「原価管理①」では、人の生産性アップにつながる原価管理の仕組み作りの第一歩として、「実績時間の把握」に絞って話を進めました。実績時間については、全社合計や各人の合計をつかむことも必要でしょうが、原価管理のためにはその内訳をつかむことこそが大事です。そこで、実績時間の把握に関わる諸々の問題や、そうした問題への対応としてのタイムシートの仕組み、そして関連する留意点などを説明しました。
「原価管理②」では、実績時間を把握した後のステップである、「実績時間の分析」に話を進め、実績時間が多いのか少ないのかを判断するためのモノサシが必要であること、そして、モノサシの一つとして計画値を挙げて説明しました。
今回は、「実績時間の分析」のうち、前回十分に説明し切れなかった部分として、タイムリーかつ効率的に分析するための仕組みについて補足説明させて頂きます。
2.ケースで考える タイムリーかつ効率的に分析するための仕組み
それでは、私が以前、監査法人で監査業務をしていた際に経験した監査法人における原価管理も踏まえて、人の生産性アップにつながる原価管理の仕組みについて、引き続き考えていこうと思います。まずは、ある監査法人での出来事を描いた次の【シーン1】をご覧ください。舞台となっているX監査法人は前々回・前回と同じです。その業務の概要や抱えている問題については、前々回の【シーン1】・【シーン2】をご参照ください。
【シーン1】
X監査法人ではどこかに生産性の悪い部分があるようで、業務時間合計が増えて採算が悪化してしまっています。何とか手を打たなければならない状況で、原価管理に踏み出すことになり、各人がタイムシートを作成することにした結果、誰がどの監査先でどのくらい時間を使っているのかが分かるようになりました。また、X監査法人では、監査先ごとに、年間業務時間合計がどれくらいになるか業務開始前に計画を立てることにしました。これにより、年間計画時間合計と実績時間とを比較し、実績時間が年間計画時間合計を一定割合超過した監査先をピックアップし、その後の状況をウォッチすることにしました。
しかし、既にほとんどの業務は終了間近で、思ったように業務時間の削減につながらなかったのです。
しかし、既にほとんどの業務は終了間近で、思ったように業務時間の削減につながらなかったのです。
【シーン1】で描いたのは、分析のタイミングが遅過ぎて、結果的に業務時間の削減ができなかった様子です。これは、せっかく業務実績時間をつかめるようになったにもかかわらず、その分析がうまくいっていないことを示しています。
そこで、実績時間の分析をタイムリーかつ効率的に実施するための仕組みについて考えてみることにします。
①分析のタイミングを遅らせない仕組み
業務時間がかかり過ぎていないかという問題を早め早めにつかもうとした場合、計画時間と実績時間の比較がタイムリーに実施できるかがポイントになってきます。仮に、当該業務で最終的に合計どれだけの時間がかかるかを計画していたとして、業務の途中で実績時間がこの計画時間の合計を超えたときに初めて問題として認識するとしたら、通常は既に業務の終盤に差し掛かっていることが多く、その後に挽回しようとしてもなかなか難しいものがあります。そうならないためには、途中途中の段階で、実績時間がかかり過ぎていないかをチェックすることです。一つの方法としては、計画時間に対する実績時間の割合を出して、計画時間の何%の時間を既に使ったのかをチェックする方法です。例えば、全体の4割しか業務が進んでいないのに、業務時間が既に6割もかかってしまっているとしたら、時間がかかり過ぎている可能性が高く、早急に対策を講じる必要があるでしょう。
別の方法としては、計画を立てる際に、どの段階でどれだけの時間がかかるかまでブレイクダウンしたものにしておく方法があります。前回簡単に触れましたが、計画値が月別にブレイクダウンされていれば、月ごとに計画時間と実績時間との比較が可能です。今回はこれを、数値例を使いながら説明しましょう。
【図表1】月別業務時間をベースとした、計画と実績の比較
監査先:T社
(単位:時間)
4月 | 5月 | 6月 | ・・・ | 2月 | 3月 | 合計 | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
単月 | 実績時間 | 11 | 52 | 58 | ||||
計画時間 | 10 | 50 | 40 | ・・・ | 60 | 20 | 300 | |
差異 | 1 | 2 | 18 | |||||
累計 | 実績時間 | 11 | 63 | 121 | ||||
計画時間 | 10 | 60 | 100 | ・・・ | 220 | 280 | 300 | |
差異 | 1 | 3 | 21 |
【図表1】のとおり、監査先T社の監査業務にかかる業務時間の計画(合計300時間)を、月別までブレイクダウンして立てているとしましょう(上段は単月、下段は累計)。仮に直近月が6月だとして、6月が終了した段階で各人がタイムシートを作成すると、6月までの監査先T社の業務に関する計画時間と実績時間について、どのような比較ができるでしょうか。6月までにかかるはずの計画時間累計と、かかった実績時間累計の比較ができます。
【図表1】を見ると、6月までにかかる時間は、下段の「累計」のほうにあるとおり、100時間と計画していたことが分かります。ところが、実際には121時間かかってしまっており、21時間の超過となっていることが分かります。計画にもあるとおり、7月以降にもまだまだ業務は続いていきますが、今の調子のまま業務を続けていくとどうなるでしょう。さらに実績時間の超過が膨らんでいくおそれが十分にあります。このような状況が当該業務の終盤の2月とか3月に分かってもどうしようもありませんが、もし6月の段階でこの問題に気付けば7月以降に挽回することができるかもしれません。この意味で、月別に計画を設定して実績と比較できるようにしておくことが有用なのです。
②分析の効率を上げるための仕組み
タイムシートで実績時間のデータをとったとしても何らかのモノサシと比較して判断しないと問題のありそうな箇所を見落としてしまいます。このモノサシの一つとして前回紹介したのが「計画値」でしたが、上記「①分析のタイミングを遅らせない仕組み」で挙げたように毎月定期的に分析するのは手間もかかります。その効率を上げるために何が有効かというと、計画値と実績値を比較する場合の「判断基準」を設定しておくことです。例えば、「計画時間を何%以上超過している場合」とか、「計画時間を何時間以上超過している場合」といった具合に判断基準を設定し、これに該当する業務(【シーン1】では監査先)をピックアップするのです。もっとも実績時間自体が少ない場合は影響が小さいので、前述の基準に「実績時間が何時間以上」といった基準を追加したほうが良いかもしれません。つまり、「実績時間が何時間以上、かつ、計画時間を何%以上(or何時間以上)超過している場合」といった具合です。
もし、対象業務がたくさんある場合には、予め定めた判断基準に該当するものが発生したときに自動的にアラート(警告)が出るようシステムの設定をしておくことで、基準に該当して問題がありそうな案件を効率的にピックアップしてくれるので、見落とさずに済みます。
以上説明してきましたタイムリーかつ効率的に分析するための仕組みを考慮した結果、【シーン1】で描いたX監査法人では次のような見直しをすることになりました。
【シーン2】
X監査法人では、「実績時間が何時間以上、かつ、計画時間を何%以上超過している場合」という一定の基準を定め、タイムシート集計のタイミングに合わせて、各監査先の業務について、当該基準に該当していないかをチェックすることにしました。その際、基準に引っかかった監査先についてはアラートが出るようにしました。
その結果、タイムリーかつ効率的に分析をすることができるようになったのです。
その結果、タイムリーかつ効率的に分析をすることができるようになったのです。
3.実績時間をタイムリーかつ効率的に分析できるようにしよう
人の生産性アップにつながる原価管理の仕組み作りのうち、1回目では「実績時間の把握」を、2回目では「実績時間の分析」を、そして3回目となる今回は、「実績時間の分析」のうち「タイムリーかつ効率的に分析するための仕組み」について、例を挙げながら説明しました。今後、原価管理の仕組み作りを検討する上での参考にしていただければ幸いです。
(提供:税経システム研究所)