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経営事業計画/経営計画 2023/08/22

種類株式とは?経営・資金調達に活用できる9つの株式の特徴

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種類株式は、株主の多様な要望に応えるための仕組みの1つです。
種類株式を活用して投資目的に合わせた権利を株主に与えることで、企業の資金調達を有利に進められる可能性が高まります。
今回の記事では、種類株式の権利内容や活用場面、実際の手続きなどについて解説します。

種類株式とは

種類株式とは、株主や企業の様々なニーズに応えるため、通常の株式とは異なる権利を持たせて発行される株式のことです。
資金調達の際、出資者は企業の株式を受け取って株主となります。
株主は、剰余金の配当を受ける権利や残余財産の分配を受ける権利、株主総会での議決権などを持っていますが、すべての株主がこれらの権利を望んでいるわけではありません。
企業の経営に関心はないが配当を受け取りたい株主、企業の成長に伴い議決権を保持したい株主など、株主の要望は様々です。
種類株式はこのような要望に応える際に活用されます。
なお、種類株式に対して、株主の権利が限定されない一般的な株式は普通株式と呼ばれます。

9つの種類株式

種類株式は会社法によって定められたものであり、企業が自由に内容を設定できるものではありません。
既存の株式保有者に不利益をもたらさないように、普通株式とは別に以下の9種類の権利に関してのみ設定が認められています。
種類株式 与えられている権利の概要
剰余金の配当に関する種類株式 剰余金の配当に関する設定ができる
残余財産の分配に関する種類株式 残余財産の分配に関する設定ができる
議決権制限株式 株主総会における議決権を制限することができる
譲渡制限株式 株式の譲渡について発行企業の承認を必要とする設定ができる
取得請求権付株式 株主が発行企業に株式の取得を請求できる
取得条項付株式 一定の事由を条件に、企業が株主から株式を強制的に取得できる
全部取得条項付株式 企業が種類株式のすべてを株主総会の特別決議によって取得できる
拒否権付株式(黄金株) 株主総会や取締役会での決議事項に対して、種類株主総会での決議も必要とする設定ができる
役員選解任権付株式 種類株主総会で取締役や監査役などの役員を選解任できる
この9種類の権利は組み合わせて設定することもできます。
例えば、剰余金の配当と議決権の制限を組み合わせて、配当優先議決権制限株式とすることも可能です。
ここからは、内容別に各種類株式の権利の詳細を解説します。


配当や残余財産に関するもの
剰余金の配当に関する種類株式と残余財産の分配に関する種類株式
剰余金の配当とは、事業で得た利益の一部を株主に分配することです。
また、残余財産の分配とは、企業が解散する際に、債務返済後に残る財産を株主に分配することです。
株主は、基本的に剰余金の配当と残余財産の分配を受ける権利を持っています。
ただし、種類株式を使うことで、これら2つの権利を種類株主に与えないように設計できます。


議決権に関するもの
議決権制限株式
議決権制限株式は、株主総会での議決権の行使について設定できる株式です。
例えば以下のような設定をすることができます。

  • 一部の事項について議決権を有しない
  • 一部の事項について議決権を有する
  • すべての事項について議決権を有しない(完全無議決権株式)
これは、高配当のみを目的とし議決権には興味を持たない投資家がいる場合に有効です。
また、事業承継時に新たな株主を受け入れる際、元オーナーなど特定の株主の議決権を守りたい場合にも活用できます。

拒否権付株式(黄金株)
拒否権付株式とは、株主総会や取締役会での決議事項に対して、種類株主総会での決議も必要とすることを定めた株式です。
拒否権付株式がある場合、種類株主総会で否決されれば、たとえ株主総会で可決された内容であっても無効とすることができます。
重要な議案に関して否決できる特別な株式であることから、黄金株とも呼ばれています。

役員選解任権付株式
役員選解任権付株式とは、取締役や監査役の選任を、株主総会ではなく種類株主総会で行うことを定めた株式です。
例えば、別の企業から多額の出資を受け入れた際に、オーナー側にも役員を選任する権利を残したい場合などに活用されます。
なお、選任だけでなく解任についても行うことができます。


株式の譲渡・保有に関するもの
譲渡制限株式
譲渡制限株式とは、株式の譲渡の際、発行企業の承認を必要とする設定ができる株式です。
譲渡制限株式は、ほかの種類株式と組み合わせて利用されることが多く、自社が認めた株主のみに特定の権利を与えたい場合に活用されます。

取得請求権付株式
取得請求権付株式とは、株主が発行企業に株式の取得を請求できる権利を付与した株式です。
株式の取得請求に備えて、企業は金銭や他の株式など、対価として株主に交付するものを決めておく必要があります。
ただし株式の取得請求はいつでもできるわけではなく、種類株式の発行にあたって設定された条件や、取得請求時の企業の分配可能額の状況によって左右されます。

取得条項付株式
取得請求権付株式とは逆に、企業が一定の事由を条件に株主から株式を取得できる権利を付与した株式を取得条項付株式といいます。
この設定をする場合、企業が株式を取得する条件・取得予定日・対価の種類などを定款に記載しておく必要があります。

全部取得条項付株式
企業が種類株式のすべてを株主総会の特別決議によって取得できる株式を全部取得条項付株式といいます。
株主総会の特別決議を得ることができれば取得には条件が課されないため、反対する株主に対しては公正な価格で株式の買い取りを請求する権利(買取請求権)が認められています。

種類株式が活用される場面と手続き

種類株式は株式の魅力を向上させたい時や、事業承継の際に活用されることが多くあります。


株式の魅力向上
種類株式は株主に様々な権利を与えることができるため、株式の魅力を高めることができます。
ただし、他の株式と比較してあまりに有利な種類株式を発行すると、既存の株主から反発を受ける可能性があるので注意が必要です。


事業承継での株主間の権利の調整
取得請求権付株式、拒否権付株式、役員選解任権付株式などは、株主の企業に対する権利をより強くするものです。
反対に、議決権制限株式や譲渡制限株式、取得条項付株式は、株主の権利に一定の制限を課すものとなります。
事業承継時はオーナーが後継者に企業を引き渡しますが、オーナーは代表を退任してもその企業の種類株式を保有しているケースがあります。
これは、後継者の経営状況が芳しくない場合や、事業の方向性が当初約束していたものと異なる場合に、元オーナーにも一定の権利を残しておくための対策です。
例えば、事業承継の際に、オーナーには拒否権付株式など株主側の権利をより強くした株式を、後継者には取得条項付株式など権利を制限した株式を付与することで、バランスを調整することができます。


種類株式を新たに発行する場合の手続き
種類株式を発行する際は、権利内容や発行可能種類株式などの情報を記載した募集事項を定めたうえで、定款を変更する必要があります。
この手続きにあたって、株主総会の特別決議または取締役会の決議が必要になります。

※既に種類株式を発行している状況で新たな種類株式を発行する際、種類株式総会の決議が必要と定められている場合には、種類株主総会の決議も必要になります。

募集事項の決定後、募集事項の通知を行って出資者を募り、引き受けの申し込みがあった場合は、申込者に対する割当を取締役会で決議します。
企業は、決定した割当について申込者が納得し出資が行われたことを確認したうえで、法務局へ登記申請を行うとともに、種類株式を発行します。
以上が種類株式を発行する際の一連の手続きです。


種類株式発行時の会計処理
種類株式は普通株式と同様の会計処理を行います。
したがって、種類株式の払い込みがあった場合には、普通株式と同じように資本金や資本準備金を計上することになります。
借方 金額 貸方 金額
現預金 ××× 資本金 ×××
資本準備金 ×××
また、貸借対照表についても、種類株式と普通株式を区別して表示する必要はありません。
通常の株式と同様に、株主から払い込みを受けた分の金額を増加させます。
ただし、種類株主とのやり取りが発生した場合に備えて、最低限、種類株式ごとの発行数や優先する権利の内容を社内で取り決めて、管理しておくことが重要です。

※本記事の内容は掲載日時点での情報です。
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種類株式は、株主や企業の多様な要望に応えるための手法の1つです。
紹介した種類株式の権利は組み合わせて複数設定することができ、その組み合わせ次第で株式の魅力向上や株主間での権利の調整が可能となることを覚えておいてください。

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