2020年10月から年末調整手続の電子化が本格化します。いち早く年末調整申告のクラウド化・スマートフォン対応に取り組んだ企業の事例から、そのメリットをご紹介します。
2020年10月から年末調整手続の電子化がスタート
年末調整と耳にすれば、思わず憂鬱な気分になってしまう人事・総務部門の皆さんも多いことでしょう。面倒な作業の多い年末調整業務は、手間・時間・コストのかかる仕事の代表格。人事・総務部門としては、なんとかして業務効率化を図りたい部分です。
そのような要請に応える形で、国税庁の主導により、2020年10月から年末調整手続の電子化がスタートします。これによって、申告をする従業員にとっても、それを処理する人事・総務部門にとっても、大幅な業務効率化が可能になると見込まれています。
電子化の具体的な内容としては、
- 控除証明書等を従業員がデータで取得できるようになる
- 従業員はそのデータを年末調整のソフトに取り込んで申告書をデータで作成できる
- 控除額が自動計算された保険料控除申告書等を勤務先にデータで提供できる
- 勤務先は提供されたデータをもとに年税額を自動計算し、提供されたデータを保管できる
となっており、証明書や申告書を紙文書ではなく「データとして」取得、作成、利用、保管できることが大きなポイントとなっています。
それでは、年末調整に関わる各種証明書や申告書を「データとして」扱うようになると、実際にどんなメリットがもたらされるのでしょうか。
今回ご紹介するG社は、業務用映像機器の販売会社です。全国数カ所に営業拠点を展開しており、営業職の従業員数が多いため、年末調整業務には毎年苦労していたとのこと。年末調整申告を電子化・クラウド化することによって、人事・総務部門の業務がどう変わったのか。G社総務部人事課のS原課長にお話をうかがいました。
管理部門のテレワーク化も見据えて年末調整業務をクラウド化
企業が広告・販促媒体としてビデオ映像を当たり前のように利用するようになり、業務用映像機器の需要は大きく広がっています。そのため、G社の営業スタッフはつねに忙しく、ほとんどの勤務時間を客先や現場への外出、出張、出向に費やしているとS原課長は指摘します。
「このような状況ですから、毎年、年末調整は人事課の大きな負担となっていました。配布や回収の手間もありますが、記入ミスや計算ミスが多いので、提出してもらった申告書のチェックと検算が大変でした。間違いがあれば差し戻して書き直してもらうのですが、年末調整の時期は営業部門も忙しいですから対応に気を遣いますし、提出遅れも少なくありません」
「年末調整の申告書は書き方や計算の仕方がわかりにくいのも昔からの問題で、従業員からの問い合わせに対応するのも大きな負担になっていました」
さらには、紙の申告書の場合、そのデータを給与システムに手入力しなければならず、入力ミスがないように細心の注意を払っていたとのこと。
「こうした状況を少しでも改善するために、年末調整業務の進捗管理を表計算ソフトで行うようにしたのですが、結局は進捗状況を手入力で更新しなければならず、かえって業務が増えてしまいました。更新忘れで混乱することも少なくありません」
一方、働き方改革に積極的に取り組んでいるG社では、経理、人事、総務などの管理部門についてもテレワーク化を推進しています。
「これはBCPを考慮した取り組みでもあるのですが、オフィスでも外出先でも在宅でも同じように仕事ができるよう、業務の電子化、システムのクラウド化を進めています。今回は、人事部門のテレワーク体制づくりの一環という側面もあって、年末調整業務を電子化・クラウド化することになりました」と、S原課長は述べています。
年末調整の各種申告書類をスマートフォンで作成可能に
年末調整業務の電子化・クラウド化には、大きく2つの側面があります。ひとつは、これまで紙文書でやりとりされていた申告書等を電子データ化すること。もうひとつは、いつでもどこでもインターネット経由で申告書を作成できるようにすることです。
「ざっくりとした言い方をすれば、従業員がスマートフォンで年末調整の申告書を作成できるようにした、ということですね。例えば、仕事のスキマ時間や移動中など、従業員の好きな時に申告書類を作成できますから、忙しい営業スタッフには最適なシステムと言えます。もちろん、PCでの入力も可能です」
S原課長は、入力画面のわかりやすさも高く評価しています。
「使い慣れたスマートフォンの画面で、ガイダンスに従って入力していくだけで申告書を作成できます。ヘルプ機能も充実しているので、誰でも簡単に入力できるのが良いですね」
「給与システムと連携して、あらかじめ社員情報を取り込んでおくことができますし、前年度の入力データも流用できるので、入力しなければならない項目は紙の申告書よりもずっと少ないですね。従業員の負担は大幅に減っているはずです」
「申告書に添付する証明書も、スマートフォンのカメラで撮影して、その画像を申告書と一緒にアップロードすることができます。人事課では、証明書の画像を見ながら原本が届く前に内容をチェックできる、というわけです」
従業員の反応も好意的で、導入してから大きなクレームやトラブルはないとS原課長は語ってくださいました。
人事・総務部門の業務負荷も大幅に軽減
年末調整業務の電子化・クラウド化は、人事・総務部門にも大きなメリットをもたらします。
「一番大きなメリットは、わかりやすい入力画面のおかげで、従業員の入力ミスや入力モレ、計算ミスなどが減ったことですね。手間と時間のかかっていたチェックや検算が非常に楽になりましたし、差し戻しの件数も少なくなりました」と、S原課長は述べています。
「ガイダンスやヘルプ機能が充実しているので、従業員からの問い合わせも大幅に減っています。スキマ時間を活用してスマートフォンで申告書を作成できるため、提出遅れも目に見えて減りましたね。忙しい営業スタッフを催促する必要がないのは、正直、気が楽です」
申告書の作成状況や提出状況も、わかりやすいダッシュボードで簡単に一覧できるようになったとのこと。
「表計算ソフトでの手動管理とは異なり、各従業員の進捗状況がリアルタイムで自動集計されるので、人事課では一切更新する必要がありません。催促メールも修正依頼もボタンひとつでできるのが良いですね」
給与システムとデータ連携できるので、申告書のデータを手打ちで再入力する必要もなくなったと言います。
「テレワークという視点で言えば、クラウドシステムなので、PCとインターネット環境さえあればいつでもどこでも申告書のチェックや進捗管理ができるようになりました」
管理部門にテレワーク制度を導入するのであれば、業務システムのクラウド化は必要不可欠になりつつあると、S原氏は指摘します。
業務の電子化・クラウド化はコスト面でも大きなメリット
年末調整業務の電子化・クラウド化で業務効率化とテレワークの推進を実現したG社ですが、コスト面でのメリットも見逃せないと、S原課長は指摘します。
「紙文書で年末調整の申告書を作成する場合、人事課のスタッフを動かす人件費、用紙代やコピー費用、申告書を配布・回収する際の発送費、7年間の書類保管費など、結構なコストがかかります。これを電子化すれば、人件費だけでも4〜5割ぐらいは削減できます」
また、クラウドサービスならではのコストメリットも大きいとのこと。
「クラウドサービスなので、サーバー設置などにかかる大きな初期投資が不要です。従業員一人当たりの月額費用が手頃なのも良いですね。当社の場合は一度に全社で導入してしまいましたが、従業員の勤務状況などに合わせて、例えば、営業部門のみ導入するとか、在宅ワーカーのみ導入するとか、限定的な導入やスモールスタートが可能なのも魅力だと思います」
S原課長は、2020年10月からの年末調整手続電子化にも期待を寄せています。
「年末調整手続の電子化では、保険会社などから発行される控除証明書等を従業員がデータで受け取ることができます。そのデータを年末調整システムに読み込むことができれば、従業員が手入力する項目がさらに減って、原本提出の必要がなくなり、さらなる利便性の向上、入力ミスの削減、業務効率の向上を図れるはずです」
最後にS原課長は、「年末調整業務の電子化・クラウド化は、従業員にとっても人事部門にとっても大きなメリットがあります。導入ハードルもそれほど高くありませんから、早めの導入をおすすめします」と締めくくってくださいました。