問題が起きやすいプロセスが持つ弱点について説明しました。
次回は続編、第18回 「プロセス思考」で転んでもただでは起きない(その9)になります。お楽しみに!
なお、このコラムの提供元である税経システム研究所については下記をご参照ください。

税経システム研究所
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