「どうしたの、渋い顔をして」と、営業部の吉田経男が入ってきた。
「いいですよね、吉田さんは悩みがなくて」
「何ですか、また悩み?」と、吉田は理子が見ているパソコン画面を覗き込む。
「フィンテック?何それ」
「フィンテック?何それ」
「知らないの?営業のくせに情報感度鈍すぎです。フィンテックは、金融を意味するFinance(ファイナンス)とTechnology(テクノロジー)を組み合わせた造語で、その名の通り、テクノロジーによって新しいサービスや会社がどんどん生まれていて、金融業界が大変革を迎えているの」
「それと、理子ちゃんの悩みとどう関係あるのよ」と、吉田は要領を得ない。
憂鬱な表情でうつむく理子。
「ハァ〜、将来経理という職業はなくなっちゃうのかなあ」
「ハァ〜、将来経理という職業はなくなっちゃうのかなあ」
と、その時、どこからともなく重厚な太鼓が鳴り響き、鬱蒼とした霧に包まれた仙人が舞い降りてきた。
「わしは経理の揉め事を解決するためにこの世につかわされた身。その名を『会計仙人』と申す。かつては、仏陀の会計担当として名を馳せた男よ」といつものように会計仙人が現れた。
「珍しく悩んでいるようじゃのぉ」
「フィンテックの進展で、将来的には経理業務はなくなるのかなと思って。転職した方がいいかと、けっこうマジに悩んでいるんです」
「相変わらず見識が甘いのぉ」と、呆れ顔の会計仙人である。
「よいか、テクノロジーの影響を受けているのはどの業界も同じじゃ。金融業界は法規制が厚くてテクノロジーの進展が遅れていたのじゃが、ここへ来て一気に法改正が行われるなど、本格的な波が到来しておる」
「よいか、テクノロジーの影響を受けているのはどの業界も同じじゃ。金融業界は法規制が厚くてテクノロジーの進展が遅れていたのじゃが、ここへ来て一気に法改正が行われるなど、本格的な波が到来しておる」
「やっぱり、IT化が進むと経理の仕事はなくなるの?」
浮かない顔の理子である。パソコンの画面にはフィンテックの特集記事。テクノロジーに奪われる金融系職業が列挙されている。銀行の融資担当、保険の審査担当、クレジットカードの審査担当、簿記・会計・監査の担当、税理士・・・。