「原価管理①」では、人の生産性アップにつながる原価管理の仕組み作りの第一歩として、「実績時間の把握」に絞って話を進めました。
「原価管理②~③」では、実績時間を把握した後のステップである、「実績時間の分析」に話を進め、実績時間が多いのか少ないのかを判断するためのモノサシが必要であること、そして、モノサシの一つとして計画値を挙げ、タイムリーかつ効率的に分析するための仕組みについても説明しました。
今回は、実績時間の分析から対応策を検討する際に気を付けたいポイントについて考えてみようと思います。
2.ケースで考える ~実績時間の分析から対応策を検討する際に気を付けたいポイント
それでは、私が以前、監査業務をしていた際に経験した監査法人における原価管理も踏まえて、人の生産性アップにつながる原価管理の仕組みについて、引き続き考えていこうと思います。まずは、ある監査法人での出来事を描いた次の【シーン1】をご覧ください。舞台となっているX監査法人は前回以前と同じです。その業務の概要や抱えている問題については、前回以前の各シーンをご参照ください。
【シーン1】
X監査法人の監査先の一つであるT社にかかる監査チームでは、業務実績時間が計画時間を相当程度超過していることが分かりました。そのため、実績時間超過の原因を調査したところ、次の【ケース1】・【ケース2】・【ケース3】の状況であったことが確認できました。
監査チームの現場主任は、時間超過の見られたスタッフ個人に残業時間を削減するよう注意喚起しましたが、その後、当該スタッフは急いで業務を進めたために業務の質が低下し、業務の手戻りが生じることとなりました。結果として、時間削減にはつながらなかったのです。
監査チームの現場主任は、時間超過の見られたスタッフ個人に残業時間を削減するよう注意喚起しましたが、その後、当該スタッフは急いで業務を進めたために業務の質が低下し、業務の手戻りが生じることとなりました。結果として、時間削減にはつながらなかったのです。
【ケース1】手待ち時間の発生
スタッフAは、資料提出やヒアリングの依頼を予め監査先への訪問前に行っていたことで監査先での業務がスムーズに進みました。
一方スタッフBは、監査先に訪問してから監査先に資料提出を依頼したところ、自分の担当する勘定科目に関わる資料がなかなか提出されませんでした。また、監査先に訪問してから担当者にヒアリングを依頼したところ、うまく日程が調整できず、ヒアリングできるまでに日数がかかってしまいました。これらの手待ち時間の発生により、予定していた時間内に業務を終えることができませんでした。
一方スタッフBは、監査先に訪問してから監査先に資料提出を依頼したところ、自分の担当する勘定科目に関わる資料がなかなか提出されませんでした。また、監査先に訪問してから担当者にヒアリングを依頼したところ、うまく日程が調整できず、ヒアリングできるまでに日数がかかってしまいました。これらの手待ち時間の発生により、予定していた時間内に業務を終えることができませんでした。
【ケース1】のような状況になったとき、それをスタッフ個人のやり方の問題としてとらえてしまいがちですが、それでは対応策を考えても効果は限定的なものにとどまってしまいます。では、今回の問題をチームの問題としてとらえるとどうなるでしょうか。監査先への資料準備やヒアリング日程調整など、監査時間に大きく影響しかねない問題について、できる限り事前に行うようチームとして徹底できていなかったととらえることができます。誰でも同じようにできる仕組みや体制が整っていないという、組織の問題として考えるべきなのです。このようにとらえて、今後の対応策をチーム全体で検討します。例えば、事前依頼できる資料やヒアリングが必要なところの洗い出しをし、事前に余裕を持って監査先にまとめて依頼したり、日程調整したりと、監査先への訪問前に済ませておけることは済ませておく体制を整えるのです。そうすれば、他のスタッフも含めて同様の問題が発生するのを避けることができるようになります。
【ケース2】検証時間が過大
スタッフAは、監査先の業務についての予備知識を十分持っており、検証業務がスムーズに進みました。
一方スタッフBは、監査先の業務についての予備知識が不足するなどのため、検証業務自体が通常より遅くなりがちでした。また、スタッフBは他の先輩スタッフが残業していたため、それに合わせて自分も残業ベースで仕事をしていました。
一方スタッフBは、監査先の業務についての予備知識が不足するなどのため、検証業務自体が通常より遅くなりがちでした。また、スタッフBは他の先輩スタッフが残業していたため、それに合わせて自分も残業ベースで仕事をしていました。
【ケース2】のような状況になったときも、それをスタッフ個人のスキルの問題としてとらえて対応策を考えると、やはり効果は限定的なものにとどまってしまいます。これもチームの問題としてとらえれば、見え方は変わってきます。
スタッフの予備知識の不足をカバーすべく、監査先の業務のポイントや検証の進め方について、先輩スタッフ等により十分な説明が行われる体制になっていなかったとか、割り当てた業務について通常どのくらいの時間内で完了するものかをスタッフに伝える体制になっていなかったとか、当該スタッフの業務の進捗を現場主任等が確認してフォローする体制になっていなかったといった具合です。このような体制を見直すことで、同様の問題が発生するのを避けることができるようになります。
【ケース3】イレギュラーな取引
監査先が期中にイレギュラーで非常に重要性のある販売取引を行ったことから、販売取引の検証を担当したスタッフAは検証に時間がかかってしまいました。ただし、スタッフAは検証に時間がかかりそうなことを現場主任に伝えていました。
一方、購買取引についても同様のイレギュラーな取引があり、購買取引の検証を担当したスタッフBは検証に時間がかかりましたが、検証途中や検証後に現場主任に何も伝えませんでした。
一方、購買取引についても同様のイレギュラーな取引があり、購買取引の検証を担当したスタッフBは検証に時間がかかりましたが、検証途中や検証後に現場主任に何も伝えませんでした。
その結果、イレギュラーな販売取引の影響で当初の想定よりも検証に時間がかかりそうであることを、現場主任は監査先に伝えましたが、購買取引に関しては特に何も伝えませんでした。
【ケース1】や【ケース2】にある業務実績時間の過大発生に関しては、監査チーム側の業務の見直しなどを行うことで、今後の業務時間の発生を抑えることもできそうです。一方、【ケース3】における業務時間の過大発生はこれとは異なる性格のものです。
【ケース3】の場合は、計画時には想定していなかったイレギュラーな取引を監査先が行ったことで、必要かつ十分な検証を行うためにはどうしても計画よりも時間を要することになったという状況です。このケースでは、計画時間を超過しそうだから検証の質を下げるというのでは本末転倒であり、実績時間が計画時間を超過したことは問題ではありません。むしろ、このケースでは、「監査先が期中にイレギュラーで非常に重要性のある販売取引や購買取引を行った」ことで、当初想定していなかった検証時間がどうしても必要になったということで、例えば、監査先との間で報酬の追加について別途協議をするなど、【ケース1】や【ケース2】とは異なる対応策をとることが考えられます。
このケースではスタッフが現場主任にこうした状況を伝えていたかどうか、そして、監査先に伝えていたかどうかで、報酬の追加に関する協議がスムーズにいくかどうかに違いが出てきかねません。ただし、現場主任への伝達の良否というスタッフ個人の問題としてとらえて対応策を考えると、やはり効果は限定的なものにとどまってしまいます。これもイレギュラーな状況の発生についてチーム内で共有する必要があるといった、チームの問題としてとらえて対応策を考える必要があるでしょう。
以上見てきたように、チーム内で実績時間超過の問題を分析し、対応を検討する際には、一個人の問題としてとらえず、チーム(組織)の問題としてとらえるという視点が大切です。また、対応策は、今後の実績時間を減らす方向のものに限られません。無理に実績時間を減らすのではなく、別の方向での対応も検討できることを念頭に置くと良いでしょう。
これらは実績時間の分析から対応策を検討する際に気を付けたいポイントの一部ではありますが、これらのポイントを考慮した結果、【シーン1】で描いたX監査法人では次のような見直しをすることになりました。
【シーン2】
X監査法人では、定期的に各監査チームにおける業務実績時間の計画時間超過状況をウォッチし、超過が大きい場合は当該監査チームの現場主任にその原因分析とその後の対応策を提示させるようにしました。
各監査チームにおいて計画時間超過の原因分析とその後の対応策を検討する際は、スタッフ個人の問題で片づけることなく、基本的に監査チームなどの組織の問題としてとらえるようにしました。
その結果、業務の手戻りが生じることなく時間削減につなげられるなど、より適切に対応することができるようになり、効果が現れ始めたのでした。
各監査チームにおいて計画時間超過の原因分析とその後の対応策を検討する際は、スタッフ個人の問題で片づけることなく、基本的に監査チームなどの組織の問題としてとらえるようにしました。
その結果、業務の手戻りが生じることなく時間削減につなげられるなど、より適切に対応することができるようになり、効果が現れ始めたのでした。
3.実績時間の分析から対応策を検討しよう
人の生産性アップにつながる原価管理の仕組み作りのうち、1回目では「実績時間の把握」について、2~3回目では「実績時間の分析」について、例を挙げながら説明しました。そして今回は、実績時間の分析から対応策を検討する際の参考となるよう、起こりがちな問題と対応策について3つのケースを使って説明しました。その中では、対応を検討する際には、一個人の問題としてとらえず、チーム(組織)の問題としてとらえるという視点が大切であることを強調しました。
今後、原価管理の仕組み作りを検討する上での参考にしていただければ幸いです。
(提供:税経システム研究所)