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経理/財務公認会計士の仕事術 2025/11/19

第57回 実地棚卸から学ぶ、経理の心得(10)

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前回は、「実地棚卸」の在庫絡みでカウント作業においての連番管理とその効果に着目しながらしました。今回は、カウント結果に操作を加えるパターンの不正に着目しながらお話を進めたいと思います。

1.はじめに

今回も引き続き、実地棚卸を題材に、不正が起こりやすいケースにおける問題点や対処法、そこから学べる経理の心得について話を進めています。

2.ケースで考える ~実地棚卸に関わる不正からの学び(その5)

第54回では、実地棚卸に関連したいくつかの不正の例を挙げた上で、主としてどの段階で行われる不正なのかという観点で次の(1)から(3)のように整理しました。
(1)から(3)の段階ごとに、どんな状況だと不正が起きやすいのか、それに対してどう対処したら良いのかなどについて話を進めており、(1)と(2)については前回までに説明済みですので、今回は(3)について説明します。

【図表1】実地棚卸の段階ごとの不正の例

(1)実地棚卸前、在庫自体に操作を加えるパターン(第54回にて検討済)

  • サンプル品・預かり品など、在庫でないものを在庫に含める(①)

(2)実地棚卸中、カウントに操作を加えるパターン(第55回第56回にて検討済)

  • 実地棚卸でのカウントの際に、現物の数量よりも多い数量を記入する(②)
  • 意図的に同じ商品をダブルカウントする(③)
  • カウントの単位(個、Kg、1箱の入り数など)を操作する(④)
  • タグ方式を採用している場合に、架空のタグを追加する(⑤)

(3)実地棚卸後、カウント結果に操作を加えるパターン(今回検討)

  • 実地棚卸の際にタグに記入した実地棚卸数量を、事後修正する(⑥)
(3)実地棚卸後、カウント結果に操作を加えるパターンの不正
上記⑥の不正は、「実地棚卸後、カウント結果に操作を加えるパターン」に分類できます。⑥の不正が行われると、カウント実施者が適切にカウントを実施したとしても、それが無効となってしまいかねません。
ここで【シーン1】をご覧ください。

【シーン1】

ある営業チームは、期末が目前に迫っているにも関わらず、売上・利益のノルマ達成が厳しい状況にあり、営業担当たちの中には密かに実地棚卸での在庫水増しによって利益を水増ししようと画策している者もいるようです。

G社の営業担当Zも在庫の水増しをしようと企んでいる1人で、「翌期に入ってから、カウント結果が誤っていたとして、カウント結果を管理している管理部にその旨を伝える」という在庫水増し策を考えました。そして翌期に入り、これを実行に移したのです。

営業担当Z「商品Aは実地棚卸時に100個としてカウントしていたんですが、50個分のカウントがもれていたことが分かりました。本当は150個でしたので、150個に修正してください。すいませんでした。」

営業担当Zは、これ以外の商品についても、適当な理由を付けてカウント済みのタグの数量を管理部に頼んで事後修正してもらいました。この修正の際に、管理部の担当者からは特にその詳細を尋ねられることもありませんでした。

当該不正が起きやすい状況と対処法
私が監査現場で経験してきたことも踏まえて考えてみると、当該不正が起きやすい状況として以下のようなことが挙げられます。

カウントの記録が修正しやすい状態になっている場合

①記録を自身で修正することによる不正

不正が起きやすい状況というのは、カウント時の記録を自身で修正しやすい状態(改ざんしやすい状態)になっている場合です。例えば、一覧表やタグへの記入が鉛筆書きでも良いケースはその1つです。この場合は、一旦鉛筆で一覧表やタグに記入されたカウント結果を、隙を見て書き直してしまってもその痕跡が分かりにくいため、改ざんがしやすい状態と言えます。
また、誰でもアクセスできるようなところに実地棚卸のカウント結果(一覧表やタグ)が放置されているケースも改ざんしやすい状態の1つです。その場合は、カウントの記録を改ざんする機会がいくらでもあるので、改ざんしようと思えば容易に改ざんができてしまいます。
記録の改ざんによる不正を行われにくくするには、鉛筆書きなどの改ざんが容易な記録は止め、ペンなどでの記録をルール化することが考えられます。また、カウント結果を記録した一覧表やタグの保管責任者を明確にし、その者の管理下に置くことが考えられます。
なお、今は手書きではなくシステムを導入している企業も多いかと思います。そういう場合でも、システムの利用権限等の設定をしていなかったり、アクセスログや修正履歴などが残らなかったりという状況であれば、やはり記録の改ざんによる不正が行われるリスクが高くなりますので、その辺りへの対処もしておく必要があるでしょう。

②記録を他者に依頼して修正することによる不正

上記①はカウントの記録そのものを自身で修正してしまうケースですが、別の方法でカウントの記録が修正されてしまうこともあり得ます。【シーン1】では、実地棚卸時に100個としてカウントした商品Aを150個に修正して欲しいなど、営業担当からカウント数量の事後修正を依頼された管理部担当者が、それに対して何の疑問も持つことなく修正に応じてしまっている様子が描かれています。カウント結果を厳しく管理すべき部署が、カウント結果の事後修正の依頼を簡単に認めてしまっているわけです。
実はこれは実地棚卸そのものの意義を失いかねない危険な状況です。実地棚卸時のカウントが適切であれば数量は確定しているはずなので、事後的な修正を認めるのは例外中の例外であると認識する必要があります。中には本当に実地棚卸時のカウントに問題があり、正しい数量に事後修正する必要がある場合もあります。ただし、その場合には、カウント結果の事後修正のルールを作り、正式なルートで修正依頼をし、管理部でも当該修正に問題がないかをチェックすることが必要です。カウントがもれていたというのであれば、その現物や関連証憑などを通じて改めて在庫の存在をチェックしたり、どうして実地棚卸時にカウント誤りが生じてしまったのかを調査したりと、厳しい対応が必要になると考えられます。

カウント結果が正しく帳簿在庫に反映されたかを全くチェックしていない場合
上記①や②は、カウント結果の記録の方を修正するタイプの不正です。しかし、カウント結果の記録自体を修正しなくても、カウント結果の記録がそのとおりに帳簿に反映されなければ、不正が行われてしまいます。ここではそうした不正についても少し触れておくことにします。
仮にカウント結果が正しく帳簿在庫に反映されたかを全くチェックしていないとすると、カウント結果の記録と異なる数量で帳簿に反映させるといった操作もできてしまいます。
実地棚卸のカウント結果(一覧表やタグ)の記録どおりに帳簿に反映されなければ、いくら実地棚卸で正しくカウントしても無意味になってしまいかねません。帳簿への反映という最終段階でも不正が行われるリスクがありますので、経理パーソンの方々は注意を払う必要があります。
経理部門に限らず、どの部署でも一緒ですが、入力元資料と入力結果とが一致していることは、何かしらの方法でチェックする必要があります。この点に関しては、自己チェックと他者チェック、二重チェックやクロスチェック、予防チェックと発見チェック、手作業とITの活用等々、本稿を通じて適宜触れてきたところですので、今回は説明を割愛させて頂こうと思います。

以上見てきたように、実地棚卸後でも、カウントの記録が修正しやすい状態になっている場合や、カウント結果が正しく帳簿在庫に反映されたかを全くチェックしていない場合などは、事後的な操作による不正が行われかねないことが分かりました。
こうした事後的に行われる操作の問題は、実地棚卸に限らず、他のさまざまな業務を行う際にも当てはまることで、経理パーソンの方々には意識して頂きたい点です。
事後的な操作に関する問題に対処するには、特に次のようなことをポイントとして挙げることができます。

  • 記録が改ざんされやすい状況に注意を払う
  • 事後修正の依頼には厳密に対処する
  • 入力元資料どおりに入力されたかに注意を払う
これらを踏まえて、経理の心得として以下の点を挙げたいと思います。
経理の心得15 事後的な操作の可能性に注意を払う

3.おわりに ~事後的な操作の可能性を意識しよう

今回は、実地棚卸を題材に、在庫絡みで起こりやすい不正のパターンの中から、「(3)実地棚卸後、カウント結果に操作を加えるパターン」にスポットを当てて、問題点と対処法を考えてみました。
ここまで5回にわたり、実地棚卸に関わる不正からの学びについて説明してきました。実地棚卸にはいろいろな局面で不正が行われるリスクが高いことを確認するとともに、行われやすい具体的な不正の例や対処法などを取り上げてきました。リスクが高い分、そこから学ぶことができる対処法もいろいろあり、経理パーソンの方々の心得になる点も多かったことと思います。是非、経理パーソンの方々には、ご自身の業務の参考にして頂ければ幸いです。

(提供:税経システム研究所)
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いかがでしたでしょうか。 第53回から、5回にわたって「実地棚卸」の在庫絡みで起こりやすい不正に着目しながら考えてみました。
次回は、第58回 連結財務諸表から学ぶ、個別財務諸表の罠(上)になります。お楽しみに!
なお、このコラムの提供元である税経システム研究所については下記をご参照ください。

税経システム研究所
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